第一線のSEがしっかりした仕事をするためには,SE同士の信頼関係やチームワークは言うまでもないが,顧客や営業との良い関係も不可欠である。

 顧客から「あのSEは頼りになる」とか,営業から「あのSEがいて我々は助かる」などと評されるくらいの良い関係になると,自ずと仕事は上手く行く。その上,お世辞半分でもそんなことを言われるとSEは意気に感じ,生き生きと前向きに働けるものだ。これには読者の多くの方も異論はないと思う。従って,第一線のSEは決して顧客や営業から「あのSEは何を考えているのかよく分からない」などと批判的に見られないことが肝要だ。

 だが,現実はどうか。

 心あるSEマネジャやSEの方は怒るかも知れないが,SEが日頃当然のようにやっていることの中には,顧客や営業など他のビジネス人から見ると理解できないことが少なくない。あえて言えば「SEの常識は,顧客や営業などSE以外のビジネス人からみると非常識なことが多い」と言える。

 例えば,顧客や営業の言う通りにする。ビジネスに関心を持たない。売上目標を知らない。アプリケーションに興味を示さない。他の人とすぐ仕事の壁を作る,などである。

 案外SEの方々は気が付いていないかも知れないが、営業や顧客の方々はそんなSEの姿を見て「SEはなぜそうなのだろう?何を考えているのか理解に苦しむ」と思っているものだ。

 もちろん,そうでないSEマネジャやSEもいる。だがそんな人はそう多くはない。読者のまわりのSEの方はどうだろうか。

「顧客の言うとおりにする」「ビジネス目標を知らない」などは非常識

 下段の表を見ていただきたい。この15項目は以前筆者が拙書「SEを極める」で書いた“SEの常識”の例である。

SE以外のビジネスマンから見た“SEの常識”

(1)  顧客や営業担当者が言う通りに仕事をする
(2)  売上額や利益などビジネス目標を知らない
(3)  顧客やビジネスより情報技術(IT)を優先する
(4)  「ITに強いSEが優秀なSE」と考えている
(5)  SEマネジャは特定の顧客だけ訪問する。また現場のSEは担当顧客の部課長と話をしない
(6)  「顧客の担当者よりITをよく知っていれば顧客から信頼される」と思っている
(7)  プロジェクトで自分の受注した範囲は考えるが,顧客の担当範囲まで考えない
(8)  ソフトなどのトラブルは解決に時間がかかっても自分で直そうとする
(9)  データベース担当がネットワークの基本を知らないなど自分の担当外のことを知らない
(10) 相手のIT理解度に関係なくIT用語を使って話す
(11) 顧客の業界の動向やアプリケーションを知ろうとしない
(12) 「これは自分の仕事,これは○○の仕事」とすぐ他の人と仕事の壁を作る
(13) 会議などで自分の意見をなかなか言わない
(14) 分かりやすい資料を作ろうとしない
(15) プロジェクトで問題が起こると往々に「注文を取った営業担当者が悪い」と言う

 読者の方々により理解していただくために1,2の項目を説明する。

 まず,(1)の「営業や顧客の言う通りに仕事をする」は,「多くのSEは営業や顧客の言う通りに仕事をするのが当たり前。それは常識だと思っているが,顧客や営業は決してそうは思っていないよ。彼らは技術上間違っていれば指摘してくれ,もっと良い方策があれば言ってくれと考えているのだよ」という意味である。

 (8)の「ソフトなどのトラブルは解決に時間がかかっても自分で直そうとする」は,「SEは自分は技術屋だからトラブルは自分で直せないと恥だ,自分で直すのがSEの常識だと思っているが,顧客はそうは思っていないよ。顧客は自分で直せなければ強いSEを呼んで一刻でも早く直してほしい。直せないのに時間ばかりかけて貰っては困ると考えているんだよ」という意味である。

 他の項目も同様に見てほしい。他にも以前述べた「挨拶をしない」など多々ある。いずれにしても,これらの項目についてはSEの方は気が付いていないかも知れないが,顧客や営業は「SEはなぜそうなのだろうか?。なぜそう考えるのだろうか?。良く分からん。技術屋は変わっているなあ」と思っているのである。

SE職種以外の人に聞いてみる

 異論のあるSEの方もいるかも知れないが,ぜひこの機会に,自分の考えがSE職種以外の人のから見て常識的か非常識か,親しい顧客の方や学生時代の親しい友達に聞くなどして再点検してみてほしい。そして「なるほど」と思ったらぜひ「自分のSEの常識」を考え直し軌道修正してほしい。また、SEマネジャの方はぜひ部下のSEの方々を指導して欲しい。

 いずれにしても“SEの常識”が“顧客や営業の非常識”である限り,なかなか顧客や営業との信頼関係は築けない。すると関係がギクシャクしてうまく行かない。これが今日の一言である。

 こう書くと読者の中には「今は時代が違う。馬場さんは現実を知らない。今は営業が弱いし,顧客と壁を作らないと仕事ばかり増える」などと反論する人もいると思う。それに対して筆者は別に反論はしない。ただ,それでシステム開発や提案活動が上手く行きSEの方々が生き生きとは働け成長できればそれにこしたことはない。次回は,なぜ,SEは“SEの常識”のように考えるのか。そのあたりを考えてみたい。