第一線のSEにはIT製品スキルやシステム構築力,アプリケーション開発力,プロジェクト管理力,表現力など様々な能力が要求される。そのためIT企業やSEはIT技術やプロジェクト管理,コミュニケーションなどのスキルの向上,各種の資格取得などに熱心だ。

 それはそれでよいことだが,筆者の眼から見ると,一般に日本のIT企業やSEは“SEとしての物の見方や考え方や価値感”など精神面をおろそかにし過ぎていると思う。技術面重視・精神面軽視である。

行動は考え方と価値観で決まる

 20代30代のSEと称する人の中には,ITスキルだけ強ければ飯が食えると錯覚している人も少なくない。そしてIT企業やSEマネジャもそんな脆弱な心構えしかもっていないSEを指導もしない。そんなSEは顧客からは「SEは冷たい。壁を作る。頼りにならない」などと評されている。

 そんな状況を見るにつけ,それでよいのだろうかと疑問に筆者は思う。IT企業やSEマネジャは,もっと「SEの考え方作り・心構え作り」に力にを入れるべきだと敢えて提言したい。

 筆者の持論だが,図で示す通り“物の見方や考え方,価値感”はSEが持つべき能力の核である。その中でも特に第一線のSEにとっては,顧客とビジネスに対する考え方とSEの在り方が重要である。これらがしっかりしていないと,いかにIT(情報技術)に強くてもなかなか顧客に信用されないし,営業にも軽視されかねない。すると結局はなかなかよい仕事はできないし,一流のSEにもなれない。


図●SEが持つべき能力

 この“SEの物の見方や考え方”とは,例えば筆者が8月18日号のブログで述べた「SEの任務はビジネス目標の達成と顧客満足度の向上」や,前回の「顧客が51:会社が49」などだ。これらは筆者が主張する,SEが持つべき“SEの物の見方や考え方,価値感”の重要な柱である。

SEの考え方・価値観一つで仕事のやり方が変る

 以前にも述べたが,SEが自分の任務を「ビジネス目標の達成と顧客満足度」と考えるか,そうではなく「技術に強くなること」だと考えるか,また,顧客と会社の板ばさみになった時に「顧客が51:会社が49」で考えるか「顧客が10:会社が90」と考えるかによってSEの仕事のやり方が大きく変わる。そしてそれが顧客との関係を左右し,信頼されるSEになれるかどうかを決める。

さらに,受身的なSEになるか能動的なSEになるか,ビジネスに強いSEかそうでないかなどどんなSEになるかも左右する。この他にも卑近な例では「顧客が困っていても俺には関係ない」と考えるSEは顧客が困っているのを見ても声もかけず知らん顔をするし,そうではなく「顧客が困っていたら助けるのは当たり前」と考えるSEはお客様に声をかけ相談にのるものだ。

 以上2,3の例を述べたが,要はSEの考え方一つで顧客やまわりの人から頼りにされるか,そうでない2流・3流のSEになるか,その道が分かれると言っても過言ではない。

 そのためにはSEは前述の任務にせよ,顧客と会社の「51:49」の関係にせよ,仕事にまつわる物事について”正しい考え方・価値感”を身に付けることが肝要である。人間と言うモノは間違った”偽物の考え方”を身に付けると間違った行動をするから要注意だ。

“正しい考え方”とは“普遍的な考え方”

 では,”正しい考え方”とは何かだが,それは一言で言えば顧客や社内の多くの人に受け入れられる“普遍的な考え方”である。決して独りよがりの考え方やSEの世界だけでしか通用しない考え方ではない。

 例えば,先輩SEが後輩に「お客様とはこういうものなんだよ」と言っても,それが大手顧客にはあてはまるが中小顧客ではあてはまらないようでは普遍的とはいえない。またビジネスに対する考え方でも,SEの世界では通用しても営業の世界では通用しないのであれば,それも普遍的とはいえない。

 そのためには,SEは視野を広げる,考える,多くの人の話を素直に聞く,本を読む,反対意見も聞く,討議する,などの努力をしたり,できるだけ多くの顧客やプロジェクトを経験することが肝要である。

 なお,余談かもしれないが,一般にSEの世界には視野の狭い人が多い。そんな人は謙虚になって反対意見も含めいろんな人の意見に耳を傾けることをぜひ勧めたい。

様々な経験が普遍的な価値観を育てる

 筆者自身の話を少しする。

 筆者は幸か不幸かSE時代に非常に厳しい経験をした/させられた。中小企業や大企業顧客など20件近く大阪・東京で担当した。そこで数多くの顧客の部課長や担当者と仕事をし,喧嘩もした。数多くのアプリケーション開発やシステム導入や売り込みなども行った。販売競争では勝ちもしたし負けもした。社内ではいろいろな先輩や後輩や営業などと仕事をし喜怒哀楽を色々と経験した。入社6年でボスも10人ほど代わった。

 様々な経験をした結果,30代の頃,第一線のSEにとっていかに仕事上“物の見方や考え方,価値感”が重要かを知った。そして「顧客とは何か?」「SEとは何か?」「ビジネスとのスタンスは?」などについて自分なりに色々と勉強した。日ごろも常にその問題意識を持ち続けた。

 その後,SEマネジャになってからも部下にそれを要求した。特に,「SEは顧客やビジネスとの関係をどう考えるべきか?」「第一線のSEはどうあるべきか?」を重要視した。そして,それを中心に物事の考え方・考え方を徹底指導した。そのとき前述の「SEの任務は…」や「顧客51:会社49」を初め「SEは顧客と喧嘩しても正しければ決して負けない」「馬鹿な営業に馬鹿にされるな」「SEが技術に強いのは当たり前」などいろんな造語も作った記憶がある。

 今でも当時の連中と酒を飲むと,彼らは「馬場さんは“それはこう考えるんだ”と考え方にうるさくて困った」とか「我々に“SE道”を教えてくれた」などと言って酒の肴にしているほどだ。

 以上色々述べたが,要はSEはIT技術だけ追っかけていてもダメだ。技術はもちろんだが,SEの仕事にまつわる物事に関する,正しい物の見方や考え方,価値感を身に付けることも重要である。

 読者の方々も,たまには「今の自分の考え方や物の見方が正しいだろうか,普遍的だろうか」と自問自答し確認してみてほしい。そしておかしい点があれば直してほしい。これが今日の一言である。