11月25日に,CANPAN(カンパン)ブログ大賞2006の入賞作発表と,受賞者によるパネルディスカッションが開催されました。10月11日のコラムでもご案内した通り,CANPANブログは日本財団が提供する,公益目的の無料ブログサービスです。CANPANブログ大賞2006では,このブログサービスを使って発信している900を超える団体・個人の中から,3つのブログが入賞作として選ばれました。

 これは,読むと元気になる記事,世界を和ませるブログを表彰しPRすることで,多くの人に草の根の公益活動の数々を知っていただこう,応援していただこうという,初めての試みでした。

【CANPANブログ大賞】
NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス「チャイルドケモハウスのブログ
【CANPAN団体ブログ賞】
鹿児島県南大隅町立大泊小学校「佐多岬ウォータージュニア
【CANPAN個人ブログ賞】
エコアパート・プロジェクトチーム「畑がついてるエコアパートをつくろう

 光栄なことに,この意義深い賞の審査委員長と,表彰式のパネルディスカッションの司会を務めることになりました。そこで,多くのノミネート作品と,審査委員の方々のご意見やご要望に触れる好機を得ました。さらに受賞3作品のリーダーから,直接,熱い想いを聴くこともできたのです。

 そして,ブログ時代の大切な主役が,公益目的で情報発信をする非営利団体,それも小規模組織の個人であることを再認識したのです。

審査委員会でお願いした3つの選考基準

 このブログ大賞の審査は,当初から紛糾することが予想されました。

 民間企業の「受注やPR目的のホームページ大賞」ならば,目的がはっきりしていて審査も客観的に行いやすいのです。しかし今回は,公益という大きな目的こそ似通っていても,応募ブログはジャンルもテーマも個別目標も百花繚乱でした。ブログとは何か,ブログで何ができるか…,誰もがまだ試行錯誤の状態だと言えましょう。

 しかも,20人もの審査員の先生方は,専門がそれぞれ異なる大学教授,新聞記者,編集者,コンサルタント,NPO関係者…,おそらく関心も視点も異なるはずです。

 そこで,私は審査委員会で,3つの審査基準を提言させていただきました。

◎1.思わず家族にも読ませたくなる

 ブログの記事を見て,自分の大切な家族,例えばわが子にも読んでもらいたいと思うかは重要です。

 昨今は,新聞・雑誌・テレビを見れば,目を覆いたくなるニュースばかりが報道されており,子供には見せなくないと思う方も多いでしょう。こんな情報に毎日晒(さら)されていては,現状を悲観して,将来に希望を持てなくなるのが関の山です。

 マスメディアでは報道されない記事,その人の夢や志を感じる記事,元気や勇気を与えてくれる記事ならば,家族にも読ませたくなるでしょう。

◎2.思わず自分も書きたくなる

 ブログは読んだらおしまいという一方通行で受身のメディアではありません。誰もが,自ら発信する等身大のメディアなのです。

 既にブログに慣れ親しんでいる方なら,感動的な記事に出会ったら,ご自身のブログでも紹介したくなるはずです。そして,その紹介ブログを読んだ人もさらにブログを書いて,ネットコミを広げてくれるかもしれません。

 また,ブログ大賞の記事をきっかけに,自分もブログを書こうと思う人が増えたとしたら,さらに素晴らしいことです。

◎3.思わず応援したくなる

 ブログで感動的なプロジェクトや,日本の将来を変えるような活動に触れたら,それを応援したくなるはずです。

 応援の方法も様々です。少額でも良いから寄付をすることもできるでしょう。また,そのブログ経由で商品を購入して販売手数料収入で応援するアフィリエイト・プログラムも,今後は広まるでしょう。いずれCANPANブログにも,簡単に少額寄付やアフィリエイトの機能が組み込まれるかもしれません。

