ヤバいぜっ! デジタル日本
著者:高城 剛
出版社:集英社
価格:693円
ISBN:4-08-720345-x

 映像クリエータとして学生時代から20年以上にわたって活躍してきた高城氏による,IT,デジタルという面から論じた日本論・日本人論。氏は,総務省「次世代放送コンテンツの振興に関する調査研究委員会」委員なども務めており,クリエータの意志を尊重し,著作物がより広範に創造的にマッシュアップされるための試みなど,Web 2.0的なビジネスの普及・拡大の鍵を握る活動に従事している。

 高城氏はまず,タイトルの「ヤバい」がvery badの意味だけでなく,very coolの意味でも使われることを知らない人は時代から取り残されている,と挑発する。そして,常に世界各地を飛び回ってクリエータ,DJとして活躍する視点から,東京が世界最先端のハイブリッド・カルチャ,新しいスタイルの発祥の地であることをあなたは知っているか? と問いかける。その一方で,デジタル,IT,果てはWebさえも,日本人が高付加価値を創造できる対象としては「終わった」と宣言する。

 高城氏の日本の現状に対する認識は,大変厳しい。かつては反骨精神のなす営みであった漫画,アニメ,ゲームも,「国策」などとされては終焉(しゅうえん)が近い。今さらアニメ輸出を長々と検討している暇があったら,お隣韓国の実写ドラマや映画を新しく生み出していった国策を見習うべし,という。製造業は中国やベトナムなどに移り,かつてのように安定的に20%の粗利を稼げる時代は二度と訪れない。といって,金融,流通に代表されるサービス業のアイディアや技術,実践では決定的に欧米に差を付けられており,今後も引き離される一方だろう。

 日本が経済大国だ,などというのも今や幻想だ。かつては1位2位が当たり前だった世界経済フォーラム(WEF)の「経済競争力報告」は,2005年には12位にまで落ちた。国の債務残高は117カ国中114位。ムーディーズによる国債の格付けは,ボツワナやエストニアよりも下である。

 では,「日本」という国家ブランドを高めるためにはどうすればいいのか。高城氏は,最先端のライフスタイルを切り開く日本人の感性と新しい文化を創造する営みを産業化し,全世界に輸出していくしかない,と説く。今日本が世界に誇れるのは,ケータイ2台を同時に使いこなすような世界最先端の「ライフスタイル」である。ケータイというハードウエアでもコンテンツでもない。若い新鮮な頭脳でビジョンを描き,スタイルを創造し,さらにそれを英語で発信し,全世界にセールスするエージェントを育成する---クリエータ業と商売の分業だ。

 高城氏は,具体的に留意すべきポイントとして以下の点を挙げている。

・日本の未来のビジョンを作るうえで大切なのは,激変するコミュニケーションの様態や価値観の変化,ライフスタイルの変貌である
・圧倒的なスピード感が大切。スピードは高度経済成長期の日本人の特徴であった
・日本が得意だったコピー,素早いキャッチ・アップは創造性にとって重要である
・「ハイブリッド」が日本の誇る最先端カルチャ創造の鍵
・GNC(Gross National Cool:国民総文化力)で栄えある世界一の日本はますます「オープン」に「ハイブリッド」に,高速にマッシュアップしたCoolな文化を創造し輸出すべし

 高城氏の性急なまでの未来志向は,巻末にある「悪魔の事典」のような付録「高城式次世代キーワード33」からもうかがえる。Web 2.0に関連するキーワードとして「ポストWEBブラウザー」の項目を引用してみよう。


 早いもので,ブラウザーの進化はすでに,正念場を迎えた。今後は,iTunesのようなIPベースではあるが,WEBブラウザーではないものが増えることだろう。「WEB2.0」の研究会も,最近では増えた。「WEB2.0」とは,世界各地のネット利用者が,企業に代わって情報や技術を発信し合い,新たなサービスを作ろうという動きだ。ただWEBと言ってしまった時点でもう古い。

 評者はここ2カ月の間にWeb 2.0関連の書籍を10冊以上読んだが,本書から受けたインパクトが最強であった。自ら著作者として,著作物利用を極力フリーにし,個別にコピーを奨励できる権利を確立しようという発想も,一見過激なようで,本来,創造者が望んでいることの自然な表れである。ハイパーメディア・クリエータとして全力で走りながら,クリエイティブ・コモンズの次を模索しているのだ。必要なときに即座にコピーしたり素早く許諾を得てマッシュアップしたりできることは,利用者側も歓迎するはずである。何より,万国著作権条約の理念に忠実であり,今後,諸分野でクリエータを大幅に増やすために国が整備すべきインフラや法的側面について,重要かつシンプルで分かりやすい提言となっている。

 評者はかつて楽隊の一員として,東京のドイツ大使館で統一5周年記念パーティのバンド演奏に第一ホルンとして加わり,モーツァルトのセレナーデ「グランパルティータ」他を演奏してドイツ政府からお小遣いをいただいたことがある。今は会社を経営したり大学で教えたりしているので,高城氏が「目指せ!」と勧める「マルチスペシャリスト」に何とか該当しそうだ。そのせいで強い影響を受けたかどうかはともかく,会社経営者としての私は,本書を読んで次の決断をした。

 われわれが開発するソフトウエアは,その要求開発結果,仕様を,しかるべきタイミングですべて公開する

 本書を手に取る暇がない方は,せめて,本人がコピー,再利用自由としている(本書165ページ)映像コンテンツ化されたサマリーを眺めて,高城氏のメッセージを受け止めてほしい。

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