Tさんは、いろいろな部署や協力会社のひとたちの混成チームのリーダーです。「メンバーには年長の方々も多いし大変ですよ」など言いながらも、Tさんはメンバーからの信頼も厚く、チームとしての成果も上がっているようです。

 複数の部署や会社のメンバーの混成チームで仕事をすることが、IT業界では多くみられますが、そこでのリーダーは何が大変かということでよく耳にするのは、職務上の権限を行使できないことです。権限というのは、予算など資源の配分とともに、チームメンバーに対する評価権や人事権ということで、なにもメンバーの人事評価をしたいということではなく、それがないとメンバーは言うことを聞いてくれないというものです。確かにそういう側面もあるかもしれませんね。

自然発生型のリーダー

 一口にリーダーといっても、どのようにしてリーダーになったかによって、メンバーのついていき方が異なるという説がありますね。ひとつは、部長とか課長のように会社によって任命されたひと(メンバーが選んだわけではない)。このひとたちの指示に従うのは、もちろんリーダーとしてついていきたくなる魅力がある場合もありますが、彼らが権限を行使するときに不利益を被る不安があるので、従わざるをえないという要素が含まれるかもしれません。もうひとつは、メンバーによって選ばれたリーダー。例えば、部活動の部長などを互選で投票して決めるようなことがありますよね。この場合は、少なくとも投票したひとは、このひとについていこうと思っていますね。

 そして3つ目として注目なのが、自然に発生するリーダー。地震や火事(システムトラブルもそうかもしれません)のような緊急事態に、役職などに関係なく、その場の誰かが状況を判断して方向を示し、周囲のひとたちがそれに従って動いたとすれば、そこにはリーダーシップが存在しています。Tさんの場合は、権限による圧力を行使することなく、メンバーがついてきているわけですから、これに近いリーダーシップがメンバーとの間にあるのでしょうね。(リーダーシップは、リーダーの中にだけあるのでなく、リーダーとメンバーとの間に生じるものという説にわたしは共感します)

ついていきたくなるリーダー

 ところで、リーダーシップは影響力だといわれますよね。その影響力にも、(1)リーダーに従わせるための影響力と、(2)メンバーたちの課題に取り組むようにもっていくための影響力 があるそうです。(1)の場合は、リーダーだけが何かを考えて決める人で、メンバーは受動的に従うだけのひとという面があります。一方、(2)の場合は、メンバーが自分たちの課題だと内側から思えるようにリーダーが動き、同時にメンバーは、その課題が自分たちのものであると思える場合に、能動的にその実現に向けて動き出します。メンバーとしてみれば、(1)は「やらされ感」が強く、(2)は「自分でやっている感」をもちやすいように思われます。

 また、(1)の場合ですと、リーダーは全てにおいてメンバーよりも秀でていなければならないような、或いは何らかの圧力をかけなければならないような感じがします。(2)の場合は、メンバーが自分事として動き出すので、リーダーに不足してところがあればメンバーが能動的に補足することになり、必ずしもリーダーが万能であるとか権力をもたなくてもよいでしょう。また、おかしいと思うことがあれば、メンバーは余計な心配をせずにリーダーに申し出ることができるので、リーダーの勘違いによる暴走を避けることができます。

上位職やネットワークへの影響力も

 そういえばTさんも、チームとして目指していることや、それが実現されるとどのようないいことがあるかを具体的に語るのと同時に、別の部署や協力会社の、若手やベテランメンバーのアイディアに耳を傾けたり、素直に力を借りたり、思い切って任せたりしながら、チーム全体の仕事をうまく進めているようです。チームのメンバーにお聞きすると、次のような点からもTさんを信頼できるのだと教えてくださりました。

  • いつでも気さくに、相談事や意見を聞く
  • 権限をもっている職位のひとに働きかけて、アイディアや意見を実現に導く
  • 上位からの指示におかしいことがあれば、率直にそのことを議論しにいく
  • アイディアや力が足りないときは、社内外の個人的なネットワークにも支援を求める
  • 誠実な人柄を通じて、普段から多様なネットワーク(人脈)を形成している

     それに何よりも、周囲を動かすだけでなく、Tさん自らがなんとかしようという姿勢が、常に感じられるということでした。

     Tさんは、役職者でなく権限もありませんが、メンバーがついてきてチームとして目指していることを実現できている理由が、そのあたりにありそうです。普段からの信頼の積み重ねやネットワークづくりなど、一朝一夕にはいかないものでもありますね。

    リーダーシップの再点検

     もとより、プロジェクトマネージャなどの役割に、責任だけがあってリソース動員などの権限がないという状況があるなら、責任に見合う権限をセットにすることが業務遂行上必要となるでしょう。そのこととは別に、ビジョンや方向を示され、皆がついていこうと思って動き出すような、そんなリーダーシップは、職位や権限や強引さや派手さを伴わない場合にも存在し得ることが、Tさんの例からわかります。皆を力で引っ張るのでなく、皆がついていきたくなるようなリーダーシップですね。

     リーダーシップやマネジメントに唯一の正解があるわけではありませんので、Tさんのような行動が常にベストとも限りませんが、これまで職位や権限とともにチームをリードしてこられた方は、もしもそれらがなかったらどうかなど、一度ご自身とメンバー間のリーダーシップを振り返ってみられるのもいいかもしれませんね。会社では部長として采配を振るっているひとが、多様なひとが集まる地元の自治会では、全くリーダーシップを発揮できなかった、などという笑えない話も聞かれますので。

     それでは、今日もイキイキ☆お元気に。


    リーダーシップとマネジメントについては、こちらもご覧ください。