ブログの効果を自ら体感した社長ブロガーが次に考えることは,おそらく,社内各部門の精鋭たちにブログを書かせることでしょう。

 それは,単に主要キーワードでの検索エンジン対策に役立つばかりではありません。お客様・お取引先様・社員・株主・所属業界・地域社会など,各ステークホルダーへの効果的なコミュニケーションの発露になるのです。

 以前も,当コラム日経ベンチャー経営者倶楽部で,ブログがオーケストラ経営を実現するための有力なツールになりうるという提言をさせていただきました。

 しかし,そこで直面する問題は「社内の名マネージャーと名プレーヤー,必ずしも名ブロガーならず」という現実でしょう。話術が巧みなトップセールスであっても,いざブログを書かせてみると,目も当てられないというケースも考えられます。その一方で,普段は目立たなくとも,ブログを通じて,会社や商品への強い愛情をたぐいまれな写真や文章表現で「放電」する「隠れ名ブロガー」が見つかって活躍してくれる可能性も高いのです。

 ブログを書き続けることが,心ある社員のモラルやコミュニケーションスキルを,さらには実務スキルまでも高めることを,私は疑っておりません。すでに好事例をいくつも目の当たりにしております。ところが,当初は,多忙な社内の精鋭はもちろん,多くの社員にとって「ブログを書く仕事」は降って湧いたような「雑用」にしか見えないかもしれません。

 そこで,今回は,社内の精鋭がブログに親しみスキルアップするため,さらに社内の隠れ名ブロガーを発掘し活躍してもらうために即効性のある簡単な仕組みをご提案します。それは「社内ブロガーチームの結成」と「社内月例ブログ品評会」です。

オーケストラ経営のためのブロガー選抜と能力向上

 ブログで加速した組織改革が行き着く究極の姿は,プロフェッショナル集団が楽譜と指揮に合わせて自律的に協働するオーケストラだと考えます。だとしたら,その選抜方法とスキルアップの手段もオーケストラに学ぶ必要があるでしょう。

 プロのオーケストラのメンバーになるには,まず専門教育を受けたスペシャリストがアマチュア楽団などで経験を積む必要があります。即ちスペシャリスト教育と現場経験の両方が重要になるわけです。

 さらには,プロのオーディションを受けて,そこで認められ合格する必要があります。この時,個人の力量と合わせて,楽団に合う音楽性,個性も評価の対象になるでしょう。

 この考えを応用するならば,本来,社内ブロガーにノミネートされるのは,各部門でそれなりの業務知識と経験を積んだ中堅のスペシャリストが望ましいということになるでしょう。文字通り,将来の幹部候補,マイスター候補となる社員です。

 本来ならば,既に部門長も名ブロガー,言わばパート長になっていなければなりません。しかし,現状では,いくら社長がブログにのめり込んでいても,そこまでは難しそうです。

 そこで,次世代を展望して社長直轄のブログプロジェクトチームを作ると良いでしょう。そこに,部門長が責任をもって部門代表ブロガーを推薦することを義務付け,その質を部門長の評価とする制度を作るのです。

 そうすれば,「ブログなどという社長の酔狂に忙殺させられて迷惑」と感じる抵抗勢力の意識を変え,優秀な中堅社員がプロジェクトに協力的となる一助になるはずです。

 そして,おそらくはブログの公私両面での効用を直感的に理解した中堅スペシャリストも,上司や同僚に気兼ねすることなく情報発信に時間を使えるでしょう。もちろん,部門長は,自分にとって好感度が高い社員を選ぶでしょう。そうすれば,選ばれた部門ブロガーが,ブログプロジェクトの課題を部門に持ち帰ったり,部門のリクエストをプロジェクトに提言したりする「社内横断的な情報仲介者」の役割も果たすはずです。

ブロガー選抜のための簡単な社内テスト

 それでは,部門長の推薦を受けた社員,あるいは職能や勤務歴を満たして自ら応募した社員の中から,社内の名ブロガーを選ぶためのオーディションは,どうやって実施すれば良いでしょうか?

