大証ヘラクレスに上場する、ネットビジネスで急成長してきたクインランドが、2006年6月期に赤字に転落した。次々に傘下に治めた自動車や娯楽などの事業会社の販促をITで支援し、グループ全体で拡大を図るという同社の戦略は破綻した。今後は買収した事業会社をすべて売却する。

 96年5月に設立したクインランドの最大の武器は、インターネット技術を駆使し、独自にシステム開発した販促手法にあった。消費者が商品を購入する際の意思決定に深く関係する、(1)専門家、(2)その商品を先行購入した顧客、(3)発売元のメーカー、の3者の意見やアドバイスをホームページ上に一堂に集める仕組みである。こうしたWebサイトに集客して購買に結びつける手法は様々な業種に適用できるとクインランドは判断し、次々に事業会社の買収に乗り出した。

 その結果、図に示すような急成長を遂げ、06年6月期に売上高が1000億円を超すかの勢いだった。ところが雲行きが怪しくなってきた。中間期に通期見通しを修正し、売上高983億円、営業利益22億円とした。第3四半期の業績発表段階で修正はしなかったものの、06年8月末に公表した06年6月期の業績は、売上高が前期比で3倍近い909億円に達したが、計画を80億円も下回った。しかも、経常損失は4億円強、最終損失は84億円と赤字に転落してしまった。

01年6月期 02年6月期 03年6月期 04年6月期 05年6月期 06年6月期 07年6月期計画
売上高 41.54 51.12 68.31 104.03 315.35 909.2 210.19
経常利益 1.78 4.04 8.69 12.73 16.19 -4.112 8.02

性急すぎたM&Aが原因

 創業者の吉村一哉社長は06年9月4日の業績説明会で、「創業以来の志である家庭消費5大市場(自動車、娯楽、住宅、教育、外食)に関連する事業会社のM&A(企業の合併・買収)を性急しすぎた」と赤字転落の理由を語った。この2年間で買収した企業は34社に上り、連結社員も100人強から約1100人に増加した。半面、人材育成などが遅れ、マネジメント面で各事業会社や部門の業績管理を徹底できず、計画が未達成に終わってしまったという。

 それを少しでも補うために、IT技術を駆使して顧客にマーケティング戦略の企画・構築・運営支援を展開してきた、いわば事業会社のIT部門であるDMES部門(デジタル・マーケティング・エンジニアリング・サービス。06年6月に子会社から本体吸収)が傘下の事業会社に対して、コストを無視してITを活用したマーケティング支援などを強化したため、同部門の収益を悪化させてしまった。有利子負債も359億円と13倍に拡大し、本部人員や業務の肥大化による経費も大幅に増加した。

 これら問題を解決するために、クインランドはすべての実業を切り離し、営業利益率40%近い高収益のDMES事業に特化することを決断した。「これに伴って、DMESの不採算案件(事業会社への支援)の処理、M&Aに伴うのれん代の一括償却、株式評価損の計上、ソフト・棚卸資産の減損処理などで、84億円の特別損失を計上した」(吉村氏)。

 しかし、自動車や娯楽などの事業会社との資本関係がなくなれば、その企業との関係は希薄になるのは当然。これまでのようなITによるマーケティング支援を継続していけるのだろうか。グループの事業会社向け販促をIT支援する一方、そこで得たノウハウを外販することで、事業全体を拡大させるという図式を持続できなくなった。

 赤字の責任を取って、吉村社長は9月27日に会長に退き、DMES事業を担当したCTOの岩田昌之専務執行役員が社長に就いた。

家庭消費の5大市場を狙うコンセプト

 クインランドの過去を振り返って見る。84年3月に大阪大学工学部を卒業した吉村氏は経営コンサルティング会社の日本エルシーエーに入社し、中小企業の経営戦略やマーケティングに関するコンサルティングに携わった。そんな中で、経営者から「米国で面白いビジネスを見つけて来い」と長期出張を命じられた吉村氏はフランチャイズ・ビジネスに着目。マクドナルドなど一部の業態しか日本に存在しなかった時代である。

 帰国後、吉村氏はその関連ビジネスに関与するものの、不動産業を経営する父親が倒れたことを契機に会社を興すことを決意する。「経営コンサルタントとして学んだのは、企業を存続させるにはリスクを分散させること。そのために、パワーを5分の1に分散させることを考えた」(吉村氏)。

 その答えが、自動車、娯楽、住宅、外食、教育の家庭消費5大市場を手掛けることだった。フランチャイズ店展開などで、顧客を数多く抱えられる5大市場は、規制緩和や技術革新、業態変革、ライフスタイルの変化などにより、新たな需要を喚起させる可能性が高い。これら市場に焦点を当てて、吉村氏はクインランドを設立し、手始めに中古自動車販売を開始。ここで、今日の原点となる販促活動にIT技術を活用する手法を考えついた。「現在のWeb2.0の世界をイメージした」(吉村氏)。

