ワーク・ライフバランス 代表取締役社長
小室淑恵氏

 育児と仕事を両立し,安心して働ける日本をつくりたい──。これは,大学卒業以来ずっと考えていた私の人生のテーマです。それを実現したいという思いから,育児休業者や介護休業者,私傷病休業者などの復帰を支援するサービスarmo(アルモ)を開発し,今年7月にワーク・ライフバランスというベンチャー企業を立ち上げました。

 その名のとおり,私の会社ではワークライフバランスに関するコンサルティング,保育所・託児所関連事業などを手掛けています。今年,長男を出産した私自身もまた,コンサルタントとして働きながら,家庭を営むというワークライフバランスを実践している1人です。

人生を変えた「猪口先生との出会い」

 今でこそ仕事と子育てを両立し,ワーキングマザーとして忙しい毎日を過ごしていますが,大学3年までの私は「女性は結婚して家庭に入るのが一番。腰掛け就職でもして,寿退社しよう」と考えていました。専業主婦願望が強いフリをしていましたが,実は「男性中心の社会で働いても絶対に不利。わざわざ負け戦に出て行くのは傷つくから嫌だ」と心の底では思っていたのです。

 こんな私の考えは,猪口邦子さんの講演を聴いた時に大きく変わりました。私が通っていた日本女子大学に猪口先生が講演にいらした時のこと,最初は会場の一番後ろの席で,ぼんやりと聞いていたのですが「みなさん,女子大は就職に不利だと思っているでしょう。これからは女子大の卒業生であることが,社会でアドバンテージを取れる時代になるのよ」――この一言で,私の眠気はどこかに吹き飛んでしまいました。

 なぜ,女子大卒の私たちが有利なのか。猪口先生はその理由を次のように説明されました。「今後,女性の社会進出が進んでくれば,企業は働きながら子育てをする女性をターゲットとした新しい製品やサービスのアイディアを必要とするようになってくる。そうなると,あなた達がそれぞれ別の企業に就職しても,女子大で培ったネットワークを利用してコラボレーションし,いい仕事ができるでしょうね」。

 「女子大卒は不利じゃなくてむしろ有利なの?それなら私も活躍してみたい!」。こうして猪口先生の言葉に導かれるように,私はキャリアの道を歩むことになったのです。

「人生を変えたい」の一念で米国へ

 しかし専業主婦志向だった私は,それまで仕事について真剣に考えたり準備をしたりしてきませんでした。こんな私がいきなり就職活動をしても上手くいくわけがないと思い,これまでの価値観を根本から見直したかった私は,米国に行こうと考えました。「思い立ったが吉日」ではありませんが,1年間休学して米国に渡ることにしたのです。猪口先生の講義を聴いてから,わずか数カ月後のことでした。

 突然の渡米だったので十分準備ができていたわけではなく,持参したお金は3カ月で底をついてしまいました。そこで住み込みのベビーシッターをすることにしました。子供は大好きだったし,特別な技術がなくてもできるアルバイトだと思ったのです。あちこちに張り紙をした結果,証券会社の優秀なアナリストで,30代後半のシングルマザーであるスザーンに雇ってもらいました。