前回から,新しいテーマとして「説得力をもった文書」についてお話をさせていただいています。私の文書チェック経験(論述試験の添削やビジネス論文,企画書,レポートなど,他人を説得する文書)をご紹介しながら,「説得力とは何か」を明らかにしていきたいと思います。

 さて,前回は,文章に説得力を持たせるのに必要なのは「(1)丁寧で正しい表現」,「(2)論理的に矛盾がないこと」,「(3)首尾一貫していること」と述べました。

 非常に基本的なことですが,これこそが「説得力を持つ文書」の要件です。これをもう少し詳しく説明していくことにします。

まず,「説得力がない文書とは何か」を考えてみよう

 説得力を持つ文書を書くためには,まず,「文書の説得力とは何か」を理解することが必要です。しかし,実は多くの人は「説得力」というのは何かというのも簡単には答えられないのではないでしょうか。

 そこで,読者の皆様と一緒に答えを考えていくため,「私が添削して赤ペンで書いた指摘事項(いわゆる赤書き)」を見ていただくことにします。

 この指摘事項は,私の講座で添削させていただいた中から選んで列記しています。指摘する基準は,私の講座での評価基準のうち,「(1)丁寧で正しい表現」,「(2)論理的に矛盾がないこと」,「(3)首尾一貫していること」の観点で指摘していることを挙げています。また,そもそもこの3点の判定の前提になる観点(表現が分かりにくい,説明不足,論拠不明,文章理解不能)も含まれます。では,じっくりご覧下さい。

~説得力がない文書への指摘事項例(実際の添削結果から)~

この文章はどういう意味ですか?説明不足です。
 (文章が意味不明であることを指摘して)

これは何ですか?一般的な言葉で書いてください。
 (文章中の単語が分からないことを指摘して)

このセンテンスを明確に説明してください。
 (文章中の段落全部が意味不明なことを指摘して)

この主張の理由が不明確で説得力がありません。

「作業に抜けがないように~」とは意志が弱い表現です。「確実に作業をするために~」という具合に強い意志を持った表現にしてください。

一つのセンテンスが接続詞で結ばれて続いており,長いので疲れますし,分かりにくいです。適度に切って説得のリズムを高めてください。

表現が稚拙で,説得力がありません。

表現が受身で,説得力がありません。

表現は良いのですが,中身が薄いため,説得力が弱まっています。

何を言いたいのか分かりません。この主張は,ここでは意味がないばなりでなく,全体の文書の説得力を無くす原因になっています。

なぜそのように主張するのですか?その理由を明確に書いてください。

主張の意味がよく分かりません。分かりやすく説明してください。

主張していることで実現できる効果が抽象的で計画自体の説得力が弱くなっています。具体的に書いてください。

もう少し具体的に説明してください。

このことが具体的に何をすることなのか,何を目的としてやることなのかが分かりません。最初に単語の定義,言葉の意味を説明しておかないと,以降で何を説明しても納得してもらえません。

もう少し具体的な書き方をしてください。

全体的に説明不足です。

それはなぜですか?どういう理由ですか?理由を説明する必要があります。

なぜ,「社内の部門間だと関係がルーズになる」と主張しているのか分かりませんので,論拠が弱くなっています。

この記述では,上手く伝わらないため,別の表現にしてください。

このセンテンスは説得力が弱いです。

なぜ,非効率なのですか?
 (今のやり方は非効率であるという書き手の主張に対して)

この接続詞は不要です。

この助詞は不要です。

この文章は不要です。

指摘する数は多いが種類は少ない

 私は,いままで多くの文書をチェックし,赤ペンを入れてきましたが,特徴的なのは,指摘した数は非常に多いのですけれども,指摘した種類自体は多くなかったということです。

 つまり,多くの文書の多くの箇所に同じような理由で指摘してきたというわけです。ひとつの試験論文やビジネス文書をチェックすると同じような赤ペン書きが入る。いつもいつも同じことを書いているのです。今回紹介した「指摘事項」の中にも,多くの重複があることが分かっていただけると思います。

 今回言いたいのはこのことです。つまり,「説得力を弱める理由の種類」というのは非常に少なく,たとえば,「主張の理由がない」,「主張の理由があっても説明が分からない」,「そもそも文章自体が分からない」などに集約されていくということです。

逆に言えば,このような数種類のポイントさえ注意すれば「説得力の高い文書が書ける」ということです。学術論文のようなものではロジック構築や論拠(エビデンス)の提示が非常に難しくなりますが,ビジネス検定レベルの論文や日常的なビジネス文書では,「説得力が高い文章」を書くために考慮すべきことは,実はあまり多くないのです。

 では,具体的に何に考慮すればよいのか。それは,指摘事項を分析しながら考えていくことにしましょう。次回までに読者の皆様もご一緒にお考えください。

ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易テスト

 芦屋広太氏とネクストエデュケーションシンクの共著「IT教育コンサルタントが教える 仕事がうまくいくコミュニケーションの技術(PHP研究所)」 が出版されました。同書の特徴は,読者がWebサイトで書籍と連動したコミュニケーション・スキルのテストをオンラインで受験し,セルフチェックできるこ とです。スキル・テストは本来購入者だけに提供していますが,ネクストエデュケーションシンクでは,ITpro読者向けに簡易版テストを無料で提供しま す。受験者の中のあなたの順位を知ることもできます。ぜひ受験して,あなたのコミュニケーション・スキルをチェックしてみてください。

ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易版セルフチェックはこちら

アンケートページから本ページへ戻ってしまう場合は,ブラウザ等のポップアップブロック機能を一旦無効にしてください。詳細はこちら