顧客が金融・公共の場合と製造・流通の場合では、仕事の“流儀”がいかに異なるか----この前、その当たりの話をコンピュータ・メーカー系のITサービス会社の人から解説してもらった。なるほど、事業発想からSIに失敗するときのパターンまで、まるっきり違う。

 正直なところ、トラディショナルなITサービス会社----多くはシステムインテグレータを名乗る受託ソフト開発会社だが----どこでも似たような印象しかなかった。だが、この話を聞いて、これじゃ主要顧客を見極めないと企業分析を誤るなあ、と認識を新たにした。

 まずは金融・公共の仕事。この分野のシステム開発は、案件の規模がデカイ。当然、その後の保守・運用の仕事もそれなりの規模となる。だから、プライムを取って下請けを使い、システムを開発すれば、その後に請け負う保守・運用の仕事に、多くの技術者を貼り付けて安定収入を得ることができる。金融・公共は金払いが良いから、コンピュータ・メーカーや大手ITサービス会社にとっては、貴重な“ストックビジネス”だった。

 これは下請け企業にとっても同じ。システム開発のときには下請けでも、比較的小規模のシステムは一括して任されることが多い。プライムによる丸投げである。そして保守・運用は、その下請け企業がずっと担当することになる。いわゆる“一生客”としてストック化することができる。

 こうしたビジネスは、特に下請け型のITサービス会社にとっては美味しいビジネスだ。なんせ営業はほとんどいらない。従って販管費を抑えることができる。技術者の稼働率も高水準で安定するから、これまた販管費を抑制できる。さらに、技術者は皆、特定分野の専門家でいいから、教育費など余計なコストも要らない。

 ただし、そんな大事なお客さまが“負け組”になった場合は悲惨だ。M&Aなんかで吸収される側、システムは片寄せだと、システム移行が終われば大口の仕事を失う。あわてて慣れない営業をして、危ない案件を安値掴みし、結果は経営を揺るがすほどの大失敗プロジェクトに・・・。ITデフレの際、こんな悲惨なパターンを辿ったITサービス会社は少なくなかったはずだ。

 一方、製造・流通を顧客とした場合、美味しい案件はそんなに多くない。自動車メーカーなど、よほどの大企業でもない限り、大型の案件はそうあるものではないからだ。システム開発が終われば、保守・運用のための要員は数名いれば十分というケースが多く、金融・公共のように保守・運用で大口の安定収入というわけにはいかない。

 そのためITサービス会社は、昨日は生産管理、今日は会計、明日は在庫管理というふうに、次の仕事を求めて何でも受けようとする。ソリューション営業といえば聞こえは良いが、要は御用聞き、何でも屋である。そして大手なら、受注した案件はコスト的、ノウハウ的に自社の手に余るので、何でも下請けに投げることになる。まれに自社で開発しようとする企業もあるが、雑多な案件を受けるから専門的な業務ノウハウは蓄積しにくい。

 さてITデフレの時、このタイプのITサービス会社はどうなったか。まず、徹底的に顧客に買い叩かれた。結果として、業務ノウハウに専門性が乏しいSEが甘い要件定義を行った案件は、片っ端から不採算となる。致命的な巨額の赤字案件はなくても、不採算案件の数が多いから、火消しに追われることになった。

 多少デフォルメしたが、金融・公共分野で育つか、製造・流通分野で育ったかで、ITサービス会社はここまで違う。もちろん、大手は両方を手がけているし、比較的若い企業の場合、こんな分類に当てはまらないところも多いだろう。ただ、創業者がリタイア時期を迎えたようなトラディショナルなITサービス会社は、大方どちらかのタイプに分類できるはずだ。

 さて、それぞれのタイプのITサービス会社の将来は、いかなるものか。後者のタイプは比較的分かりやすい。既に多くの企業が取り組んでいるように、ソリューション化し横展開できるタマを数多く持つしかない。その意味で、神通力は以前に比べ衰えたが、ERPなんかは最高のタマだった。

 では、前者のタイプの企業はどうか。やはり金融・公共分野であっても、今後は横展開できるソリューションのタマが必要だろう。しかし、既にそうした取り組みで成果を上げている企業は別にして、そのハードルは極めて高い。今は、金融特需でそんなことを考えている暇はないのかもしれないが、2008年以降の事業イメージがなかなか見えてこない。