筆者は,SI企業で働く20代のエンジニアです。これまで小規模なプロジェクトにSEとして参加してきました。残念ながら,現場で要求開発に携わった経験はありません。

 こんな私ですから,アライアンスの定例会でとある方に「要求開発は誰のためのもの?」というシンプルかつ本質的な質問をされたとき,思わずうろたえてしまいました。そのとき自分がどう答えたかは忘れましたが,とにかく理解不足が露呈してしまったことだけは覚えています。そう,うまく説明できないことは,十分理解できていないことの証なのです。

 このとき,助け舟を出してくださった方が私に代わって説明してくれたのは,「要求開発は,ユーザー企業のためのもの」ということでした。しかし,まだ私にはなぜ「ユーザー企業のためのもの」なのか,その意味が今一つ理解できていませんでした。

 消化不良気味の様子の私に,その方が質問を投げかけました。「ユーザー企業は何のためにITに投資をするのかな?」---。ここまできて,ようやく私も質問した方の意図が見えてきました。

 ユーザー企業がITに投資するのは,ビジネス上の戦略やITで実現したいことがあるからにほかなりません。しかし,投資に見合った十分な効果を上げる「本当に役に立つ」システムを構築するには,システム企画(何を作るのか),業務設計(どのように業務を遂行するのか)とRFPの作成(どんなものが欲しいのか)といった作業を適切に行う必要があります。多くの企業が,こうした作業についての悩みを抱えています。

 例えば,企画段階でいろいろと「要望」が出てくるものの,ビジネスや業務の具体的な「あるべき姿」が見えておらず,やみくもに検討を進めるうちに時間切れで開発に着手してしまう。結果として「使えないシステム」ができあがる・・・。そうしたケースが多々あるのです。要求開発が必要なのも,こうした理由があってのことです。

 私自身,これまでアライアンスの定例会に参加したり,書籍を読んだりして,「要求開発」についてそれなりに理解しているつもりでした。しかし,理解していたのは,要求開発には準備,立案,デザイン,シフトの4つのフェーズがあり,それぞれPDCA(Plan,Do,Check,Act)のプロセスで進めるということや,どんなモデリング手法があるのかといったことでした。つまり,私が理解していたのは,要求開発そのものではなく,その方法論(Openthology)についての教科書的かつ断片的な知識でしかなかったのです。

 何のために「要求開発」が必要なのか。そのことを考えるに当たって,Openthologyで紹介されているモデリングやプロセスの目的が何かを改めて考えるようになりました。先の4つのフェーズによって段階的な詳細化を進め,各フェーズのアクティビティを実践し,モデリングを行うことでビジネスの「見える化」ができます。Openthologyは,そのためのガイドラインであるということに改めて気づきました。

 適切なビジネス・モデリングを行い,ユーザー企業の戦略やプロジェクトの目標を達成できるシステムを構築することは,ユーザー企業にとって素晴らしいことです。ここでやっと「ユーザー企業のためのもの」という意味が理解できました。

 とは言うものの,私はまだまだ未熟者。その後の議論で,「モデリングには目的がある。目的のないモデリングは意味がない」という言葉に衝撃を受けてしまいました。次回はこのモデリングの目的について考えてみたいと思います。

(中山 尚子=要求開発アライアンス)