先日,日本コンタクトセンターフォーラム(CTFJ)で,思いがけず平成17年度の優秀講演賞をいただきました。今年,1月18日に開催されたユーザーズカンファレンスでの拙講が,ご聴講者アンケートで高評価をいただけたそうです。

 その授賞式を兼ねた懇親会では,CTFJ幹事でデータメディア代表 唐澤豊さんをはじめとする専門家のご意見を伺う好機を得ました。

 そこで,今回は,その講演の主題でもあった「コンタクトセンターとブログの有効活用」について再考したいと思います。これによって,お客様との情報交流とマーケティングの手法が一変すると考えています。


コンタクトセンターは,まず電子メール対応の統合から

 コールセンターについては,みなさんよくご存知でしょう。しかし,コンタクトセンターという言葉は,まだ耳慣れない方がいらっしゃるかもしれません。

 コンタクトセンターでは,コールセンターの主な連絡手段である電話やFAXに加え,インターネット時代に花開くあらゆるコミュニケーション手段を活用して,お客様との間で快適でありながら痒(かゆ)いところにも手が届く濃密な情報交流を試みます。ネット通販・ケータイ通販を通じた電子メールの対応はもちろん,テレビ電話も含むIP電話やチャットまでも使うことから,eコンタクトセンターと呼ばれることもあります。

 昨今の本格的なブロードバンド時代において,技術革新は,企業のサービス体制に先行し,お客様はどんどん進化しています。例えば,中小企業の弊社でさえ,法人個人問わずお客様からのご注文・ご連絡は,面談,電話,FAX,Web,メールと多岐にわたり,複雑に絡み合っています。残念ながら,それを,個々の部門の各スタッフが,何とか試行錯誤で対応しているのが現状でしょう。

 受注の履歴と電話対応の履歴は同じコンピュータ上で同時に見られても,メールの履歴と合わせて見られる環境を整えている会社は,まだ限られているかもしれません。そんな時にトラブルが起こりやすいのです。

 例えば,「最初にネット検索をしてWebサイトで会社や商品を知ってくださり,電話でお問い合わせをいただいたお客様が,その後,ネットショップで注文してくださる。しかし,追加のリクエストをメールで下さったため,追加分が受注に反映されず,クレームの電話をいただく」といったケースが考えられます。私も,自分が客になった時は,無意識に電話やメールを使い分けて連絡していることがあります。

 ですから,まずは,電話と電子メールを統合して記録を残し,誰が対応しても,履歴を参照しながらお客様のご質問やご要望にお答えできるようにしたいところです。


コンタクトセンターとは新しいお客様貢献基地

 これからは,電子メールのみならず,ブログ,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS),ポッドキャスティングなど新しいコミュニケーションツールを活用することで,コンタクトセンターの役割をさらに進化させることができるでしょう。

 コールセンターの現行業務に近い受注窓口,お客様問い合わせ窓口という,インバウンド(内向き)の機械的な情報処理業務から,アウトバウンド(外向き)の情報発信やネット集客機能も兼ね備えた,戦略的で創造的な業務に仕事の質を変えることができるはずです。

 お客様からいただいたご意見ご要望をもとにして,社内のキーマンにも社外のお客様にも有用な情報を即時に蓄積し,時を置かずして積極的に発信していく。知識創造とマーケティング業務を,コンタクトセンターは請け負うようになるのです。

 そうなれば,企業の生産性と販売力とを飛躍的に高める可能性を秘めていると考えます。


SNSとブログで即時に新FAQ情報の追加と発信

 ひとつ例を挙げてみましょう。

 ある新商品を発売したところ,予期せぬ問い合わせがコンタクトセンターに集中したとします。当然ながら,システムにも,接客マニュアルにも,カタログ・取扱説明書にも,その回答が無いために,スムーズなお答えができません。まずは,オペレーターが「すぐに専門部署に問い合わせてご回答いたします」とお客様にお詫びをするところからスタートするでしょう。

