事務代行などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の機能を備えたASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)事業を展開するイーサポートリンクの業績が好調に推移している。年商50億円弱の中堅ITサービス会社だが、06年8月には大証ヘラクレスに上場を果たした。同社のサービスは、約60億円を投資して開発した生鮮青果物向け流通システムで、小規模な生産者や小売店などにも利用しやすいように従量課金制にしている点が特徴だ。

 イーサポートリンクの堀内信介社長は長年、青果物流通市場に携わり、生産者から小売店までサプライチェーンで結ぶ統合システムの必要性を強く感じていた。流通を効率化できれば、小規模な生産者の事業拡大に貢献でき、野菜作りをより魅力あるビジネスにできると思ったからだという。

  ただし、野菜など青果物の流通を情報システムで管理することは難しいとされている。例えばキャベツなど野菜の産地は季節の変動とともに移り変わっていくし、千葉県や埼玉県など各産地から同時に出荷されてくる。サイズもいろいろだし、小売店の店頭に並べる段階にはキャベルを半分に切るという加工もされる。産地や等級、さらに有機栽培などの作り方などの属性情報は40種類以上にわたり、価格も天候などに影響されて毎日変わる。テレビなど工業製品のような一定の規格はないので、統一された商品コードもないという。

 生産者も流通事業者も小規模から大規模まで様々な形態がある。中央卸売市場や農協など中間流通業者も存在する。堀内氏によれば、こうした複雑な流通過程すべてをカバーしたシステムはなかったという。そこで、イーサポートリンクは生産者や流通の実態を取り込みながら、受発注から入出荷、入金・支払いなどの機能をシステム化しようと考えた、そのシステム開発投資には少なくとも60億円が必要なことが分かったが、償却にはこのシステム上で取引されるビジネス規模で約2000億円は欲しい。「一体何件の顧客を獲得すればいいのだろう」(堀内氏)。

 ここが開発に踏み切れない理由の1つだったが、イーサポートリンクに幸運が訪れた。米ドールなど海外生産者大手3社が、このシステムの活用に前向きになったことだ。さらに加工業者や物流業者、輸送業者、システム開発会社、金融機関なども仕組みに賛同し、約30億円の資本金を集めることができた。

 休眠会社を活用する形でイーサポートリンクは2000年11月に事業を開始するが、この資金作りに1年をかけ、そして要件定義にも1年の歳月をかけた。生産者から中間流通までのフェーズごとにサービスメニューを用意する必要があったからだ。その数は24本で、2002年にサービスを開始した。

 同時に、BPOサービスも開始する。小売店の販売計画と生産者の供給計画をマッチングさせるというビジネスである。例えば小売店がMサイズのトマト1000個を要求しても、雨が降ったのでSサイズしか収穫できなかったということが起こるだろう。天候不順で予定された産地からの出荷がないということもありえる。しかし、欠品を許されない小売店は別の産地から供給することを求める。流通業者はこうした作業をすべて人手に頼っているので、「現場はいつもパニック状態」(堀内氏)になっている。イーサポートリンクはこうした事務処理をBPOで請け負う。可能な限りシステム化するのだが、完全自動化はできないので、イーサポートリンクはASPとBPOを組み合わせたわけだ。

次の目標はXML-EDI

 青果物流通システムの減価償却が2008年11月期に終われば、イーサポートリンクの経営は安定するという。そこで、新たな目標達成に向けて動き始めた。約5兆円と言われている生鮮食品の国内市場(卸段階)におけるシステムの売買金額シェアを、今の5%から30%に引き上げることだ。その実現のカギを握るのが、国際標準でもあるXML-EDI(拡張マークアップ言語による電子データ交換)に基づいた青果物受発注システムだ。

 経済産業省が実証実験にも取り組むXML-EDIだが、普及させる最大のカギは小規模生産者の活用にあると見られている。しかし、「チェーンストアだけのために、小規模生産者がある季節に短期間しか使わないEDIシステムに数百万円かけて導入しない」(堀内氏)だろう。

 そこで、生産者が必要な時期だけ使って、使った分をだけを支払うASPにすることにした。イーサポートリンクは約20億円を投資し、早ければ07年5月にもサービスを開始する。ここでもBPOサービスを組み合わせ、専任要員を抱えていない小規模生産者に代わって、売り掛け回収など手間のかかる作業を引き受ける。チェーンストア側は小規模生産者との取引を増やせれば、調達能力を高める。

 大手小売店が次々に参画すれば、システム上の取引を急増するし、国内の青果物流通における基幹、いわば社会インフラとして発展するかもしれない。堀内社長が描く壮大な夢は、いま始まったばかりだ。

注)本コラムは日経ソリューションビジネス06年11月15日号「深層波」に加筆したものです。