初めまして。日立製作所の初田賢司と申します。今回から約12回にわたって,「見積もり」をテーマにしたブログを書いていきたいと思います。

見積もりは「対価を決めるもの」?

 さて,皆さんはソフトウエア開発プロジェクトの「見積もり」は,何のために存在するとお考えでしょうか? おそらくベンダーの方なら「注文をとる」(もちろん注文をとらない戦術もありますが),ユーザーの方なら「発注するベンダーを決める」と考えるでしょう。つまり,見積もりとは「対価を決める」作業ということになります。

 しかし見積もりには,もっと重要な側面があります。それは,「開発プロジェクトの成否を決める」ということです。

 ソフトウエア開発プロジェクトの失敗は,後を絶ちません。その原因は様々ですが,見積もりに起因するものが目立ちます。これは,スコープ(プロジェクトの範囲),品質,コスト,納期の約束があいまいだったり,約束に無理があったりしたわけです。

 重要なのは,見積もりの段階から,プロジェクトの状況を確実に把握できる仕組みを作ること。具体的には,成果物スコープ(規模)やプロジェクト・スコープ(工数),コスト,スケジュールといった,マネジメントの基準となる「ベースライン」を見積もりを通じて作るのです。

 このベースラインは,見積もりの前提条件となります。プロジェクトが正式に発足した後には,この前提条件をプロジェクト計画にきちっと反映させ,実績との差異を評価し,コントロールしていくことが大事です。

 こう考えると,「よい見積もり」とは,プロジェクトを成功に導くための前提条件と言えるでしょう。ここでは,プロジェクトの前提となる条件や仮定が論理的,合理的に説明されていることがポイントです。見積もりを「注文をとるもの」「発注先を決めるもの」とだけ考えていると,思わぬ落とし穴が待ち受けていますよ。

 実は10月2日に,見積もりに関する書籍「本当に使える見積もり技術」(日経BP社刊)を出版することになりました。同書は,日経ITプロフェッショナルで執筆してきた同タイトルの連載記事(2006年5月号~2006年3月号に掲載)を,大幅に加筆・修正したものです。本ブログでは,この書籍で皆さんにお伝えしたいポイントを取り上げたいと思います。