アメリカでは,毎年11月第1火曜日が選挙の日。今年は11月7日にアメリカ中間選挙が行われ,連邦議会は上院も下院も民主党が過半数議席を獲得しました。ラムズフェルド国防長官の辞任など,ブッシュ政権は大きな政策転換を迫られそうです。

 若者世代に人気のTV番組(Daily Show, Colbert Report)の宣伝効果もあってか,今回の選挙は若者の投票率が高かったと言われています。連邦議会は民主党の圧勝。下院では史上初の女性下院議長が誕生しました。

 この日,カリフォルニア州では,州知事,副知事(Lieutenant Governor),州務長官(Secretary of State),企業で言えば財務担当最高責任者(CFO)に相当する監査官(Controller),司法長官など11もの重要な公職者が選出されました。州知事は,共和党でありながら中道左派のシュワルツェネッガー氏が再選を果たしました。

Hanging chad疑惑が電子投票を後押し

 今回は,電子投票システム(electronic voting system)について考えてみましょう。2000年11月の大統領選では,「Hanging chad疑惑」の原因となったフロリダ州パンチカード式投票システムの問題が当選結果を大きく左右することになりました。

 Hanging chadとは,穿孔機で穴を開けた時にできる屑のこと。パンチカード式の投票用紙には,宙ぶらりん(hanging)の穴屑(chad)が残ることがあり,無効票/再集計の原因となった不完全穿孔投票用紙と,選挙結果に不透明感が残った(宙ぶらりんの)2000年大統領選の選挙結果をかけたのです。

 その教訓を元に,連邦政府が約30億ドルもの投資をして州や自治体の投票システムを更改したとされています。Election Data Services社は,今回の選挙で,全国の登録有権者の約39%が電子投票システムを利用し,約49%が紙の投票用紙を使用するだろうと推定しています。2000年11月の選挙では電子システム利用率は12.5%でしたから,かなり電子化が進んだと言えるでしょう。

 カリフォルニア州はどうかというと,58郡のうち34郡が紙の投票用紙を使い,22郡が電子投票システムを使用しました。電子化率は約38%で全国平均レベルです。ATMやネット・ショッピングの普及率に比べれば,電子投票システムの「信頼性」に対してはまだ多くの猜疑心が残っているのが実情です。

メリットよりもリスクが大きい

 電子投票システムの主なメリットを挙げると,次のようになります。
●開票が迅速になり,選挙結果をより早く知ることができる。
●障害者の自力投票が容易になり,バリアフリーへの一助となる。
●開票に係る人件費を削減できる。

 一方で,2000年大統領選挙において投票結果が操作されたのではないかという疑惑が持たれて以来,電子投票システムに対する有権者の不安や懸念は払拭されずにいるのです。“Are they secure?”“Do they work?”

 電子投票システムのリスクを挙げると,次のようになります。
●選挙人による投票結果と,機械による認識結果とは一致するか(入力データの整合性)
●投票結果が改ざん,捏造されていないか(セキュリティ脆弱性)
●システムがハッカーやその他の攻撃の対象とならないか(セキュリティ脆弱性)
●バグや誤動作,フリーズ,クラッシュなどのシステム障害は発生しないか(システム信頼性)

 事前のシステム検証では,簡単に改ざんできてしまうシステムや,リセットボタンを押せば何度でも投票できてしまうシステムが見つかったといいます。こうなると,不完全穿孔のパンチカードよりも電子投票の方がリスクが大きいのではないかと心配する声が多いのも仕方ないのかもしれません。

 データの整合性を保証する方法として,書面監査証跡(VVPAT:voter-verified paper audit trail)が有効と見られており,22の州で法制化しています。書面監査証跡とは,システムが受け付けた「自分の投票結果」を印刷した紙のことで,ATMの利用記録のようなもの。書面監査証跡を法制化した22州のうち,電子投票システムを併用しているのは17州,紙の投票用紙しか使えないのは5州あります。

将来的にはWeb投票が主流?

 高い信頼性,データ整合性が要求される銀行勘定系システムは実現できるのに,なぜ投票システムが実現できないのでしょうか?昨今話題になるハッカーやウイルスなどの攻撃が大きな問題ですが,それだけはないのです。

 データセンターに設置されるシステムは,何かあればすぐにIT技術者が駆けつけて,修理や保守にあたります。ところが,カリフォルニア州アラメダ郡だけでも投票所は825カ所。システムだけ完成しても,現場の「運用担当者」はデータセンターの基幹系システム保守要員とはレベルが違います。しかも1年に1回,午前7時から午後8時までしか使わないシステム。バグにパッチをあてたり,システムを一端止めて修理してから復旧させるといった対応では間に合いません。

 投票所に行って電子投票システムを使うより,インターネット経由で電子投票した方が安全かつ正確なのではないかというオプションももちろん検討されています。今年の総選挙では実用化に至りませんでしたが,不在投票率は年々高まっていること,インターネット上でセキュリティ性の高いトランザクションが増えていることから,Web投票は近い将来に導入されるでしょう。

 近年,投票率の低下はアメリカでも問題になっています。その対策として,アリゾナ州のちょっと変わった法案提案(200号,マーク・オステーロー提案)が注目されています。アリゾナ州宝くじの未請求賞金の20%を資金源として,投票宝くじ(1等賞金100万ドルなど)を出すというもの。予備選挙と総選挙の両方に投票すると,宝くじを2枚入手したことになるのです。こうしたやり方は票の買収にならないか,投票率向上のためのイノーベーションか,その結果が注目されています。