日本のメーカーはいったい、いつまで大型メインフレームの開発を続けるのだろうか。限られたユーザー企業のため、はっきり言えば特定のメガバンクのために、機能強化、性能強化の旗は降ろせないのは分かる。しかし、経済的合理性を失いつつあるシステムの提供を継続することは、大局的にはユーザー企業にも、メーカー自身にも益なしだと思うのだが。

 先週NECが発表した「i-PX9000」の新機種は、MPUこそインテルのItanium2だが、OSにACOS-4を搭載したメインフレームの上位機種。ユーザーの要求に応じて信頼性や柔軟性を向上させたらしい。ただ、NECの大型メインフレームのユーザーは限られており、3年間の目標でもわずか400台。これくらいの販売台数なら開発費を切り詰めたとしても、製品1台当たりに乗るコストは製造費よりも開発費の方が大きいはずだ。

 メインフレームの顧客基盤がNECよりはるかに大きい富士通の場合、捻出できる開発費が大きいためか、独自のMPUを搭載した大型メインフレームの開発を続けている。もはや量産効果を期待できず、昔のような付加価値の源泉ともなり得ない、こうした大型メインフレームの存在意義って何だろう。メーカーとしての供給責任を果たすためか、それとも独自のメインフレームを開発し続けるIBMへの対抗のためか。

 大型メインフレームはいわば“メガバンク・グレード”のシステム。メガバンクのキッツイ要求に応える形で、開発・強化を続けなければいけない製品だ。当然IBMをベンチマークするから、IBM機と同等の機能・性能が求められ続ける。ただメガバンク・グレードの最新機種は、特定の金融機関を除きユーザー企業には基本的にオーバースペック。それでもメーカーも作った以上は、開発費を回収しなければいけないから売り歩く。

 ユーザー企業も「信頼性が高く安心」「あるいは運用が楽」「環境を変えずに済む」などの理由から、大型メインフレームの購入を続ける。かくして巨大なレガシーシステムは、いつまでも生き続けることになる。しかし、そのシステムのお守りをする人たちは確実に先細りだ。2007年問題を持ち出さなくても、「メインフレーム、基幹系システム、そしてCOBOL」、そんな退屈で、未来を描けない世界に若い技術者を貼り付けるのは、徐々に難しくなりつつある。

 本来ならメーカーは、メインフレームの製造はともかく、枯れたシステムなんだから新機種の開発はそろそろ凍結してもよいくらいだ。そしてフェードアウト戦略、オープン系への移行パスを今まで以上に明確に示せば、多くのユーザー企業がアグリーしてくれるだろう。しかし、メガバンクなど一部の保守的なビッグユーザーは「メインフレームの新機種を出せ」と言い続けるし、IBMがメインフレームの強化を続けるはずだから、あまり生産的とは言えない大型メインフレームの開発を続けざるを得ない。

 IBMの場合、国産メーカーとは桁違いの顧客基盤がある。限られたユーザー企業向けにメインフレームを作る国産メーカーと違い、まだまだ十分に大きなメインフレーム市場がある。当然メインフレームをフェードアウトする必然性は今のところないし、リーズナブルなコストで機能強化も続けられる。

 国産メーカーはそんなIBMと同じことをやろうとするから辛い。シュリンクする市場にあって弱小メーカーがガリバーと同じ戦略を採るのは、そもそも不思議な話だ。重要顧客がなんと言おうが、もっと大胆な戦略があってもいいと思うが、それは大きなお世話か。