 ここからが,コンタクトセンター時代の対応になります。

1.各オペレーターは,コンタクトセンター運用システムの「よくある質問(FAQ)データベース」に無い質問があった時は,迷わず,その新商品の開発から広報までキーマンが参加するSNSに,対応不可能な問い合わせの内容をその場で書き込みます。

2.すると,定時チェックを義務づけられた対応部署のキーマンは,重要かつ件数の多い問い合わせから順番に,回答をすばやく作成してSNSに書き込みます。それは,各オペレーターが即時に読むこともできますので,とりあえずは,お客様にご回答できる素材はそろいます。

3.さらに,その回答を見たコンタクトセンターのコミュニケーションリーダーは,それをお客様にわかりやすい話し言葉に翻訳し,トークマニュアルに昇華して,コンタクトセンターの「よくある質問(FAQ)データベース」に追加します。これで各オペレーターの応接の品質も底上げされます。

4.この貴重な情報は,コミュニケーションリーダーの手によって,すかさず,お客様に公開する「製品別よくある質問ブログ」にも,その回答情報として追加されます。そうすれば,能動的なお客様は電話やメールをする前に情報をキャッチしますので,問い合わせ自体が減ることも期待できるでしょう。

5.加えて,会員のお客様には,メールマガジンを通じて,お客様の問い合わせに基づいて新たなQ&Aを追加したことをお知らせすれば,より効果的でしょう。リピーターの方々は,いつもながらの素早い対応に感銘し,信頼感を深めてくださるはずです。


ジャック・ウエルチいわく「コールセンターはプロフィットセンター」

 これまでコールセンターは費用がかさむコストセンターだと考えられてきました。先だっても,あるシステム関係の会合で某大企業の情報担当キーマンが,こうした発言をされていました。たしかに,これまでの受け身の運用では,その発言を正すことはできないかもしれません。

 しかし,ゼネラル・エレクトリック(GE)を抜本的に改革した元CEO(最高経営責任者),ジャック・ウエルチ氏が,コールセンターをプロフィットセンターに変えたという逸話をご存知の方は多いでしょう。ウエルチ氏は,家電など不採算部門の売却と金融部門など収益部門への集中で知られますが,コールセンターを外部に出したのは,コストカットだけで行ったことではなかったと考えられています。

 ウエルチ氏の改革のキーワードの1つめは「組織」です。

 ウエルチ氏は,コールセンターを,社内のコストセンターという位置づけではなく,お客様の声は天の声であり,社外におくプロフィットセンターという位置付けにしたそうです。社内に置くと,コストと効果の関係が不明確になるのみならず,同僚のミスを隠してトップに報告しないといった弊害が考えられるからです。そこで,重大なクレームやリクエストは,社内の組織をバイパスして,直接トップに連絡される仕組みを作ったのです。

 改革のキーワードの2つめは「人」です。

 ウエルチ氏は,社外から人当たりの良い経験を積んだ「電話美人」を別途採用して,新しいコールセンターを作ったのです。その人材の「人間力」を活用して,お客様にやさしくお名前で話しかけることから改革は始まったそうです。

 改革のキーワードの3つめは「システム」です。

 商品知識の無い社外スタッフでも,お客様が安心できる応対ができるように,システムでバックアップしました。例えば,ある商品のトラブルの修理法から,それを自分で直す場合にその部品が買える店まで,データベース,知識ベースに蓄積されていたそうです。

 この3つの改革で,お客様は,優しいお母さんのような人物から,体温を感じる対応を受け,知りたいことをすべて教えてもらったり,リクエストに応じてもらったりできたのです。そしてトップや各部門のリーダーは,お客様の生きた声を,社内の政治原理で歪められることなく,リアルタイムで知ることができたのです。


