2006年7月26日の当コラム「末期ガンになったIT社長,藤田憲一さんの講演会と3大ブログ」でご紹介,心よりエールを送らせていただいた藤田 憲一さんが,先週末,10月12日にご逝去なさったそうです。残念でなりません。心よりご冥福をお祈り申し上げます。合掌。

 ご存知の通り,ブログ情報は玉石混交です。

 誰もが気軽に情報発信できるブログは素晴らしいツールですが,その反面,一部の人以外には意味のないゴミブログ(裏返せばお宝ブログ),出自不明の風説ブログ,自己増殖を繰り返すコピーペーストブログなども増え続けているのです。

 そしてGoogleなどの検索エンジンは,キーワードといくつかのシンプルなルールで,検索者にとって有用なブログも無用なブログも分け隔てなくピックアップしてしまいます。その結果,知的生産性を高めるはずのインターネット空間が,雑然とした情報のるつぼと化してしまうのです。

 多忙なビジネスパーソンにとって,玉石混交のブロガーの中から自分を導いてくれる,いわばブログマスター・ブログメンターを見つけることが大切なことは言うまでもありません。今回は,わが師をネットで探す時に心がけている「ブロガー判別法」をご紹介いたしましょう。

実名公開とプロフィール公開が大前提

 検索エンジンやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで有用そうなブログを見つけた時は,真っ先にプロフィールを見るようにしています。実名でブログを書いているか,現在の職業や所属はもちろんのこと,詳細なプロフィールが公開されているかをチェックするのです。

 もちろん,匿名やハンドルネームで書かれたブログの中にも良質なものがあることは承知しています。おそらくは,所属団体の規約などの職業上の理由から匿名とされているのでしょう。あるいは,人気ブログにつきものの誹謗中傷コメント・トラックバックの集中放火,いわゆる「炎上」を恐れているのかもしれません。

 とはいえ,私が信頼をしているブロガーを見回すと,圧倒的に実名と詳細なプロフィールを公開している方が多いのです。昨今は,企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)を問われる機会が増えました。実名とプロフィールを公開したブログを書くことは,すなわち個人の社会的責任(Personal Accountability and Social Responsibility)を問われることになります。いわば真剣勝負です。

 私自身も,ハンドルネームで仲間だけが参加するにSNSに何かを書く時と,たとえば企業経営者として社長ブログを書く時,大学講師として講義ブログを書く時は,明らかに心構えが違います。良い意味での緊張感が走り,身の引き締まる思いがするのです。だからこそ,同じような真剣勝負をしているブロガーに共感し注目するのかもしれません。

中立公正・独立自尊を重んじる「その道のプロ」

 私は,300人以上もの「その道のプロ」がユーザーをガイドする生活総合情報サイト「オールアバウト」でTシャツガイドを務めております。検索エンジンが機械的に選び出すサイトは,どうしても玉石混交になりがちです。しかし,その道の達人が選んだサイトや発信するニュースならば,より信頼が置けるはずです。ですから,ガイドを務める私自身も,他のテーマガイドのリンク集や記事を参考にすることがよくあるのです。

 ところが,昨今は「その道のプロ」がブログを立ち上げて,いわば「1人アバウト」を始めるケースが増えています。テレビにコメンテーターとして登場したり,書店で本が並ぶような大学教授,コンサルタント,評論家などが,ブログを書くケースも珍しくなくなりました。同時に,その道を極めながら今まで脚光を浴びなかったスペシャリストが,ひそかにブログで有用な情報発信を続けています。中には,ブログ発で書籍を出版し,講演で全国を行脚している達人もいらっしゃいます。

 こうした「その道のプロ」から,ブログマスター・ブログメンターを見つけるのは,一つの早道です。

 その時のコツは「有名無名で実力を判断をしないこと」です。有名だから有能とは限りません。そのことは,私がバブル崩壊前後の証券会社に勤めていた時,身をもって体感いたしました。もしお時間があれば図書館に行って,バブル崩壊直前の日経新聞や有名経済誌に特集された著名経済評論家,アナリストの予測記事を探してください。多くの人が株価暴落を予見できなかったこと,それを見事に外しながら現在も著名人として活躍している方が多いことに驚くはずです。

