「SOAは、長くシステムを使い続けたい企業には薦められない」。ある大手ITサービス会社の社長が、そんな話をしているのを聞いて驚いた。えっ! SOAは長く使える柔軟な情報システムが欲しいというニーズがあるからこそ、編み出されたアーキテクチャじゃないの? しかし、もう少し話を聞いたら、あまりに単純な理屈に納得。でも、そこにSOAの普及が進まない、単純にしてやっかいな問題があった。

 長くシステムを使いたいユーザー企業に薦められないという理屈は、こうだ。SOAは現時点ではまだ先端領域の技術であり、十分に成熟しておらず、検証も進んでいない。そんな状況では、この先5年、10年と使い続けることが前提の業務アプリケーションには適用できないし、ユーザー企業に積極提案できるものでもない。

 まあ、理屈は全くごもっとも。ただこのことは、技術が未成熟のまま実用化されることが多いIT業界では、一般に言えることだ。だから、新しい技術は最初、物好きな企業がテスト導入し、次に、先端技術を導入することのリスクに見合う何らかのリターンがあると判断した、いわゆる先進企業が導入し、いわゆる先進事例を作る。そして、開発面、運用面で安定した技術となり、多くの企業に採用されるようになる。

 となると、「それは、SOAでも同じこと。やがて普及するから懸念無用」と言いたいところだが、SOAには1つ悩ましい問題がある。長く使えるシステムを作るという目的のために、失敗してシステムが長く使えないリスクを犯さなければならないのだ。長く使いたいのに長く使えないかもしれないでは、リスクとメリットのトレードオフにもならない。

 もちろん、劇的な運用コストの削減が可能とか、経営環境の変化に機敏に対応できる柔軟性とかいったメリットがはっきりと見えるならば、話は別だ。ただ現状では、まだ机上の話。それに、なにもSOAだと力まなくても、そうしたことは今の枯れた技術だけでも実現できる。

 そうでなくても、今なんとか動いているシステムを、アプリケーション面ではほぼ同じ機能のまま新しいシステムに作り直すのは、経営トップの承認を得るのが難しい。しばらくは、せいぜい、新規のシステムにSOA的な発想を取り入れる"プチSOA"が関の山だろう。まあ、SOA的な発想はやがて多くの企業情報システムに取り入れられていくのだろうけど、それまでITベンダーは"SOAマーケティング"への投資を続けていけるのだろうか。