売上高に占める研究開発費はわずか0.8%----。情報処理推進機構(IPA)が11月29日に発表した「情報処理産業経営実態調査」から浮かぶ上がった日本のITサービス会社の姿である。この経営実態から日本のITサービス会社の明日の姿は見えてこない。

 この調査は28回目になるものの、ITサービス産業の構造に大きな変化は見られていないという。ソフト開発における多段構造は温存されたままなので、売り上げを伸ばすには外注を含めて開発要員を増やすしかない。また、増益を図るには原価低減、つまり売り上げの6割近くを占める外注費を含めた人件費を削減するしかないのだ。

 今回の調査結果では、外注費は4.2%、人件費は2.5%とそれぞれ増加しているものの、売上高の伸び率は0.8%増と鈍化。ちなみに03年度、04年度はともに2.7%と微増にとどまっている。大手ITサービス会社が外注比率を高めることで、売上高を10%前後伸ばしているのに対して、実態調査の主な対象とみられる中堅・中小企業が横ばいなのは人月単価の下落が影響しているのだろう。大手が中国企業などへのオフシェア開発を急増させていることなどが理由となり、大手と中堅・中小との売り上げ格差は一段と広がっていくと見られる。

 一方、経常利益率は04年度の4.2%から05年度は5.1%と改善を図っている。経常利益が前年度比で22.6%も伸びたのは、「仕入れ原価を8.8%削減したのが大きな要因だ」と、IPAは説明する。アウトソーシングなどを手掛ける情報処理サービス会社は仕入れを3.2%増やしているのに対して、ソフト開発を中心に展開するソフトサービス会社は仕入れ原価を17.4%も減らしている。ソフトサービス会社がハード/ソフトをそんなに仕入れているのかは疑問だが、1つ考えられることは自社で購入するハードやソフトを抑え、請負から派遣に切り替えたのかもしれない。

 しかも、ソフトサービス会社は外注費7.1%、人件費2.1%とそれぞれ増やしたのに、売上高は1.5%増と横ばい。ここからも人月単価の下落を請負型から派遣型への切り替えで乗り切るような姿が見えてくる。使用するオフィス面積を減らした可能性もある。

 将来投資である研究開発費は1社当たり3100万円、売上高の1%未満である。しかも教育費もほとんどかけていない。この調査で教育費の実態は分からないが、これまでの取材から推測すれば技術教育などに1人当たり年間1週間にも満たないだろう。このような投資で明日の種を発掘できるとは到底思えないし、人月の世界からの脱却も難しいだろう。

 そこで、IPAは開発生産性を高めるためにエンジニアリング手法の導入や人材育成の手順を示しているが、中小が採用できるようなものになっているのだろうか。生産性が2倍も3倍も向上できるのだろうか。

 それよりも下請け構造になっているソフト開発の現状を打破する仕組みこそ求められているのではないか。単純な人月ベースのソフト開発から脱却する道筋を示すことが最優先課題だと思う。そのためには、IPAはITサービス会社のより正確な実態をつかむ必要があるだろう。