「始業時刻前に自主勉強会をしている人たちがいるんだけど、自主的な勉強会のはずなのに、参加したほうがいいと上司からしつこく言われて、これじゃ強要されている感じ。」Sさんは、どうもしっくりこないようです。

 Sさんのお話によると、勉強会だけでなく社内の親睦行事なども、自由参加といいながらいつもこんな感じで、参加するかどうかを自由に決めることなどできない雰囲気なのだそうです。たしかに「自主的にやりなさい」と‘命じられる’とすると、既に自主的とはいえませんね。

押し付けられても・・・

 ところで、もしもSさんの上司に尋ねたら、「自由参加だとはっきり言っているし、強制などしていない」と仰るかもしれませんね。或いは「勉強会も親睦行事も、業務を円滑に行うためのものなのだから、仕事の一環と心得て積極的に取り組むのが常識だ」とか。もしかすると「忠誠心がないように思われるとマズイから、参加しておいたほうがいいよ」などの気持ちもあったりして。

 Sさんは、上司の言うこともわかるし、勉強やいろいろなコミュニケーションも大切だと思うので、日頃からできる範囲のことはしているつもりです。でも、各々の意義や価値は認めても、暗黙のうちに常に会社のためにというのを強いられる感じには馴染めないそうです。

 あらゆることを会社の仕事に活かすべきとか、全精力を会社のために使うのが当然だという考え方、本当はそう思っていなくてもそのように振る舞わないとマズイという考え方。用がなくても夜遅くまで会社に残るとか、高熱でもない限り有給休暇はとらないとか、休憩時間までそりの合わない職場のひとと一緒に過ごすなども、それらの考えの表れでしょうか。こういったことがSさんの窮屈さや閉塞感につながっているのかもしれませんね。

全社一丸、足並み揃えて

 「今どきそんな会社があるの!?」という声もあるかもしれませんが、伝統的な企業やその他でも、このような雰囲気を日常的に感じているITプロの方々がおられるようです。

 かつての経済成長時代には、家族や地域のつながりが希薄になる一方で、会社が家族や共同体のようになり、頑張れば頑張るほど組織も個人も成長し、経済的にも潤ってきたとされていますよね。つまり会社と個人が一体化してやってきたわけで、そのため、全社一丸となって、足並みを揃えて、会社のことに全エネルギーを注ぐことが、会社のためであると同時に自分の幸せに直結すると考えてこられた方々も多いことでしょう(終身雇用で給料も年々増えて)。

まるごと会社か

 しかし昨今では、会社の発展や経済的な成長が、自分にとって幸せであるとは限らないといった考えを持つ人も増えていますよね(雇用不安で給料も増えると限らず)。個人としての生活全体を自分らしく充実したものにしたい、会社の言いなりではなく自分らしさを活かせる仕事をしたい、特定の会社での出世よりも自分の腕(スキル)で独自の働き方をしたい、などの希望をもつひともたくさんおられます。専門性を発揮して活躍するプロフェッショナルの中にも多そうです。

 このような方々は、プロとしてよい仕事をすることが大事なのであって、会社のためなら、いつでもどこでも何でもやるといった気持ちはそれほど強く持たれないともいわれています。会社と個人は一体ではなく、仕事をはさんで対等な位置関係にあるという感覚かもしれませんね。ですから、個人の特性や思いを無視して組織の価値観を押し付けられると(本人にとってそのように感じられると)、違和感や不快感をもたれることもあるでしょう。そして、それが原因で、働くモティベーションそのものが下がってしまいかねないのではないでしょうか。

十人十色

 特にマネジメント層など会社のなかで権力をもっている方々は、こういう人たちも実際にたくさんおられることを頭に置いておかれる必要がありそうです。わがままだと片付けるのでなく、一人ひとり異なる価値観を大切にする姿勢が、これまで以上に重要度を増しています。日本を代表する或る企業のように、‘人材の多様性に対応したマネジメント’を重要課題として、全社的に取り組まれている例もあります(その企業の方の言葉を借りると、従来は体育会的ムード一辺倒だったそうです)。同時に、自分らしさを大事にする働き方をしたいひとこそ、プロ意識と責任感に根ざして、常に腕を磨き関係者に効果をもたらす行動を継続することが、ますます強く求められるでしょうね。

 わたくしたちは自分でも気づかないうちに、何らかの価値観を前提として行動しがちですが、大切にしたいことや、やる気の源泉は十人十色であることを念頭に、それぞれのひとらしい頑張りや貢献を認めあって仕事をしていきたいですよね。ここにきて広まりつつあるダイバーシティマネジメントやワークライフバランス(*1)なども、それが根底にあってはじめて実効があるものと思われます。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。

*1・・・ワークライフインテグレーションといったほうが良いかもしれませんね。詳しくは別の機会に。