ITサービス業界では以前のようなM&A機運は萎んでしまったが、ユーザー企業のシステム子会社の買収、いわゆるフルアウトソーシングは、今もそれなりに続いている。IT部門を切り離したいというユーザー企業は依然として多いからだ。しかし、システム子会社やIT部門は今後とも“買い取る対象”なのだろうか。むしろITサービス会社が引き取るなら、持参金をつけてもらうという“不遜なこと”を考えた方がよいかもしれない。

 ITサービス会社がシステム子会社やIT部門を買い取るのは、顧客との関係維持など商権を買うという意味がある。しかも、なにがしかの業務ノウハウがあり、情報システムという資産を持つシステム子会社やIT部門を買い取るのだから、ITサービス会社がお金を出して当然、普通はそう考える。これまでのフルアウトソーシングの大型案件は、実際にそうだったのだろう。

 しかし、相当の大企業でも自前による情報システムの維持が不可能になりつつあるという話を、最近よく聞くようになった。少しデフォルメして書けば、こんな感じだ。基幹系のシステムはメインフレーム・ベースであり、しかもプログラムはスパゲティー状態。技術者は数十人もいるとはいえ、半数以上が50歳台で、技術継承なんか出来ていない。もろ2007年問題の直撃で、数年以内に破局が来る。なんとかしなければいけないが、もはや自分たちで何とかできるものではない。

 さて、そんなIT部門、あるいはシステム子会社を抱える企業が、ITサービス会社に丸ごと買い取ってくれと話を持ちかけてくる。ユーザー企業にとっては都合の良い解決策なのだろうが、何かがおかしい。ITサービス会社に譲り渡そうとしているのは資産ではなく、不良資産である。しかも、その不良資産が本当に“不良化”すれば、その企業の業務に多大な支障が出る。つまり、ユーザー企業は助けてもらう立場だ。だから、お金の流れは逆。ユーザー企業がITサービス会社に対して“持参金”を渡さなければならない。

 こんな極端な例は少ないが、IT部門が危機的状況に陥っているユーザー企業は結構多い。ITサービス会社には今後、そうした案件が持ち込まれるケースが増えてくるだろう。商権を得るためにシステム子会社を買い取るといった古典的なフルアウトソーシングではなく、情報システムのレスキュー/再生ビジネスといった位置付けのアウトソーシング・サービスの可能性が広がってくるかもしれない。