 その試験では,5つのテーマでブログ記事を書いてもらえば良いでしょう。その5つの記事とは…,

1.来年の入社希望者に向けて会社を紹介する記事

 リクルーターになったつもりで,入社希望者に対して,会社の魅力を語る記事を書いてもらいます。この記事によって,どれだけ会社や経営理念を愛しているか,仕事に誇りを持っているかがわかります。また,それを学生にもわかりやすい表現で伝えられるかもチェックできるでしょう。

2.見込み客に向けて,自社の一押し新商品を勧める推奨記事

 次世代を担う新商品などを課題に選んで,その商品を新規の見込み客に勧める推奨記事を書いてもらいます。この記事によって,情報量や知識の少ない新規のお客様の目線で商品を眺めながら,売込み色を抑えつつ商品の魅力を余すところなく伝えられるかを判別できます。

3.見知らぬ読者に向けて,敬愛する顧客や取引先をほめる記事

 いつもお世話になっている顧客,取引先,社内の他部門など,いつも接する中から敬愛する人について感謝して褒める記事を書いてもらいます。とかく批評家的になりやすいブロガーは思わぬ敵を作りがちですが,人の美点に注目して素直に褒められるブロガーは素晴らしい縁を育みます。

4.見知らぬ読者に向けて,家族との楽しい休日を紹介する記事

 初めて読んだ読者に対して,家族と楽しく過ごした休日などについての記事を書いてもらいます。かつてのような家族を犠牲にする会社人間よりも,仕事で実績を認められながらも,あたたかい家庭を大切にするような人の方がブロガーとしては多くの人に愛されます。

5.見知らぬ読者に向けて,個人として最近感激したことを紹介する記事

 同じく不特定の読者に対して,一個人として,最近感激したことについて記事を書いてもらいます。打ち込んでいる趣味でも,最近鑑賞した本,映画,音楽でも,旅やグルメの情報でもジャンルは問いません。読者も思わず影響されて実体験したくなることが書ければブロガーとしての資質は十分です。

 この5つのテーマについて,特に表現のルールは付けずに,写真付きのブログ記事を書いてもらえば,写真や文章表現の巧拙のみならず,その人間性も浮き彫りにされることでしょう。それを見て,社長と広報責任者が選抜すれば良いでしょう。

月に1度のランチ研修&品評会の効用

 こうして,社内ブロガーチーム=オーケストラをオーディションで選抜し結成した後は,大げさな集合練習やミーティングを頻繁に開催する必要ありません。

 なぜなら,プロのオーケストラの団員と同じように,日々の仕事に追われながらも,空き時間を見つけて毎日自発的に練習=ブログを書くことが活動の中心となるからです。

 そのためには,ブロガーチームに対して,勤務時間内にブログを書ける特権と,ブログでの効果的な発信に対する評価と報酬の仕組みを用意する必要があるでしょう。そうすれば,社長直轄の選抜メンバーで活躍できる自負と相まって,自己管理で情報発信を続けるはずです。

 また,わざわざ細かく管理などしなくとも,社長も管理者も練習の様子=ブログ記事を居ながらに確認することができます。また,記事を細かく読まずとも,ブログの更新回数やアクセス・コメント・トラックバックの数を見るだけでも,その練習ぶりや上達ぶりを概観することもできます。

 そして,ちょうど定期演奏会のように月に1度,それもランチの時間を中心に集まって集合研修とブログ品評会を開けば良いでしょう。人前で演奏することが,何よりの励みと良い意味のプレッシャーになるように,この品評会もブロガーチームのスキルを磨き意識を高めるのに役立ちます。