 ブロガーであれば,その活動を自分のブログで広めたり,応援のコメントやトラックバックを寄せることでしょう。

 この3つの基準に基づいて,審査委員の方々には,ブログを客観的・論理的に評価するのではなく,あくまでもご本人の個人的な感情や直感に基づいて選んでいただくようお願いしたのです。

紛糾した審査委員会でわかったこと

 しかし,こうした3つの基準があっても,予想通り審査委員会は紛糾いたしました。

 審査委員の先生が推薦するブログの票は大きく割れました。それどころか,ある審査委員が推薦したブログが,お隣の審査委員からはまったく評価されないということさえありました。

 これは,決して悪いことではないと考えます。よく言えば,金子みすヾの詩にありますように「みんな違って みんないい」。ブログは,十人十色の多種多様な価値観を包み込むメディアだと再認識したのです。

 そして,秩序だった団体ブログよりも 各人が好き勝手に情報発信する個人ブログの方が総じて高い評価を得ました。理性的な「情報・知識の発信」よりも,感性に訴え心に響く「想いの放電」の方が支持を集めたのです。

 また高尚な理念を声高に叫ばれるよりも,身近な日常を通じた現実的で等身大の記事の方が評価されたのも印象的でした。その表現方法も,文字中心で書かれるよりも,写真中心で読みやすく書かれる方が好まれました。

 これは,ホームページとブログに求められるものが異なることの証左だと思いました。

 これからは,おそらく団体の案内や活動報告といった公式な情報発信はホームページで,そして各人の思いはブログで発信するようになるかもしれません。ブログは,一人ひとりが身近な日常を通じて,その喜怒哀楽を自然体で発信するのにふさわしいメディアなのです。

CANPANブログ大賞 3つの入賞作

 侃侃諤々(かんかんがくがく)の審査委員会の中で,今回選ばれた3つのブログは,いずれも共感せずにはいられないものでした。そして,代表者の方々のお話を,パネルディスカッションでお聴きして,さらに応援したくなったのです。

◎CANPANブログ大賞

NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス
チャイルドケモハウスのブログ

 このブログは,小児ガンと闘病する親子にとって理想的な病院を作ろうという提言をしています。実際に,お子さんが小児ガンと宣告され克服した経験を持つご夫婦が中心となり,賛同してくださったお医者さんや看護師さんと,リレーブログの形式で発信されています。

 私も,小さな子供を持つ親のひとりとして「自分ならばどうするだろう?」と真剣に読ませていただきました。また,子供にも読ませたいと思いました。そして,家族で「家族について話し合う」機会になると考えました。

 その上で,心からのコメントを通じて,ささやかながら寄付などを通じて,手を差し伸べたくなります。だからこそ,この医療施設は実現するのではないかと直感いたしました。

 実際に,パネルディスカッションでは,既に寄付が集まってきているというお話を伺いました。そして,会場に集まったみなさんに「チャイルドケモハウスの夢は実現すると思いますか?」とお尋ねしますと,多くの方が手を上げてくださったのです。

◎CANPAN団体ブログ賞

鹿児島県南大隅町立大泊小学校
佐多岬ウォータージュニア

 このブログは,九州最南端,鹿児島空港からクルマで3時間の場所にある大泊小学校から発信されています。生徒は18人。子供たちを育んでいる「物語」を,笑顔と一緒に,先生方が綴(つづ)っています。

 新聞・雑誌・テレビで,毎日のように「いじめ」のニュースが繰り返される中で,思わず笑顔が浮かんで,ほっといたしました。穏やかで和やかな学校風景が残っていたのです。

 このブログも子供にぜひ読ませたい。そしていつか訪ねたい。本当の豊かさは,昔ながらの日本的生活は,都会ではなく地方にありそうです。国内の交換留学制度などに発展すれば,都会も地方も活性化しそうです。

 パネルディスカッションでも,先生のお人柄と学校のほのぼのとした様子が伝わってきて嬉しくなりました。今後は,他の学校とのリンクを広げていくそうで,展開が今から楽しみです。

