これまでの新聞社のネット活用というと,既に記事になった情報を,後でネットに掲載する場合が多かったでしょう。

 しかし,新聞を読まず,テレビも見ず,ネットやケータイだけでニュースを見る層が着実に増えつつあります。一方で,新聞社サイトや,新聞社が記事提供を行うサイトのアクセスが増えることで,新たな広告収入や情報提供料の道が開かれつつあります。

 そこで,以前よりは,新聞のヘッドライン記事などを,当日に紙面とほぼ同時に読めるケースが増えました。

 といっても,全ての記事がネットで公開されているというわけでもありません。 また,公開された記事のバックナンバーがいつまでネット上に保管されるかも明らかではありません。もともと,多くの新聞社が,過去の新聞記事の検索ができるデータベースを,会員向けに有料で提供していました。その知的財産を,インターネットであまねく無料公開というわけにはいかないのでしょう。

 ですから,はじめに新聞の記事ありき。ネットは,後で記事を補うものという印象は,まだ否めません。

 しかし最近,ある新聞とネット記事で,新しい体験をいたしました。新聞掲載前に,記事をネットで公開することで相乗効果を上げる試みです。

 今回はその経験を踏まえ,新聞や新聞社サイト掲載という「イベント」の前後に,ブログなどのネットと掲載者のネットコミを活用して,事前の「プレイベント集客効果」,事後の「ポストイベント集客効果」を高める方法を考えます。

読売新聞特集記事が紙面よりもネットで先に公開

 毎週月曜日の読売新聞朝刊に,「Y&Yしごと」という別刷りが添付されています。その特集記事「トレンドランナー」を愛読されている方はきっと多いでしょう。あるいは,YOMIURI ONLINEジョブサーチのネット上でお読みになっている方もいらっしゃるかもしれません。

 ここで紹介される「トレンドランナー=ビジネスに新しい風を起こされている方々」のみなさんの生き方に,私も深い関心と共感とを抱く愛読者の1人です。

 ところが,思いがけず先週9/21(木)に「ジョブサーチ」で,同じく今週25日(月)には読売新聞朝刊 「Y&Yしごと」紙面で,私がご紹介をいただく幸運に恵まれました。表題は,「老舗中小企業にもブログ普及」です。

 記事の中身はご高覧いただくとして,私が関心を抱いたポイントは,新聞紙面に先んじてネットで公開されたことです。

 ご取材くださった読売新聞の小池俊幸さんから,掲載日のご連絡を電話でいただいた時に,「ネットで先に公開します」とお話しになったので驚きました。そして,紙面掲載前に「縁者のみなさまにもメールやブログでネット記事を告知していただけると嬉しい」というお話をいただいたのです。

事前告知で掲載予定者が関係者に自ら周知徹底

 もちろん,「抜く抜かれる」と速報性を競い合う記事ではなく,掲載日が問われないコラムだったからこそ,こうした逆転現象も可能になったのでしょう。また「Y&Yしごと」と「ジョブサーチ」が,求人・転職関係の広告企画ページとWebサイトだったので,「新聞記者魂」よりも「マーケター魂」が優先されたのかもしれません。

 おそらく,小池さんやスタッフの方々の頭には,既に紙面やネットという区別をすることなく,「いかに多くの想定顧客にリーチするか」を重視した方策が浮かんでいらっしゃるのでしょう。

 ネット時代には,掲載予定の法人や個人に事前告知をすることで,記事の読者が増えることは間違いありません。特に「トレンドランナー」に掲載されるような方なら,既に,ホームページ,ブログ,メールマガジン,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった個人的な関係者・縁者向けの複数の告知手段を持っていることでしょう。

 私自身も,親しい縁者から「来る○月○日,□□で紹介されます」といったご案内をメールやブログでいただくことが多いのです。そうすれば,いつもナナメ読みやナガラ視聴をしているマスメディアでも,真剣に注目したくなるのです。

 逆もまた真なり。恥ずかしながら,私も掲載日を教えていただいたことで,思わず「読売新聞をご高覧くださいませ」というブログ記事を書いてしまいました。そればかりか,前日には,縁者に向けて「号外メルマガ」まで発信してしまったのです。

事前ネット公開で掲載予定者も安心してネットコミ

 しかし,ご自身が紹介される記事を,関係者に向けて広く告知にしたことがある方なら,きっと共通の戸惑いをお持ちでしょう。

 それは…,例えば…,

「本当に紹介されるのだろうか?」
「どれぐらいの大きさで紹介されるのか?」

 新聞ですから,大きな臨時ニュースがあれば,途端に紙面で扱う記事の中身や,個別記事のスペースが変わってしまいます。もちろん,ご紹介いただく私たちがとやかくリクエストを申し上げるのはお門違いで,そんな資格はありません。

「ちゃんと紹介されているか?」
「誇張や批判記事ではないか?」

 今回のように,事前に小池さんが事実確認の校正をさせてくださる場合は,非常に稀なケースです。取材,執筆,編集につきましては,取材した記者と編集をするデスクや編集長の,あるいは整理部の裁量になります。そこで,本意ではないご紹介をいただくケースもないとは言えないでしょう。

 つまり,関係者に「記事を見て!」とPRしながらも,掲載記事を見るまではドキドキしている方が多いはずなのです。

 ところが,事前に,ネットに掲載記事がアップされていれば,どうでしょう?その内容に,ある程度納得できたら,多くの掲載者やその関係者は,安心してネットコミを始めるのではないでしょうか?

 また,当日,他の記事との兼ね合いで扱いが小さくなる場合でも,スペースの制約が少ないネット上では,本来の原稿が紹介されるでしょう。それなら,掲載された方は,紙面での扱いが小さくなっても必要以上に残念に思う必要はないでしょう。また,ご紹介した記者の方が申し訳なく思うこともなくなるはずです。

ネット公開で非購読者も購読者も記事を読む

 もう一つの問題は,告知していた関係者が,ご紹介予定の新聞,雑誌を定期購読していないケースがあることです。特に,新しい購買層として期待できる若年層やインターネット活用層に対して,新聞や雑誌がリーチしづらくなっているのは,新聞社にとっても広告主にとっても,ゆゆしき事態でしょう。

 一方,定期購読しているビジネスパーソンであっても,必ずしも記事にくまなく目を通すわけではないはずです。昨今は,ニュースサイトや専門サイトを併用して情報収集している人が多いのではないでしょうか。だとすれば,朝,新聞をかたわらにメールを開けた時にタイミングよく,「今日の新聞を見てメール」が届いていなくてはなりません。それは,相手の生活パターンに依存するので,現実的にはなかなか難しそうです。

 それから,会社や通勤途上では日経を,自宅では読売,朝日など他の新聞を購読している家庭も多いと思います。そんな時,家に帰るのが遅くなったビジネスパーソンが,あらためて新聞を熟読することは難しそうです。また,家庭で新聞(とチラシ)を熟読していた専業主婦層の情報収集パターンも変わりつつあります。ネットやケータイへの依存度は高まりこそすれ,下がることはなさそうです。

 こうした新しい情報活用者たちに,じっくり記事を読んでもらうには,もはやネットかケータイ,あるいはフリーペーパーしかないのかもしれません。いまさらフリーペーパーをゼロから始めるよりも,既にある新聞社の人気ネットサイトの活用度を高めるのが近道でしょう。

 即ち,新聞発行部数と同時に,新聞社のWebサイトやケータイサイトのユニークアクセスユーザーの数が問われる時代になったのです。