11月27日に,「デザイン普及啓発セミナー」(東京都の委託で(財)東京都中小企業振興公社が開催)で講師をつとめさせていただきました。講演タイトルは「引きつけるデザイン,伝わるデザイン」。中小企業の経営者に向けて,デザインのお話しをしてほしいという依頼があったのです。約2時間近くお話しさせていただきました。

 100枚以上のスライドを作ったのですが,実は完成したのが当日の講演2時間前で,ほとんどぶっつけ本番だったという,今から思うとなんとも冷や汗ものの状況でした。

 今後このブログでは,そのセミナーで使用した図版なども使用して,経営に視覚伝達デザイン(グラフィックデザイン)をどのように役立てるべきなのかを説明していきたいと思います。セミナーでお話しできなかったことも補足しますので,セミナーに参加していただいた方もきっと役立つと思います。

良い商品やサービスをどう販売するか

 ところで,これまで東京都のデザインセミナーは,主に工業デザインをテーマに開かれてきたようです。東京都中小企業振興公社の作成した「デザイナー活用ガイド」という小冊子が配布されていますが,これも,商品開発のためのデザインに限っての内容です。

 つまり「良い商品を作りましょう,良いデザインにすれば売れますよ」ということで,中小企業はもっとデザイナーを活用して,商品に付加価値を付けてください,という啓蒙をしているのです。

 確かに,これは大切なことです。中小企業のような小規模の会社では,技術があっても商財に魅力がなければ売れません。しかし逆に,「商財に魅力を付けられれば売れるようになるから,商品のデザインに力を入れましょう」と言っているようにも聞こえます。なぜなら,ここで言われるデザインというのは,工業デザインのことしか指していないからです。次の段階,つまり「良い商品,良いサービスをどのようにして販売していくか」という部分には全く触れられていません。

 しかし考えてみてください。たとえ商品やサービスが良くても,その商品を広く知らしめなければ,消費者は気づかず,まして売れることもありません。大企業は販促に資本を投資できますが,中小企業は大規模な販促は難しい現状です。そして何より,「良い商品,サービス」は,世の中にあふれかえっているということを認識しなければなりません。

 つまり,現代では「売り方」が重要になってくるのです。上図にあるような「良い商品,良いサービス」の海の中でどうやって自社の商品を売っていくかが「課題」なのです(もちろん,どんなに売り方が良くても商品が粗悪品ではお話しになりませんが…)。

 人は,商品を買う前では,その商品が「良い」のか「悪い」のかわかりません。食品であれば,食べてみてはじめて「おいしい」「まずい」を感じるのであって,試食してみなければわからないのです。

 言い換えれば,人は「良さそう」と思ってモノを買っているのです。当たり前のように思われますが,私たちは「この商品は良さそうだなあ」と思わせてくれるテクニックにはまってしまうと,コロリとお財布を開いてしまうのです。

 例えば,自社の商品に対して,自己評価を満点に近い95点と感じているとしましょう。伝え方が悪いと,お客様は30点くらいしか感じてくれません。50点くらいに感じていただいた場合でも,じゃあ,50点くらいの商品が売れるかというと,他社の製品と比較されているでしょうから,負けてしまいます。80点以上に感じてもらわないと買ってくれないでしょう。

 面白いのは,伝え方が上手いと自己評価以上の120点に感じてもらえる,ということです。逆に恐ろしいのは,売り方がうまければ,粗悪品でも売れてしまうということなのです。つまり,人が「良さそう」と思ってしまうのは,情報の受け取り方に左右されるというわけです。

 では,情報を与える側はどのようなポイントを押さえておくべきなのか。次回は,そのあたりをお話ししましょう。