海外アウトソーシングでは,言語,文化そして考えが異なる海外技術者のチームや組織が日本の開発案件に対応します。日本側が「上から押さえつける」やり方で対応すると失敗します。今回はその失敗事例をお話ししましょう。

 それはベトナムにオフショアした開発プロジェクトで起こったことでした。以前に発注したオンサイトとオフショアによる2つのプロジェクトで期待以上の成果が出たため,次のオフショアプロジェクトもベトナムに発注しました。それは一定のボリュームはあるものの技術的難易度はあまり高くない開発案件でした。ベトナムでの初期打合せで要求仕様,開発計画を確認し,それまでの実績により成功は間違いなしと確信していました。

 そして,3ヵ月後,現地で進捗をレビューしました。そこで,開発が大幅に遅れていることが判明しました。レビュー初め,日本側メンバは「そんなはずはない!」と半信半疑でしたが,遅れの実態と客先納期に間に合わないことがわかり苛立ちました。

 性急な日本側プロジェクトリーダは,急遽,現地委託先のトップをプロジェクト会議に呼びました。そしてプロジェクトメンバ全員の会議の中で,トップに「当初の約束が実行されていない。これでは困る。とにかく約束どおりに納期に間に合わせて欲しい!」と大きな声で怒って発言しました。それを聞いたシャイな技術者達は萎縮してしまったのでした。

 この会議は,委託先に表面的な対策のみを急がせ,遅れの真の原因を究明できないまま,委託先における人員増加など付け焼刃の対応をさせてしまいました。表面的にプロジェクトは進んだように見えたものの,その開発はうまく進まず,納入時点で成果物の品質は極めて悪く,基本設計の問題も顕在化し,その開発は挫折してしまいました。

 ベトナムでの会議の場で,日本側プロジェクトリーダは開発をうまく進めようと思って高圧的に発言したわけですが,それは裏目に出ました。現地の技術者達は基本的にシャイな性格で,あまり反論しない傾向があり,会議で怒りをぶつけられたことにより,開発目標の達成に向けて進むのではなく,「とにかく言われたとおりやればよいのだ」と開き直ってしまったのでした。

怒りをぶつけても解決しない,冷静に問題の本質を見極めよ

 人間は感情の動物です。日本国内であれば,人間関係が多少悪くなっても慣習の縛りもあるため,「相手は気に入らないが,この仕事だけは何とかやろう」ということになります。しかし,日本との関係の少ない海外技術者の場合,その縛りは弱いものです。開発目標の達成より当面の作業だけが大事と認識した場合,表面では進むように見えても,実際の進捗では問題が発生します。一定のプロセスがあっても,オフショアメンバのモチベーションや目標達成意識が低い場合,オフショア開発はうまく進みません。これは他の国でも同様の傾向です。

 この挫折を認識したときは,それまで築いてきた顧客の信頼を失うことになると考え,目の前が真っ暗になりました。直ちに対策を検討し,日本側責任者を現地に精通した別の人材に交代させ,翌日現地に派遣しました。そして現地での問題解析,ソフトウェア改造に当たらせ,短期対応改善版をリリースさせました。そして,3ヵ月後にソフト再構築した最終版をリリースするところまで回復しました。

 しかし,一度大きな問題が発生すると,その失敗の悪いイメージが人間の潜在的意識に刻みこまれるので,払拭することはとても難しくなります。それまで海外側と良好な関係にあった最初の日本側プロジェクトリーダは,もう海外アウトソーシングはやりたくない,付き合った海外メンバの顔も見たくないと思うようになりました。これでは海外で仕事はできません。そこで交代させたわけです。

 プロジェクト建て直した後,問題を詳しく調べたところ,1.仕様を説明したつもり,2.仕様変更の重なり,3.海外側プロジェクトリーダの交代,4.ドキュメント翻訳の質の悪さ,5.多数のプログラマが参画し,コーディングに一貫性がない,6.現地のシャイで受身な姿勢,7.日本側の高圧的姿勢,等々の問題がからんでいることがわかりました。

 最終的に,今回の失敗を日本側と海外側のマネジメントの不備という言葉で片付けることもできます。しかし,あのレビューの時,日本側が高圧的にならず,目標と現状とのギャップの現実を認識し,現地技術者とオープンに本質的な解決策を議論することができたなら,よい結果につなげることができたであろうと思います。また当時は,ただプロジェクトリーダに任せて自分のやり方でやらせることが成功につながると信じていました。これも失敗の原因の一つでした。

 さらにプロジェクトの成功や失敗の事例を調べた結果,以下のような事実がわかりました。1.問題を起こした人間は,また問題を引き起こす可能性が高い,2.うまくやる人間は,次もうまくやることが多い,3.人間の組合せの問題がある,4.スキル,才能,性格がプラスに働く場合とマイナスに働く場合がある。どうやら,状況に応じた最適な人材とその組合せがあるようです。

 あの失敗以来,状況に応じて適切な人材を選定して対応させ,失敗させないよう留意しています。そのうまくいった事例もご紹介しましょう。