◎CANPAN個人ブログ賞

エコアパート・プロジェクトチーム
畑がついてるエコアパートをつくろう

 畑がついた「エコアパートをつくろう」という提言をしながら,実際に古いアパートを改築するプロジェクトを実況報告しているブログです。足立グリーンプロジェクトという地域緑化のNPO(非営利組織)を運営しているリーダーが,父親が所有するアパートの改築を期に,親しい建築家と立ち上げたプロジェクトです。

 私もこんな住まいで新しい暮らしを始めたいと感じました。早起きして自宅前の畑に行く。ご近所さんとあいさつをする。収穫物を交換する。朝採りの野菜を食べて出勤。

 話題の通勤圏,常磐新線沿いの物件ですから,放っておけば,全国共通の街並みになるでしょう。そんな中でエコアパートが注目されて,ディベロッパーが真似して作り始めれば,この沿線は緑と笑顔に覆われていきそうです。

 パネルディスカッションでは,実際に建築模型をご披露しながら熱く語られました。そして,会場からも熱い支持が得られたのです。

CANPANブログ大賞 今後の展開に期待!

 初めてづくしで試行錯誤のCANPANブログ大賞でしたが,今後の展開に大いに期待しております。

◎記事の情熱×記事量と表現力が向上する

 ブログ大賞の入賞作ノミネート作や,選考委員のコメントなどを通じて,CANPANブログに参加する方々の記事に対する情熱も高まるでしょう。記事の量も表現力も向上することは間違いありません。ますます多種多様なブログが生まれるはずです。

◎応援のコメント・トラックバックが集まる

 公益ブログには,応援の声も集まりやすいと考えます。まだCANPANブロガーにはブログ上での交流に慣れていない方が多いようです。ぜひ,当コラム読者のみなさまからも,今回の入賞ブログに熱いコメントやトラックバックを寄せていただければ励みになるはずです。

◎マスメディアにも注目されて取材される

 ネット検索で取材先を探すことが新しい常識になる中で,今後CANPANブロガーの各サイトがマスメディアに注目されていくことは間違いないでしょう。現に,審査委員の中には,新聞記者の方もいらっしゃいましたが,その内容に感銘を受けていらっしゃいました

◎記事をもとに本が出版される

 ブログ発の出版物がベストセラーになることは,今や珍しいことではありません。出版関係の審査委員の方の眼に留まったブログもあったようです。公益法人などの活動が本になれば,どんな案内資料やパンフレットよりも効果的なPR手段になるでしょう。

◎個人の少額寄付や支援が集まる

 こうして,マスメディアからの注目も集まり,アクセスが増えることで,公益ブロガーに対する支援や寄付も集まりやすくなることでしょう。いずれCANPANブログに少額寄付やアフィリエイトの仕組みが完備されれば,賛同した個人は気軽に応援することができます。

◎企業のCSR活動とも連動できる

 一方で,日本財団は,東証一部上場企業のCSR(企業の社会的責任)活動を評価し伝えるCANPAN CSRプラスも推進しています。そこで積極的に情報発信をしている社会貢献に熱心な企業が,CANPANブロガーを応援してくださる可能性も高いはずです。

◎企業と共同開発の商品で共存共栄

 さらに,CANPANブロガーが提案した商品やサービスのアイディアを,CSRプラス参加企業が開発してビジネスにするというコラボレーションが考えられます。そうすれば,営利・非営利といった旧来の壁を超えて共存共栄が図れることになります。

 まだ,最初の一歩かもしれませんが,CANPANブロガーが語った夢が実現する可能性は十分に感じることができました。国や地方自治体財政が厳しい中,価値観が多様化する中で,かゆいところに手が届く公益サービスが充実するための,新しいインフラが誕生する瞬間に立ち会うことができたと感じたのです。