携帯電話の番号ポータビリティ・サービスが10月24日から始まる。電話番号を変えずに,別の携帯電話事業者(キャリア)と契約できるようにするサービスだ。これまで,気に入ったサービスや端末があっても,電話番号が変わることが障壁になりキャリアを変更できなかったユーザーには朗報だろう。

 番号ポータビリティは,業界の勢力図を大きく変える可能性をはらんでいる。現在盛んにユーザーの意識調査や市場分析が行われているが,それらの数値を見ると,10%程度の人が番号ポータビリティを利用してキャリアを変更する意向があると言われている。さて,この数値を大きいと見るか小さいと見るか。

 8月末の日本の携帯電話契約者数は9350万人で,その1割が番号ポータビリティを使うとなると,およそ1000万人弱が異なるキャリアに変更するということになる。もしもそれが一方通行的であり,第1位のキャリアから第2位のキャリアにまるごと移ったりしたら,一気に1位と2位の差は約800万人となり,大きく縮まることになる。

 とは言え,こうした一方通行的な流れにはならないだろうし,それほど単純な話でもないであろう。番号ポータビリティだけではキャリア間の移動の障壁を完全には取り除けない。その一つの要因は携帯電話のメール・アドレスである。すでに日本では携帯電話は必ずしも通話のためだけに使われているのではなく,コミュニケーションツールとして,メールの占める位置が非常に大きい。はっきりとした統計データは発表されていないが,おそらく80%以上の携帯電話の加入者はメール機能を使っているのではないだろうか。これから始まる番号ポータビリティでは,キャリア間で「電話番号」は持ち運べるけれど,「メール・アドレス」は必ず変わってしまう。アドレスが変わるのがイヤな人は多いのではないだろうか。

 メール・アドレスだけでなく,購入したコンテンツなどの移行(持ち越し)もできない。電話番号さえ引き継げれば,自由にキャリアを乗り換える環境が整うかというと,まだ課題は多いというのが実情だ。そんなことを考えると,日本で番号ポータビリティが始まって,利用する人は潜在的には5%ぐらいなのではと想像している。

 また、若い世代では,友達同士で同じキャリアを使っている「仲良しグループ」が存在する。このユーザー層は,グループでキャリアを移行する可能性もありえる。こうした若者層では口コミで連鎖反応的に広がる傾向があるため,ある種の「雪崩現象」も起きるかもしれない。動向には注目していきたい。

 番号ポータビリティによる利用者の移動の要因は,現在のアンケートによると料金が一番の要因という結果が出ているようだ。しかし,一般的にユーザーは一度慣れてしまったサービスを変更するのには抵抗が大きく,消極的だ。これまでにないサービスや新機能,とっても斬新な端末,といった既存のサービスとの継続性があまり重要でない要因が出てきたときが,1つのタイミングになるかもしれない。例えば,最近ヒットの兆しのある「ワンセグ」,HSDPAになって高速通信を活かした本格的な動画サービス,最高に使いやすいミュージック携帯とか,何か大ヒットする端末やサービスが出てきたときにキャリアの壁を越えて利用が増えるということがあるかもしれない。つまり,大ヒットがより大きくヒットするという現象が起きる可能性が高い。

 一度サービスとして始まってしまえば,番号ポータビリティはいつでも利用できる環境になる。すなわち10月24日にあわてて乗り換える意味はあまりない。番号を変えずにキャリアを変えたいとずっと待ち望んでいた人を別にすれば,ユーザーはじっくり様子を見るのではないだろうか。ということで,番号ポータビリティの船出は案外静かなものになるかもしれない。