前々回,見積もりの順序について書きましたが,ここで示した規模見積もりや工数見積もり,コスト見積もり,価格設定――という作業は,いったい誰が行えばよいのでしょうか?

 会社によって,あるいは見積もり対象となるプロジェクトの大きさや複雑さによっても変わってくるでしょう。しかし通常は,コスト見積もりまでは開発部門が,価格設定については営業部門が主体になって決めていくべきです。そして見積もり結果は最終的に「見積書」としてまとめ,営業部門の責任者が押印して依頼元に提出します。また,社内用の見積もり取りまとめ票には,開発部門や関連部門の押印やサインをします。

 今回は,規模見積もり,工数見積もり,コスト見積もりの開発部門が主体になって行う作業について,誰が実施するのが好ましいのかを考えてみます。

 まず,組織として見積もり責任者を明示的に指名した方がよいことは言うまでもありません。見積もり時のプロジェクト・マネージャのことです。ベンダー側にとっては,まだこの段階では受注が取れるかどうか分かりません。つまり,プロジェクトの仮スタートにおいてプロジェクト・マネージャを決定するわけです。

 では,プロジェクト・マネージャが自己の責任においてすべてを見積もればよいのでしょうか? 私は「ノー」だと思います。プロジェクト・マネージャが最終責任(Accountability)を負うにしても,見積もりの作業はできるだけメンバーに任せるべきでしょう。

 その理由は二つあります。一つは,見積もった数字に「オーナーシップ」の意識を持たせることにより,結果も変わってくることです。実際に日々,開発の現場で仕様のやり取りをしているメンバーに「これは私が見積もった数字だ」という意識を持たせることは重要です。これがあるのとないのとでは,最前線での交渉内容にも差が出てきます。問題が発生したときに,エスカレーションすべきかどうかの判断も的確になります。

 二つ目は,育成の観点です。新人では無理でしょうが,若い人に見積もりの一部を任せていくのは大変よいことです。私自身も3年目ぐらいから,当時の上司に簡単な見積もりを意図的に任せられて,徹底的な指導を受けました。プロジェクトを一通り経験して,基礎的な技術力もついた頃です。若いうちから未来のことを合理的,論理的に考える習慣を身につけることは,大きな財産になると思います。

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