新装刊された「月刊アスキー」に,ちょっと気になる文があった。医療用エコー製品の紹介記事の冒頭にあった「長年,少子化の深刻なあおりを受けてきた産婦人科」という下りだ。続いて「地方の病院では廃業する産婦人科が増えている」という趣旨の文が続く。産科がなくなっているのは確かだが,その理由は全く違う。勤務が厳しすぎて敬遠されるからだ。つまり,暇で廃業するのではなく,忙しすぎるから廃業するのだ(参照:烏賀陽弘道氏のルポ「産科が病院から消える日」

 考えてみれば,産科の患者(という呼称は適切ではないが)のほとんどは急患になる。最近,多くのマスコミが記事にしているが,論調はほぼ同じである。アスキーの記者の思い込みで書かれたのだろう。

 ただし,同じ月刊アスキーの別の記事で,携帯電話のSIMカードロックを解除して販売していた業者が不起訴になったことを報道したのは評価できる。大手マスコミは「SIMロック解除は違法行為である」と思い込んで報道したので,「不起訴」の記事は書きにくかったのだろうか。それとも他に理由があったのだろうか(参照:「JASJAR黒色革命録」)。

 「ファイル交換ソフトにより音楽CDの売り上げが落ちている」という説もかなり怪しい。ジャニス・イアンは,自分の公式サイトに以前リリースした楽曲をMP3形式で公開したところ,昔のアルバムと最新アルバムの両方の売れ行きが急増したという(参照:津田大介氏の書籍「誰が音楽を殺すのか」)。ついでに,「タワーレコードの倒産はiTune Music Storeのせいだ」という説も間違いだという(参照:ソフトバンククリエイティブ「週刊ビジスタニュース」2006年9月13日配信分)。

 Windowsにも,「思い込み」や「神話」がたくさんある。日経Windowsプロ創刊当時,同僚が連載記事を書いていた。担当編集者のコメントには,思い込みによる理不尽な指摘が何回かあったと聞いている。Windowsに悪意でもあったのだろうか。権力に媚びない報道と,悪意を持った報道とは違う。もっとも,記者の方も勉強したのか,そのうちに妙な記事は見なくなった。

 今も残る「神話」もある。「Windowsはよく落ちる」という神話だ。確かにWindows 3.1なんかはよく落ちた。Windows NTの安定性は,以前のWindowsに比べて飛躍的に向上したが,それでもUNIXなどと比べればかなり不安定だった。

 しかし,それも過去の話である。現在,Windows Server 2003のシステム稼働率は一般的な商用UNIXと肩を並べる。にもかかわらず,定期的に再起動しなければならないと思い込んでいる人は多い。

 実は,UNIXが本当に高い信頼性を持つようになったのは1990年代も半ばになってからである。若い人の中には,最初から高い信頼性を持っていたと思い込んでいる人もいるそうだ。しかし,1980年代までのUNIXは商用サポートも貧弱な上,かなり不安定で「ビジネスには使えない」という意見も多かった。それが,UNIXベンダーの懸命の努力により,やっと使い物になるレベルに到達したのである。

 UNIXがC言語に移植されたのが1973年,商用OSとしてのUNIXはSunOS(米Sun Microsystems)とHP/UX(米Hewlett-Packard)が1983年,AIX(米IBM)が1986年に登場している。つまり,初期版から実用版まで10年,実用版から安定版までさらに10年かかっている勘定になる。

 Windowsはどうだろう。英語版Windows NT 3.1は1993年に出荷されている。安定性に少々難があったのは前述の通りだが,徐々に改善され,2000年に登場したWindows 2000では飛躍的に安定性が向上した。Windows Server 2003, Datacenter Editionの安定性は99.999%(年間停止時間5分以下)と,商用UNIXと肩を並べる。ここでも10年の歳月が必要だったようだ。

 もっともUNIXの場合,特別なハードウエア構成を使えば99.9999%(年間停止時間30秒以下)も実現しているようなので,Windowsは,それほど自慢できるわけではない。また,サーバー機能はともかく,シェル(ExplorerやInternet Explorer)は今でも時々ハングアップする。その辺は,もうちょっと改善してほしいものだ。