ある自治体がインターネットサイトに掲載していた議事録PDFファイルの「黒塗り」部分が、実はネット上で丸見えだったという事件が、2006年8月1日付けで新聞報道された。本件では、どのような原因で漏えいが起きたのか、同種事件の再発防止のために紹介しておきたい。

 この事件を先行して報道したのは朝日新聞。「asahi.com」サイトでも2006年8月1日付けで「隠したはずの個人情報丸見え 千葉市教委のホームページ」という記事が掲載されている。

 読者がこのコラムを読まれるころには、すでに「asahi.com」の掲載期間が過ぎ、読めなくなっているかもしれない。そこで最初に、他紙の報道も参考にしつつ、かいつまんで事件の概要を説明しておく。

 今回の事件は、千葉市教育委員会サイトに、教育委員会の過去の議事録がPDFファイルで数年前から掲載されていたことにさかのぼる。議事録の記載のなかには公表が不適当な箇所があるらしく、そうした箇所は「黒塗り」になっていた。

 ところが、報道によると、表面上は黒塗りに見えても、実際には「文書自体には元のデータが残っており、ある操作をすることで、読むことができた。」というのである。

 黒塗りになっていた箇所には、この報道では「病気で休職する2人の教諭の具体的な病名」などが掲載されていたようだ。

 そうだとすると、黒塗り部分には、単なる個人情報ではなく、センシティブなプライバシー情報が含まれていたことになる。したがって、プライバシーの侵害にあたるとして、問題視されてもおかしくない内容だ。

 記事が掲載された時点で、このサイトにおける問題の「議事録」は掲載が中止され、その後、現在では問題がないものに差し替えられている。そのため、このサイトで「議事録」へのリンクをクリックしてみても、当時の問題ファイルを見ることはできない。

 しかし、「asahi.com」に掲載された続報記事「千葉市教委HP『墨塗り』丸見え、会見で謝罪」によると、市教委側は、ワープロソフトで会議録を作った際、担当者が技術的に未熟だったため、元の文字を削除することなく、「蛍光ペン」機能で墨塗りしたにすぎなかったことが原因だと説明としている。これが事実なら、黒塗り部分をドラッグしてコピペすれば、隠れていた文字が簡単に読めてしまう。

 こうした状況では、わが国が推進する電子自治体は本当に大丈夫なのか、という疑問が出てもおかしくない。今回の報道で、類似の「部分黒塗りPDFファイル」をアップしている他の自治体担当者は、あわてて自分のサイトを点検したに違いない。

 内閣府が公表した「平成17年度個人情報保護法施行状況の概要」によれば、実際に発生した漏えい事故の圧倒的多数(76.1%)を、従業者の不注意に起因する事例が占めている(但し統計は民間部門が対象)。

 今回の事故も、そうした類の「不注意」に属している。したがって、適切な教育・啓発などによって同種事件の再発防止が図られなければならないことは当然だ(とはいえ本当に隠して当然の部分だけが黒塗りになっていたのかという疑問は残る)。

 それにしても、当時の担当者は、「蛍光ペン」機能が、紙にサインペンで黒塗りした場合とおなじ――つまり文字そのものがつぶれて失われてしまう――とでも考えていたとでもいうのだろうか。もしそうだとすると、どこまで「コンピュータに関する常識」を教育しなければならないものか、管理部門としては頭が痛くなりそうだ。

 しかし、その一方で、中央省庁や自治体のウェブページを活用した情報公開は重要だ。わが国では中央省庁向けの情報公開法が制定され、各自治体レベルでも情報公開条例が制定されているが、場合によれば勤務時間帯に会社を休んで手続に行かなければならず、郵送による場合でも手続は面倒だ。しかも大量に公開を受ける場合には、コピー代など費用負担の重さも無視できない。ネット公開なら、こうした難点をクリアしやすい。情報公開大国の米国では、電子情報公開を推進するため、すでに電子情報自由法が施行されて久しい。

 個人情報の全面施行による「過剰反応」「過剰保護」が問題となっている現在、せっかく根付きはじめたネットによる情報公開が、今回の事件によって後退することがないよう、願いたいものだ。