ワンポイントレッスンと自薦ブログ朗読会

 毎月,ランチ研修&品評会を開催すると言っても,特別に難しいことではありません。必要なものは,ネットに接続されたパソコンとプロジェクターだけです。

 まずは,社員ブロガー全体のスキルアップを図るためには,冒頭に短いワンポイントレッスンを組み入れます。コーチ兼司会は,ブログやネットでの情報発信に長けた外部講師か社内講師が勤めれば良いでしょう。

 ワンポイントレッスンは,15分前後でかまいません。ブログ記事の題名の付け方,写真の撮り方など,毎回テーマを一つに絞れば良いでしょう。時間を有効活用するために,お弁当を食べながら,目と耳だけ拝借するのも一つの方法です。

 そして,食事時間を利用したワンポイントレッスンが終わったら,いよいよブログ品評会です。

 毎回自薦のベストブログ記事のURLを,前月の記事数アクセス数などと合わせて,ブログプロジェクトの事務局に提出しておきます。その提出資料に基づいて,事務局が毎回偏らないように発表者を決めておき,その場で指名します。

 指名された発表者は,順番に,プロジェクターで投影された自分のブログ記事の前に立ちます。そして心を込めて,自分のベスト記事を朗読するのです。わざわざブログ朗読をするのかと思われるかもしれませんが,これは記事に感情を込める訓練,人前でプレゼンテーションをする訓練にもなります。

 記事の朗読が終わったら,目を凝らし耳を傾けていたメンバーを順番に2~3人指名して,良かった点や,改良点についてコメントをしてもらいます。挙手でコメントを求めても良いでしょう。参加者に続いて,コーチがアドバイスをします。そして最後に,発表者当人がコメントとメンバーへのお礼をして交代します。こうした衆人環視の元での相互発表とアドバイスが,同僚のブログに注目し,自分のブログを客観視する良い機会にもなるのです。

 こうして毎回,数名の朗読をお願いして,最後に「今月の最優秀ブログ」を選ぶと良いでしょう。当面はリーダーやコーチが決めるのが順当かもしれません。しかしメンバーのスキルと親密性が共に高く,チームの一体感が醸成されてくれば,挙手による多数決で決めても良いでしょう。

ブログ品評会の後は,翌月の重点商品・テーマの共有

 1時間前後で,ワンポイントレッスンとブログ朗読会が終わったら,最後に,大切な情報共有をして締めくくります。それは,翌月のブログに全社的に書いて応援したい重点商品やイベントなどの確認です。

 同じ企業に勤めながらも部門や課が違うと,どんな仕事をしているか分からないケースも少なくないでしょう。しかし,ブログを活用して検索エンジン対策を徹底するのは,各部門が単独で情報発信をするよりも,他部門も合わせて情報発信に協力した上で,当該部門のブログやサイトにリンクすることが大切です。

 そこで,各部門の代表ブロガーが,あらかじめ翌月の重点商品やイベントについての参考原稿や,紹介希望日などを,事務局に提出しておくことが大切です。事務局は,それらを取りまとめた資料を各メンバーに配布します。そして,各部門の代表ブロガーが,順番に重点テーマとその要点を簡潔に発表して,ブログに書いてくれるようにお願いすると良いでしょう。

 そして,会の締めくくりに,社長ないしは広報のリーダーがコメントをして,ランチミーティングを終了します。

 発表者や部門代表者の人数にもよりますが,数名の発表者,10部門前後の代表者と補助者の集まりであれば,ランチタイムも合わせて1時間半~2時間ほどあれば十分です。聴講者(=将来のブロガー候補)も多ければ多いほど良いので,自由参加できるようにして歓迎したいところです。

 こうして,月に1度のブログミーティングを1年2年と繰り返していけば,着実に社内ブロガーのスキルは高まっていくはずです。同時に,社内ブロガー=将来の幹部候補同士による草の根交流も進んで,各自が他部門との有機的な連携を考えるようになるでしょう。その効果は私も実感済みですので,ぜひお試しいただければと思います。