少し前の話だが9月20日に、日立情報システムズが9月中間期の業績予測を下方修正した。なんでも連結経常利益が従来予想より15億円下回る32億円となり、増益見通しから一転減益となるという。まあ業績予測の下方修正なんか日常茶飯事だから、投資家でもなければ大した話ではないのだが、「将来を見据えたチャレンジングな案件で躓いた」といった趣旨の説明を見つけ、あれっと思った。

 ITサービス会社も今、リスクを取るべき時だ。プロジェクトの失敗を過度に恐れるあまり、ガチガチの管理ばかりをやっていては未来がない。そんな話を以前書いたことがある。だから、チャレンジングな案件に挑戦して失敗するのは、ある程度は仕方がない。だが、経営トップが投資家に頭を下げなければいけない業績予想の下方修正となると、ちょっと穏やかではない。「ほら見たことか」という声も聞こえてきそうである。

 で、少し詳しく話を聞いてみた。中堅・中小企業向けのSIを得意とする同社にとって、チャレンジングな案件とは、大企業の大型案件や、地方自治体におけるシェア拡大を狙った合併システム案件を指す。そして、ここで不採算プロジェクトが10件発生し、中でも問題なのは大企業向けの3件のプロジェクトだったという。ただ、その3件の失敗の要因は、極めてトラディショナル。顧客の要件が曖昧な状態での商談・見積もり、結局要件を固めきれず、仕様が膨らんでコストオーバー、そんなところだ。

 それを聞いて、なーんだと思った。正直少し安心した。業績下方修正の原因が、リスクを取ったことではなく、リスクを管理できていなかったことだったからだ。日立情報では、システム開発フェーズはともかく、上流の商談フェーズで案件の危険度を精査し、曖昧性を排除する仕組みが不十分だったのだ。

 リスクを特定し、そのリスクが顕在化しないような対策を講じ、万が一リスクが顕在化しても損害をミニマイズできるような統制機能が不備のまま、リスク案件にチャレンジすると大変なことになる----今回のケースはそんな話だ。リスクを取れと言っても、危ない案件を平気で取りに行くような“火中の栗プロジェクト”をやれと言っているわけではない。リスクをきっちり管理できてこそ、リスク案件に挑戦できるのである。

 それにしても、ITサービス業界では、こうしたリスク管理がまだまだ発展途上なのだなあと、つくづく思う。商談フェーズからPMOが関わり案件を精査するITサービス会社の取り組みがよく紹介されるが、まだまだ限られた試みなのかもしれない。日立情報も、今回の一件に懲りて、今後そうした取り組みを開始するという。でも、そうしたリスク管理体制を万全なものにしないと、新しいプロジェクト、新しい事業にチャレンジできない。リスク管理、急ぐべし、である。