 また,その道のプロには,主義主張が偏っている方,さらには特定の組織に近い御用学者,御用評論家と呼ばれる方も多いようです。あるテーマのブログマスターを探す時には「中立公正・独立自尊の方」を探すのが良いでしょう。しかし現実には難しいので,両極の意見を持つブログマスター2人の情報を得るのもお勧めです。

公明正大・知恵共有のため失敗体験も発信する人

 その道のプロが,真のプロかどうかを判断するのは難しいことです。しかし,リスク情報や失敗情報に代表されるネガティブ情報を開示しているかどうかは,一つの判断材料になるでしょう。

 前述のバブル崩壊予測の例では,どの経済アナリストが判断を誤ったかは,図書館に行って調べなければわかりませんでした。しかし,ブログの場合は,本人が削除しない限り,自分の過ちが過去の記事として残ることになります。

 私も,縁者向けに縁尋奇妙というメールを送りはじめて,10年近くが経ちます。かつては日経ベンチャーのWebサイトにも連載されていました。今,振り返っても数々の間違った情報を発信していて赤面します。縁者からご指摘を受けて訂正させていただいた経験も数知れません。たとえネット上で削除したり訂正したとしても,敬愛する縁者の方の受信箱に残ってしまうので,どなたかに迷惑がかかるケース以外は,そのまま過去ログを残しています。

 迷ったときは,多くのトップセールスパーソンが心得る「ネガティブ情報開示の原則」を,私は思い出すようにしています。

 優秀なセールスパーソンほど,お客様の不都合となり得るリスク情報をはじめとする自社商品や自分の短所などについて,あらかじめ開示することをためらわないと聞きます。それによって,まず,お客様の知識量が増えて喜ばれます。そして,お客様が自主的に判断し決断することにもつながり,後々クレームにならないそうです。何より,都合の悪いことも隠さないお人柄が認められて,信用を勝ち得ることになるのです。

 それから,「成功情報」よりも「失敗情報」の中にこそ「役立つ教訓」が秘められていることに賛同してくださる方は多いでしょう。日経ビジネスの「敗軍の将,兵を語る」が長期人気コーナーとなり,最新号で特集にさえなっているのも,失敗情報を重用している人が多いことの証左だと思います。

 ブログでも失敗体験を書くことは大切です。似た体験や悩みを持つ方の共感を呼ぶと同時に,失敗を繰り返さないための知恵も蓄積され共有されるからです。失敗体験を書いたことがある方なら,いつも以上に反響が大きかった経験をお持ちでしょう。かくいう私も,最近はITの達人でデジタル技術信奉者と勘違いされやすいので,自らの情けない現実を「ITの逆説 パラドックス日記」で連載しています。恥ずかしい自分を書くのは最初は勇気が要りますが,書いてしまえば意外にスッキリするものです。

 「成功をもてはやし,失敗したら叩く」文化がマスメディアでは散見されますが,「失敗情報を本人が語り,次代の知恵とする」文化が心あるブロガーで培われたら良いと考えます。そのためにも,「失敗体験を発信するプロこそ,真のプロである」と考えて,そんな方をブログマスター・ブログメンターとして応援したいものです。

信用第一・存続責任を重んじる老舗企業オーナー社長

 その道のプロというと,私には一つの人物像が浮かびます。それは,本業一筋の中小企業経営者,しかも何代にもわたって暖簾(のれん)を守る老舗企業の経営者です。

 縁あって,最近は,各地の先輩経営者のみなさまにブログやメールの活用法についてお話させていただく機会が増えました。商工団体のリーダーや役員をお勤めの方々は,多くの場合,何代も続いている地元老舗企業のオーナー社長さんです。そんな先輩社長には,一言で言うならば「人物」がいらっしゃいます。そして,お金では買えない大切なものを教えられることが多いのです。

 誰もが顔見知りでもある地域経済圏で信頼を勝ち得て,しかも長年にわたって企業を存続させるには,おそらく人知れぬご苦労があるのでしょう。目先の利益を欲張らず地元の公益も考える…,家名や信用を重んじながらも目立ちすぎない…,厳しい家訓を守りながらも進取の精神にも富む…,まさに頭が下がる思いがいたします。

