先日,Googleが買収して話題になった動画ポータルサイト「YouTube(ユーチューブ)」。今回のニュースで,初めてその存在を知った方も多いかもしれません。

 “Broadcast Yourself”のスローガン通り,YouTubeを使えば,誰でも無料で気軽に自作ビデオをネット上に公開できます。また,軽快なFlashビデオに自動変換されることもあって,世界中から登録された個人ビデオを,簡便に検索・閲覧して楽しむこともできます。YouTubeは,いわば個人ビデオ放送局の集合体なのです。

 また,携帯電話番号ポータビリティの開始で,にわかに携帯新機種への関心も高まっています。ソフトバンクの孫正義社長が発表した「予想外割引」や,各社のハイスピード通信など,ケータイも新時代を迎えようとしています。

 一見すると,マスメディアを賑わした二つの現象は無関係にも見えます。しかし,これらもブログ(将来はそう呼ばれていないかもしれませんが)の未来を暗示する現象に思えるのです。

カメラ付ケータイがブログ発信ポータビリティを高めた

 ブログは,個人がインターネットで情報発信をする際の,さまざまな技術的障壁を取り除いてくれました。

 これまで個人ホームページの制作には,特別な制作ソフトを使いこなす技術や,HTML言語の知識が必要でした。しかし,ブログの出現で,特別なツールや知識は不要になりました。ほとんどメールを書くぐらいの気軽さで毎日のようにホームページを更新できるようになったのです。

 しかし,それでもまだ必要なスキルが無いわけではありません。できれば,考えたり話したりするのと同じぐらいのスピードでキーボードを打つ技術=タッチタイプのスキル=が欲しいところです。

 さらに障害となるのは,自分の考えを文章にする能力です。「書けば書くほど速く上手く書けるようになる」という経験則は,ブログ歴を重ねた人なら賛同してくださるでしょう。それでも,その時々の感動や思いを,伝達力に富んだ文章に仕上げるのは,誰もが簡単にできることではありません。

 また,いくらパソコンが軽くなったとは言え,常にパソコンを持ち歩いて何か感じるたびに起動して打ち込むことなど,実際には困難でしょう。ですから,オフィスや自宅に戻ってから思い出しながら書くわけですが,気がつけばその時の感動は薄れていること,さらには忘れていることも少なくありません。また,疲れて書くのがおっくうになることもままあるでしょう。

 これらの要因が重なり合って,ブログ更新頻度の低下につながるのです。

 しかし,感動したその時その場で書けないという限界や文章技術の問題を,カメラ付ケータイは半ば解決してくれました。いつも持ち歩いているカメラ付ケータイを,ブログ入力ツールとして活用するわけです。

 何か感動したことがあったら,すかさず,現場の写真をカメラ付ケータイで撮影します。そして,簡単なコメントをつけて,自分のPCメールのアドレス宛てに「写真付きメール」を送るのです。そうすれば,後でオフィスや自宅で「写真付きメール」を見ながら,その時その場所での感動を思い起こして,じっくりとブログ記事を書くことができます。

 カメラ付ケータイで撮った写真1枚が,文章100行分に迫る伝達力と説得力を持つことも少なくありません。現場写真のおかげで,文章を書くスピードや技術が低くとも,多くの事実や感動を伝えることができるのです。

 ですから,親しい縁者の中には,わざわざパソコンで記事を書き直さずに,そのままカメラ付きケータイで更新してしまう方までいらっしゃるのです。

ケータイで音声インタビューしてラジオブログ更新

 今春,拙著「ブログ道」の出版記念講演を,親しい縁者が開いてくださった時,ちょっと驚いたことがありました。

 パーティの後,元気学校代表の校條諭(めんじょうさとし)さんが,「ちょっとお時間がありますか」と声をかけてくださいました。請われるがままに,ロビーのソファに主催者の東邦学園大学の一樂信雄先生と腰掛けますと,校條さんはいきなりケータイを開いて話し始めました。

「こんにちは,今日はCCCFという研究会におじゃましております…,」

 そうです。マイクやレコーダー代わりのケータイ1つで,ラジオインタビューが始まったのです。

 最初は,ケータイをボイスレコーダー代わりに使っているのだろうと思っていました。しかし,何分かのインタビューの後,校條さんはケータイで何やら操作をしたのです。そして一言おっしゃいました。

「これで元気学校のブログサイトにもうアップされています!」

 ケータイでラジオインタビュー完結。何とも新鮮な体験でした。ケータイやブログサービスも,ここまで来ているのかと感嘆したのです。

 帰ってから確かめてみますと,確かに元気学校の中にある「アンチエイジング・ラジオ」にブログ記事が更新されていました。ブログの中に音声再生ボタンがあって,そこをクリックすれば,ラジオ放送が始まります。音声ボタンの前後に,テキストが追加されていたのは,後でパソコンで追加したのでしょう。

 このラジオブログは,castellaのaudioblogというサービスで制作されています。ブログに音声を組み合わせるサービスは,いずれどんなブログサービスにも標準装備されるでしょう。その時の入力ツールにケータイが大きな役割を果たすことは間違いありません。

YouTubeでプロ・アマの差と言語を超え動画でつながる

 YouTubeを試したことが無い方は,数々の動画を無料で見て楽しめますので,ぜひのぞいてみて下さい。

 ちょうど今(2006年10月28日 10:00AM)アクセスしてみましたら,トップページのFeatured Videosでは,まさにYouTubeらしいラインナップが並んでいました。

 一番上には,私も大好きなロックバンドU2 and Green Day の社会派ミュージックビデオクリップ“The Saints Are Coming”videoが紹介されています。わずか3時間前にアップされたビデオのようです。決して高精細な画像ではありませんが,音声付きのフルコーラスを無料で楽しむことができます。トップページに人気バンドのビデオが掲示されたことで,私がアクセスした時点で既に717件ものコメントが寄せられていました。

