有力ITサービス会社、日立ソフトウェアエンジニアリングの小野功社長が06年9月11日、2010年度に売上高2000億円、営業利益率10%を骨子とする経営方針を発表した。04年度に赤字転落した日立ソフトは、その原因である不採算案件の削減を図る一方、原価低減と生産性向上で利益率の改善を図る方針を打ち出した。だが、この6月末に日立製作所副社長から日立ソフトに転じた小野社長は縮小均衡に入った日立ソフトを、再び成長路線の軌道に乗せる考えだ。どんな手を打つのだろう。

  日立ソフトは03年度まで売り上げ、利益とも順調に伸ばしてきた。ところが、04年度に大型の不採算プロジェクトが発生し、業績は一気に悪化した。「05年度は一定の回復ができた」(小野氏)ものの、売り上げは04年度の1806億円から1545億円と大きく落ち込んだ。海外から調達していた端末機器の販売中止などによる。そんな状況の中で、08年度に売上高1800億円(営業利益率8%)、10年度に2000億円(同10%)という目標値を再設定した。

00年度 01年度 02年度 03年度 04年度 05年度 06年度計画
売上高(億円) 1824.75 2070.84 2178.72 2243.74 1806.86 1545.89 1580.00
経常利益(億円) 130.78 133.40 128.21 97.68 -92.46 52.92 59.00

 そのポイントは収益構造の見直しで、10年度にサービスとプロダクト&パッケージで営業利益の半分、約100億円を稼ぎ出せるビジネスモデルに転換させることだ。これまでの主力事業であるシステム開発(基本ソフト開発、業務ソフト開発など)は大きく伸びることはないと予想し、3本柱にしていくわけだ。

 注力するサービス事業の1つは、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)である。SaaSはオンデマンド・コンピューティング、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)とほぼ同じようなもので、顧客に必要な資源を必要な時に必要なだけ供給する仕組み。まずはCRM(顧客関係管理)ソフトをASP方式で提供する米セールスフォース・ドットコムとの協業から開始する。サービスの再販からはじめ、次に販売管理や会計業務など自社ソフトと組み合わせたサービス提供、そして基幹システムなどユーザー企業のすべてのIT資産をデータセンターで預かるアウトソーシングへと発展させる目論見である。

  情報漏洩対策ソフト「秘文」に次ぐ、プロダクト&パッケージの主力商品を立ち上げることも収益構造の見直しに欠かせない。目下のところ、組込みデータベース、地図情報パッケージ、指紋静脈認証システムなどに期待をかけている。こうしたことを通じて、自主ビジネスの比重を05年度の64%から10年度に70%に引き上げる。日立依存度が高いままでは、大きな成長を見込めないからでもある。

 だが、小野体制に移行しても基本的な戦略は変わっていない。1年前、07年度に営業利益率8%を確保するために、自社パッケージの価値を高める策を模索しはじめた。システム開発分野の選択と集中も加速させるとしていた。今回の経営方針の目玉は2010年度に売上高2000億円にすること。小野氏が社長に就任して2カ月強しか経っていなかったこともあり、将来の大きな収益源と期待するサービス、プロダクト&パッケージへの開発投資額や売り上げを明らかにしなかった。

 小野社長は「パッケージの研究開発は高レベルの投資を維持する。そして、1年ごとに1つ1つを見極めながら、場合によっては中止させることもありえる」と話す。「これから伸びる分野と当社のノウハウを聞かせるところに、できるだけ絞り込み注力していく」(同)とする。06年度の売上高計画は微増なので、07年度から業界成長を大きく上回る成長を達成しなければならない。その実現に向けて、小野社長は具体策を年内から順次発表していくのだろう。