ユダヤ人ならこう考える!お金と人生に成功する格言

著者: 烏賀陽正弘
出版社:PHP研究所
価格:756円(税込み)
ISBN:ISBN4-569-64158-X

 現在中東のイスラエルとレバノン周辺が緊張状態にあります。この紛争はユダヤ人が辿ったその歴史や思想を受け継いでいるものです。この本を読むことにより,その根源を探り,イスラエルのとっている行動原理の一面を理解することができます。

 私は海外アウトソーシングにかかわる仕事をしております。これまで外国の企業との取引や人々とのコミュニケーションの中で数多くの失敗も経験しました。大きく変化し広がりつつあるグローバル市場で事業をうまく進め,読みにくい相手と対応するための知恵として,何か参考になるものがないかと探していたところこの本に出会いました。

イスラエルの活躍

 ある統計によれば,米国の大富豪の保有財産ランク付けで上位50家族のうちユダヤ人が約36%占めるとのこと。米国の国土は963万平方キロメートル(日本の25倍),人口2億8千万人であるのに対し,イスラエルの広さは日本の四国程度の大きさで人口は約660万人に過ぎません。また米国にいるユダヤ人の総数は600万人ともいわれています。彼らは財界,学者,医師,弁護士,音楽家などのあらゆる世界で活躍しています。

 米国の人口の2%強に過ぎないイスラエルが何故このように活躍しているかは興味深いところです。これには長い歴史的背景があります。

 私がユダヤ人を初めて見たのはニューヨークでした。帽子をかぶったユダヤ人男性の独特な雰囲気は実に印象的でした。またアムステルダムでは,「アンネの日記」で有名なアンネフランクの家も訪問しました。運河沿いにあるその家は外部からは部屋があることがまったくわからない構造になっており,我々の知らない歴史があることを知りました。

「ユダヤ人ならこう考える!」

 この書籍の副題は,「お金と人生に成功する様々な格言」となっています。ここには,数千年の歴史の中で凝縮された貴重な人生訓が含まれています。イスラエルの歴史は古く紀元前19世紀,アブラハムがカナン(現在のイスラエル)の地に移ったのが起源とされています。そして紀元前11世紀から10世紀にかけて,ダビデ王とソロモン王によりイスラエル王国は繁栄を極めました。

 しかしその後追放と離散の歴史が続き,紀元前2世紀再度独立しました。それが,紀元前70年のローマ帝国の侵攻に伴う弾圧により,ほとんどのユダヤ人がヨーロッパを中心に世界各国へ散らばりました。離散した人々は約2000年に渡り放浪して,様々な迫害,反ユダヤ暴動,差別の中で生き抜いてきたわけです。ナチスの迫害もその1つになります。そしてついにエルサレムに帰還し,1948年にユダヤ人国家イスラエルが誕生しました。

 ユダヤ人は土地の所有や職人への弟子入りなどが許されない状況がありましたので,才能により金融業や商業などを発達させました。それらが結果的に,この書籍にあるようなお金と人生に関する様々な教訓を生み出した訳です。

ユダヤの格言

 ユダヤの格言には意味深いものが多くあります。その2つをご紹介します。

”Examine the contents,not the bottle”
 ボトルの外見ではない,中身を知れ!

 私はこれまでの海外ビジネスの中で,欧米流のうまいプレゼンテーションに幾度も迷わされました。そのようなプレゼンに惑わされてきた結果,本質を知ることがいかに重要であり,かつ難しいことであることに気づきました。

 そしてあるとき,ユダヤの聖典タルムードの中の言葉を知りました。それが「Examine the contents,not the bottle. – The Talmud」です。この意味は,ワインはそのボトル(入れ物)ではなく中身をよく調べる必要があるというものです。特に異文化世界との交流では,まず最初に,ブランド,見栄え,宣伝,標識,表現などの外見が目や耳に入ります。独自の文化習慣の中で純粋培養されている日本人の多くは,つい外見に心を奪われ中身がわからないまま信じてしまいます。それを戒める言葉です。

”One coin in a bottle rattles,but the bottle filled with coins makes no sound”
 ビンの中にコインが1個しかないと音を立てるが,いっぱい詰まっていると,音を立てない。

 これはいろいろな意味があります。話すべき内容をあまりもっていない人は,よく大きな声でいろいろな話しをしますが,物事を知りわきまえている人は言葉少なく必要なことのみ話すという意味があります。また世間には自分の事業の成功や運のよさを自慢する人がいます。しかしユダヤ人の場合は,その成功話が妬みや恨みを買い陥れられたり迫害されたりすることを危惧して,事がうまく進んでいる場合は,それを口に出すことを控えます。

 ユダヤ人は異国の世界各地で迫害の中で生き抜くため,ビジネスや金を稼ぐことが不可欠な手段でした。この書籍には,血と汗で積み重ねられた貴重な処世訓が含まれています。日本は昨今,政治的,経済的な様々な課題に直面し,企業と人は新しい時代に対応するための変革することが求められています。ビジネスやお金儲けに限らず,何かにお困りで真剣に解決策を探しておられる方に参考になると思います。

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