 例えば、Webサイトのアクセス数をいかに増やすために、メール・マーケティングなどを研究した結果、検索結果から上位に表示される、人気のあるホームページから誘導する、販促につながる専門家などの意見を収集するなどが重要になることが分かってきた。それを実現させるために、自前の検索エンジンを開発した。Webサイトに訪れた顧客からの問い合わせに対応する営業支援システムも開発した。

 このWeb型アプリケーションは、優秀な営業マンの行動をシステム化したもので、メールによる顧客からの問い合わせを分類し、自動的に回答する。返信メールは営業マンではなく、内容から回答文書を自動生成している。営業マンに次の行動も指示する。顧客対応したのか、どんな対応をしたのか、までつかめるという。

 実は、こうしたシステムを購入したいという企業が現れたことをきっかけにDMES部門を設置した。中古自動車販売など実業の生産性を上げるためのマーケティング支援、外食産業に進出する際に習得したEC(電子商取引)の活用法、住宅産業に進出した際に得た、eラーニング教育、マッチング(建築家の活用、工務店のインターネットを介して入札)など、IT技術を駆使して販促を支援するノウハウを外販することにしたわけだ。

ポータル戦略を打ち出す

 そして3年前に、「ポータル&プラットフォーム・メディア戦略」を打ち出し、自動車や娯楽、外食、住宅のWebサイトを開設。ゲームや住まい、中古自動車などターゲットを絞り込んだポータルを次々に立ち上げた。

 特に神戸市の主婦をターゲットにした地域ポータルはヒットした。これは「朝起きて顔を洗う」「食事をする」「子供を幼稚園に送る」など、主婦の1日の生活に関係する様々な情報を提供する。近所のスーパーなどの特売情報、公共機関の情報などもある。情報提供する店舗向けに、携帯電話から画像を含めた情報を簡単に追加・更新できる仕組みも整備した。

 このQlepと呼ぶ地域ポータルは全国62カ所に広がり、06年6月期で売上高15億円、営業利益4億5100万円を確保する事業に成長した。同じ手法で、BtoB向けポータルとして、日本商工会議所と組んで立ち上げた中小企業支援サイトCHAMBERWEBもある。これらに共通するのは、もちろん情報提供と販促支援である。

 ゲーム専門店向けポータルの人気を集めた。クインランド傘下でゲーム専門店をフランチャーズ展開するNESTAGE(04年に買収した明響社とアクトを06年2月に合併)の各店舗の顧客を増やすために開設したもので、近隣顧客の囲い込み、ECの活用、マーケティング情報を提供している。NESTAGEによると、全国のゲーム専門店はこの数年間で5000店から1500店に激減。インターネットを活用したメーカーによるソフトのダウンロード、書店やコンビニなどとの販売競争激化などで、専門店は厳しい経営環境に直面している。

 こうしてゲーム専門店の活性化を図ろうとしたものの、06年6月期のNESTAGEを中心した娯楽事業の売上高は369億円と当初見込みより46億円も下回った。マイクロソフトのXbox360やソニー・コンピュータエンタテインメントのPS2などの販売不振が大きく影響したという。ところが、営業利益はほぼ予想通りの6億円強を確保できた。利益を2億円増やした店舗販促支援システムの使用料が寄与したからだという。こうした店舗などが支払うシステム使用料などを、クインランドはこれからの糧の1つにしようとしているのだ。

実業との関係が希薄に

 07年6月期の売上高は210億円、営業利益は10億円を見込んでいる。この数字には事業会社の一部の売り上げを含んでいる。売却が遅れる事業会社もあるからだが、子会社を完全に切り離した後のイメージは、売上高51億円、営業利益7億9500万円、経常利益5億9000万円になる(図参照)。

04年6月期 05年6月期 06年6月期 07年6月期計画
売上高 31.55 58.68 70.39 51.03
営業利益 19.39 20.77 13.72 7.95

 しかし、中核となるDMESの営業利益率は05年6月期の35%から07年6月期は15%に悪化する見込みだ。売り上げも予想を下回っている。06年4月に岩田氏にインタビューした際、DMESの売り上げは、05年6月期の56億円から06年6月期は80億円と語っていたが、それを大幅に下回る。実業の不振もあるが、07年6月期はさらに落ち込むことになる。

 クインランドは、事業会社と一体になり、顧客獲得など事業拡大に向けた策を練る。目標が達成できなければ、事業会社と一緒にどこに問題があったのかを探り出し、解決を図る。つまり、DMESは顧客から要求されたITシステムを作って終わりというビジネスモデルではない。しかも、事業会社から得たノウハウを生かして外販事業を展開する。だが、実業を傘下に持ったからこそDMES事業の強みを発揮できたことといえる。事業会社との資本関係がなくなれば、収益率の悪い受託ソフト開発が事業のメインになってしまうかもしれない。

 もちろん事業シフトによる新たな展開や今後の方策を練っているのだろうが、クインランドの栄光と挫折から、ITサービス会社がネットと実業の狭間でどう舵取りをするべきか、難しさも垣間見える。

注)本コラムは日経ソリューションビジネス06年9月30日号「企業研究」に加筆したものです。