 YouTubeは,個人が知的所有権を無視して,無断でテレビや映画等の画像をアップロードしてしまうという大問題を抱えています。Googleによる買収により,こうした問題は解消されると考えられています。

 しかし,この知的所有権の塊りのような世界的ロックスターによるビデオクリップが,正規の手続きで配信されたのかどうかは,私では判断が付きかねます。わずか6時間前にメンバーになったという配信元のプロフィールを見ても,何も明らかにされていないからです。

 YouTubeトップページの二番目に並んでいたのは,ウェリッシュ・コーギーとカタカナで表記された日本発のビデオです。YouTubeは米国にある英語サイトですが,既に配信のみならず,情報登録でも国境を越えているのです。

 このビデオは,おそらく作者が愛犬を撮影したものだと思われます。ただ,解説もなく音楽もなく,静かに撮り続けたホームビデオです。撮影・編集技法や構成などはさておき,結果として多くの人が癒される環境ビデオのようでもあります。ましてや,愛犬家,特に同じウェリッシュ・コーギーを飼っている人にはたまらない作品でしょう。

 重要なことは,この動画版ソーシャル・ネットワーキング・サイトが言語を必要としていないことです。母国語であれ外国語であれ,文章作成が苦手な人でも,ビデオさえ撮れれば良いのです。それでも,このウェリッシュ・コーギーの動画を公開すれば,同じ犬種の愛犬家に多くを伝え,国境を越えて仲良くなれる可能性があるのです。

 現に,2日前にアップされたこのかわいい愛犬ビデオは,10月28日の時点で既に3万3547回も世界中で見られて,1742人がコメントを寄せているのです。

ブログは動画と文章とのミックスになる

 しかし,YouTubeなどの動画サイトを見て歩くうちに,さらなる要望を抱く人もいらっしゃるでしょう。

 一つ一つの動画に,もっとコメントを付けられないか,あるいはブログにこうした動画を組み込めないかという要望です。つまり,動画と文章をもっとうまくミックスできないかというリクエストです。

 動画と文章をうまく組み合わせたい理由はいくつかあります。

 動画は確かに文章以上に説得力を持つ場合が多いのです。また,被写体や企画の面白さや,偶然性・意外性もあって,素人ビデオの方がかえって生々しくて感激を生むことは,テレビの投稿ビデオ番組を見ても明らかでしょう。

 しかし,動画に慣れてくると,次第に撮影・編集の巧拙が目に付くようになります。ブログを読みつけると,書き手の個性と表現力・編集力とのバランスが取れたブログを愛読するようになります。それと同じことが,動画でも起こるでしょう。

 その時に,多くのアマチュアにとって解決策になるのは,ほどほどの動画とほどほどの文章を組み合わせる方法です。それによって,双方の技量が足りない部分を補って,効率よく臨場感を伝えることができるでしょう。

 テキストに向いているのは,新聞で言えばリードに当たる,5W1Hを網羅した短い概説と,ブログの核となる自分ならではの感動や伝えたメッセージでしょう。その短い紹介文に惹かれて,動画を見る人がまずは増えましょう。そして,動画を見ながら,その記事を追体験することができるはずです。そして,動画鑑賞の後で再び文章に戻れば,記事の概要とブロガーの想いとを再確認することができるでしょう。

 また,検索エンジン対策上も,テキストが多い方が有利なはずです。YouTubeでは,それぞれの動画に検索のためのカテゴリーと,TAG,キーワードが登録できます。しかし,世の中は「まずGoogle検索」という風潮です。検索エンジン対策を重視するなら,ブログポータルに動画サービスが組み込まれた方が,キーワードが豊富なブログのメリットを生かして,多くの人に見てもらえるようになるはずです。

ケータイはビデオカメラを備えたブログ入力装置

 アマチュアがプロの記事や作品に勝つには,生々しい臨場感と,偶然性,意外性が重要です。スタジオやセットの中では勝てなくとも,名も無い路地裏や旅行先ではアマチュアブロガーがプロに勝てるかもしれません。

 そのためには,現在は静止画カメラとメール通信機として活躍しているカメラ付ケータイが,もう一段進歩する必要があります。すなわち,どこでもMPEG4やFLASH形式で動画を気軽に撮れて,ちょっとしたテキストを入力した上で,動画ブログポータルに簡単に送れる機能です。

 動画技術は既にコンパクトデジカメでも実現済みですから,小型化低価格化が実現するのも時間の問題でしょう。また,通信速度についても,下り=ダウンロードのみならず,上り=アップロードまでも,高速通信ができるケータイも続々登場しつつあります。しかも,高かった通信料もデータ通信定額制や各種割引などで状況は一変しつつあります。

 今回の携帯電話の番号ポータビリティ解禁に伴う3社の競争激化で,カメラの機能強化はますます進み,通信速度はより速く通信料金はより安くなっていくことは間違いありません。

 そして近い将来,携帯電話番号のポータビリティよりもさらに大きな変化が起こります。有線電話では既に起こってしまった電話のインターネット革命が,携帯電話にも押し寄せるのです。街角のいたるところに無線LANが張り巡らされて,それが携帯に繋がったとき,文字通りほとんど無料で「つながりっぱなし」の世界が実現されるでしょう。

 その時,目の前で起こった感動を,呼吸でもするような自然さでケータイの動画に納め,俳句でも書くように言葉を添えて,ネットに送り公開する人たちが増えるでしょう。そして地上波デジタル放送による多チャンネル化よりも,はるかに大きな映像革命とコンテンツ革命が始まるはずです。