前回は,「説得力がない文書」とは何かを考えるために,私が文書チェック時に実際に指摘している事項の一例を見ていただきました。
~説得力がない文書への指摘事項例(実際の添削結果から)~
・この文章はどういう意味ですか?説明不足です。
・このセンテンスを明確に説明してください。 ・この主張の理由が不明確で説得力がありません。 ・「作業に抜けがないように~」とは意志が弱い表現です。「確実に作業をするために~」という具合に強い意志を持った表現にしてください。 ・一つのセンテンスが接続詞で結ばれて続いており,長いので疲れますし,分かりにくいです。適度に切って説得のリズムを高めてください。 ・表現が稚拙で,説得力がありません。 ・表現が受身で,説得力がありません。 ・表現は良いのですが,中身が薄いため,説得力が弱まっています。 ・何を言いたいのか分かりません。この主張は,ここでは意味がないばなりでなく,全体の文書の説得力を無くす原因になっています。 ・なぜそのように主張するのですか?その理由を明確に書いてください。 ・主張の意味がよく分かりません。分かりやすく説明してください。 ・主張していることで実現できる効果が抽象的で計画自体の説得力が弱くなっています。具体的に書いてください。 ・もう少し具体的に説明してください。 ・このことが具体的に何をすることなのか,何を目的としてやることなのかが分かりません。最初に単語の定義,言葉の意味を説明しておかないと,以降で何を説明しても納得してもらえません。 ・もう少し具体的な書き方をしてください。 ・全体的に説明不足です。 ・それはなぜですか?どういう理由ですか?理由を説明する必要があります。 ・なぜ,「社内の部門間だと関係がルーズになる」と主張しているのか分かりませんので,論拠が弱くなっています。 ・この記述では,上手く伝わらないため,別の表現にしてください。 ・このセンテンスは説得力が弱いです。
・なぜ,非効率なのですか? ・この接続詞は不要です。 ・この助詞は不要です。 ・この文章は不要です。 |
前回ご説明した通り,私は多くの文書の多くの場所に「同じような理由」で赤修正を入れています。(この指摘事項でも,同じような理由で指摘していることが多くあることが分かると思います。)
つまり,多くの文書は,ほぼ同じ理由で「説得力のない文書」になっているのです。では,どんな理由で文書が駄目になっているのかを説明していきましょう。
指摘事項を分類し,「駄目な理由」を探ると…
私は,文書添削をしながら,どうしたら説得力のある文書を書けるように指導できるのかを考えてきました。そして,指導方法を考えるために,まず,自分がどういう指摘をしているのかを分類することにしました。分類をして,原因をいくつかに分け,それぞれに指導法を考えることにしたのです。
私がこれを実施したのは,今から5年くらい前で,そのときの添削課題をサンプリングしました。しかし,現在の添削サンプルでも結果は変わらない(指摘事項は,昔も今もまったく変わらない普遍なもの)ため,ここで,そのステップを再現することにしましょう。
分類は,上記の「資料1:説得力がない文書への指摘事項例(1)」を使って行いますが,やや,サンプル数が少ないため,もう一つの指摘事項例(2)を追加してみます。指摘事項例(1),(2)とも,最近(今年度)添削した結果を使っています。
資料2:説得力がない文書への指摘事項例(2)
・この記述はどういう意味ですか。今一つピンときません。 ・話が唐突に飛びすぎます。まず,ビジネス業務内容を説明し,そのあと,どういうコンピュータシステムがあり,それがどういう役割を担っているかを説明した上で,詳細の手順を説明しないと分かりません。詳細レベルの課題を説明するなら,まず,概要,詳細を説明し,その後詳細レベルの課題を認識してもらうという努力をすべきです。 ・受身表現は×です。(会社が業務を変更することになったから)ではなく,(当社は業務を○○の理由で変更するため,コンピュータシステムも変更することになった)と主体的な表現をしてください。 ・「店舗の強化」とは,どういうことですか。また,どういう理由で強化する必要があったのですか。もっと分かるように説明してください。(「会社が店舗の強化を行うことになった」との記述に対して。) ・具体的には,どれくらいの数値として現れたのですか。(「依頼が一気に増加した」との記述に対して) ・応答時間は具体的にはどれくらい低下したのですか。また,最悪とは,どれくらいの数値を超えた場合なのですか。抽象的なのでピンときません。(「サーバーへの応答時間が低下したので,最悪の場合はシステムダウンする恐れがあった」との記述に対して) ・何が問題で,何をしたいのかもう一つよく分からないのですが ・なぜ,このようにする必要があったのですか。 ・漢字が間違っています。(解善→改善) ・助詞の使い方が間違っています。(を→に) ・なぜですか。その理由を確実に説明してください。 ・急に関係ない話を書かないで下さい。読み手が混乱し,首尾一貫性が損なわれます。 ・受身表現は×です。自分が主体的に実行したように書くべきです。 ・いきなり詳細なことを書くのではなく,まず,概要のヘッドラインを書き,これから何を述べるか簡単に説明した後,詳細に展開してください。 ・このパラグラフに記述されていることの意味が分かりません。他人にも分かるように説明してください。 ・稚拙かつ口語体の表現です。この文書は,文語体で表現してください。 ・こういう記号(?)は論述には使いません。 ・この主張は言いすぎです。ここまで言うとロジックが崩壊し,論理性が欠如します。 ・極めて口語体の文です。この文書では,×です。 ・あなたは,どのような考えがあって,このように行動したのですか。分かりやすい理由を説明してください。 ・あなたは,どのように考え,どういう工夫をして,上司に何を説明し,何を了承されたのかを具体的に書いてください。そうでないとあなたの行動を評価できません(「上司と相談して,私の提案が実施されることになった」との記述に対して) ・ヒアリングシートの効果が説明されていないため,この主張は評価できません。(「顧客からの要望を聞く際にヒアリングシートを使ったので,うまくいった」との主張に対して) |
指摘事項例(2)も,指摘事項例(1)と表現は異なりますが,多くの指摘の理由が重複しています。ただし,「首尾一貫性が損なわれる」,「ロジックが崩壊する」,「論拠を示す規模が抽象的」のような,より「論理性」に関する高度な指摘が増えています。
これは,指摘事項例(1)で使った添削文書よりも,指摘事項例(2)で使ったもののほうが,文書としては高度だったからです。すなわち,(1)の多くは,論理性をチェックするレベルまでいかず,表現が分からないレベルの文書であり,(2)は表現は分かるが,論理性が低いというレベルの文書であることの違いです。
しかし,サンプルとしては,この(1)~(2)で十分であり,これらの指摘事項例から,文書を駄目にする理由を導くことができます。
上表は,未完成です。指摘事項(1)を分類したことに加え,指摘事項(2)のみに存在する指摘内容を加味し,(7)~(10)の理由を記載しました。
基本的に私は,添削経験から,この(1)~(10)が文書の説得力を阻害する・弱める原因だと考えています。
では,次回は,この表を完成するとともに,(1)~(10)について考えていくことにしましょう。
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