 そんな老舗企業のオーナー経営者や,その後継者が少しずつブログを始めています。そしてありがたいことに,今まで接する機会の少なかった老舗の経営者に,ブログへのコメントやメールで直接コンタクトが取れる時代になったのです。

 都市で生活し,大企業に勤めるビジネスパーソンも,大好きな城下町の名店や,愛用するメーカー経営者のブログを読めば,人生の楽しみも深みも増すでしょう。そして,ブログやSNSで繋がれば,いずれ彼の地でお目にかかる機会もあるかもしれません。

公益第一・長期視点の志が高いNPO/NGO

 私が敬愛するブログマスター・ブログメンターには,NPO/NGO(非営利組織/非政府組織)のリーダーも少なくありません。

 量・質共に良く似たブログながら,意見や結論が違っているとします。その片方が民間企業がマーケティングの一環として発信した情報,もう一方が非営利のNPO/NGO法人が発信した情報だとしたら,どちらの情報を信じるでしょうか?

 例えば,私が自分や家族のアレルギーで悩んで情報を探しているとしたら,残念ながら医薬品関係の企業のブログよりも,NPO法人のブログを先に読んでしまうかもしれません。

 民間企業,とりわけ株式公開をしている企業は,資本市場の国際化で株主重視の経営に移行しつつあります。経営者は,どうしても四半期ごとの利益や日々の株価を意識しながら経営しなくてはならないのです。

 一方,心あるNPO/NGOは,それこそ100年後の地球や子孫のことを考えて活動しているケースも少なくありません。短期的な株主の利益より,長期的な公益を考えている点は大きな違いでしょう。

 もっとも,NPOやNGOも玉石混交です。特定の団体や企業の色がついていたり,主義主張が偏っていることもあるでしょう。活動の背景について詳細に書かれているかを確認し,団体名でGoogle検索をしてマスメディアやネットコミでの評判を確かめることは必要です。

 しかし,何より重要なのは,その団体のブログや,メンバーの個人ブログで,実際に活動している方々のお人柄を知ることでしょう。ブログを読み続けることで,その方のライフスタイルや心構えが伝わってくるはずです。そこで伝わるリーダーやメンバーのお人柄に素直に共感できるなら,そのNPO/NGOも期待と信頼に値するはずです。

最後に頼りになるのは,人となりをよく知る縁者

 とはいえ,私自身が一番信頼しているブログマスター・ブログメンターは,実際にお会いしたことがある方,しかも年に一度はお会いしている方がほとんどです。残念ながら,ブログだけでは,どうしても伝わらないお人柄もあるのです。

 思い起こせば,ブログマスター・ブログメンターとのご縁の始まりは様々です。商談で,勉強会や講演会で,さらには縁者からのご紹介で実際にお会いして,この方から生涯教えを受けたい,おつきあいをさせていただきたいと思ったのがきっかけです。交換した名刺やメールの電子署名にブログのURLがあったらチャンスです。毎日お会いできないからこそ,ブログを拝読しないわけにはいきません。そして,ブログを読めば,ますます尊敬し,身近に感じることができます。

 そんな大切なブログマスターやブログメンターと実際お会いして親身の交流をするためには,自らブログでの情報を発信しなくてはなりません。ブロガー社会では,ブログは名刺代わりだからです。そのブログが,今回ご紹介したような信頼に足る要素を兼ね備えたものであれば「人物」だと認められて,縁が開けることでしょう。理想は,ご自身も,誰かにとってのブログマスター・ブログメンターになることです。

 こうして,お互いのブログを親しく交換するようになれば,時には,実際にお会いして話したくなるはずです。ブログを続けている方ならご存知のように,書きたくてもネットでは書けない大切なことが多い。ブログ時代にあって皮肉なことですが,本当の情報は,敬愛するブログマスターたちと一対一で実際に会って親しく話した時に得られると実感しています。

 それぞれの道を極めようとしているブログマスター同士が,肩寄せ合ってオフラインで語らう「ここだけの話」に勝る「生きた情報」はないと考えています。