「人は見た目が9割」というのは,竹内一郎氏のベストセラーになった書籍です。

 心理学によると,人間が伝達する情報の中で言葉の内容そのものが占める比率は7%に過ぎず,ほとんどは“見かけ”による情報に左右されてしまう。「バーバル・コミュニケーション(言葉による伝達)」より,「ノンバーバル・コミュニケーション(言葉以外の伝達)」のほうが伝達力が高い――といった内容で,様々なたとえを紹介しながら見かけについての重要性を解説した興味深い本でした。

デザインは言葉に勝る

 デザインの役割もまさに「ノンバーバル・コミュニケーション」を高い質で行う行為だと思います。

 私たちが初対面の方と会うとき,この本にもあったように,相手の言葉よりも,話し方,服装,髪型,眼鏡や時計の趣味などから受ける情報に印象が左右されてしまいます。それと同じく,さえない看板のデザインで,散らかったお店に,だらしない服装の店員がいるようなレストランには入りたくないですよね。

 もしかしたら,そこの料理はすごくおいしいのかもしれません。けれど,食べてみるまでわかりません。「誰かが勇気を奮って食べてみたら,おいしかったよ!」なんて情報を口コミで知ったら,少しは安心できるのかもしれませんが,普通の味と値段なら2度と行かないでしょう。

 このお店のオーナーは,気がついていないのです。商品に自信があるので,店構えに頓着せず,デザインを重要視していないのです。しかし,これと同じようなWebサイトやパッケージ・デザインはたくさんあると思いませんか。

デザインは,世界観やブランド・イメージを作る

 デザインに力を入れていないお店が繁盛する場合もあります。

 汚くて狭い店のラーメン屋さんが行列を作っていたりしますよね。店のオヤジが威張っていて愛想はなくても,大繁盛していたりします。しかし,これもノンバーバル・コミュニケーションの作用にあずかっているのです。行列を作るほどおいしいラーメンならば,食べてみたいという心理,汚くて小さい店なのに,行列ができているという意外性が好奇心を呼ぶ心理――マスコミもそういう店を取材して持ち上げます。期待(おいしいに違いないという先入観)を持って食べるので,特別おいしくなくても,なかなかおいしい(かな)みたいな心理にさせられるのです。

 ところが,このようなお店が,売り上げアップのためにお店を広くすると,パタリとお客さんが来なくなってしまいます。広くしたので行列もなくなってしまい,いつでも入れるようになるとありがたみも薄れ,フツーのラーメン屋さんになってしまうのです。もちろん,味がものすごくおいしければ別ですが。

 このラーメン屋さんの例には,「小さく,汚く愛想が悪くても行列ができる店」というストーリーがあります。それはそのラーメン屋さんのブランド・イメージであり,他店と差別化できる世界観があります。グラフィックデザインは,この世界観やイメージを作り,お客さんに印象づけるコミュニケーション行為を行うという重要な役割も持っています。その世界観を様々なビジュアルや,色や形で戦略的に露出していくことが,コーポレート・アイデンティティと呼ばれるのであり,ブランディングと言われる仕事です。

 内容が悪いのに,外側を繕って売りつけるのは詐欺です。商品が優れているのに売れないのは,売り方が悪いからに他なりません。エンジニアの方が,いくらすばらしいシステムやプログラムを開発しても,インタフェースが使いづらかったり,イメージが悪い場合は,口コミの力がない限りなかなか使ってもらえないでしょう。

 本当に良い製品やサービスがあるのなら,もっと社会に広く紹介するべきだと思います。そのために,世の中に受けいられやすくするための手段である,デザインの重要性に気づいていただければと思います。


見た目も大切ですが,言葉の力だって馬鹿にできません。「人は見た目が9割」という書名を「ノンバーバル・コミュニケーション」にしたらベストセラーにはなっていないでしょう。どちらもおろそかにできません。