インターネットでコールセンターは進化する

 ネット検索をしたところ,日本ゼネラル・エレクトリックが2000年8月22日に出した,「GE,インターネットを使用した日本の中堅・成長企業向け総合金融サービス「GE経営ナビ」を8月21日より開始」というプレスリリースが見つかりました。

 このリリースで,GEはこう宣言しています。

「インターネットとコールセンターを中心とし,あらゆる面から中堅・成長企業のニーズに応える総合金融サービス「GE経営ナビ」を8月21日より開始します。(中略)「GE経営ナビ」は,(1)最新技術を駆使したインターネットによる様々な情報提供,(2)コールセンターの専門スタッフによる電話での質問・相談やフィールド・セールス・スタッフの手配,そして(3)全国規模のフィールド・セールス・スタッフ約1,000人による対面コンサルティングの3つのチャネルを通して,あらゆる業種の企業経営者,財務・総務担当者向けに金融を中心としたサービスを提供し,中堅・成長企業の経営を支援します」

 さらに興味深いのは,こんな文章を文末に添えていることです。

「本年,GEは,E-ビジネス戦略として3つの方向を目指しています。ひとつはGEのすべての事業にウェブサイトを設け,「お客さまを中心」の考えに基づく,最高のサービス,販売,サポートをオンラインで提供すること。二つめは内部調達や外注先をインターネット上に移行し,さらなる生産性の向上とコスト削減をはかること。最後に,継続的な新技術開発を推進し,オンライン販売を成長させることです」

 今から6年前に出されたこのプレスリリースには,業種問わず,これからのコンタクトセンターのあり方を示唆していると思います。


コンタクトセンター時代の「組織」「人」「システム」

 それでは,コンタクトセンター時代に「組織」「人」「システム」はどう変わるのでしょうか。

 まず,キーワードの1つめ「組織」では…。

 CTFJの唐澤さんも日経デジタルコアの連載記事で主張されているように,「コンタクトセンターを企業の中心に据える」ことになるでしょう。

 リアルタイムで,お客様,お取引先,関連部門など企業内外の生情報が集まり,それをお客様に役立つ情報や知恵に加工して発信するコンタクトセンターは,文字通り,ハブ&スポークのハブになります。

 また,ブログ時代には,自発的に好意的な情報発信をしてくださるブロガーとの関係も重要になります。同心円で考えるならば,コンタクトセンターの周りを,社内の関係部門が第一の輪で取り囲み,その外側にブロガーが第二の輪があり,続いてリピーターのお客様の輪があるというイメージでしょう。

 キーワードの2つめ「人」では…。

 お客様のあらゆる生情報がリアルタイムで集まり,お役立ちの知恵に結ばれるコンタクトセンターのコミュニケーションリーダーは,経営者候補を鍛える絶好のキャリアパスのひとつになり得ると思います。ネット時代の経営者は,あらゆる情報の中心で意思決定と情報発信を繰り返す中心的な役割を担うことになるからです。

 そのためには,経営者から権限を一部委譲して,お客様とのコミュニケーションを司り,社内の協力調整を行うチーフ・コミュニケーション・オフィサーとでも呼ぶ役員を置くべきでしょう。

 そして,スタッフも単なるオペレーターではなく,人間的な魅力と能力が重要です。ブランド構築において,宣伝広告以上に,お客様との意思疎通の品質が問われる時代になるかもしれないからです。アイドリング時間に,自ら,社内TQC的SNSに提案を書き込んだり,お客様向けにブログを書くことなども奨励すべきでしょう。そして,有用な情報を受発信した履歴や,知恵を付加した実績に基づき,積極的な人事考課と人材登用を行うべきでしょう。

 さらに,自発的に有用な情報を発信してくださる社外ブロガーの中から,優秀な人を,コンタクトセンターのスタッフに登用する事例も増えるでしょう。

 そして,キーワードの3つめ「システム」では…。

 ますます機能を統合して進化するコンタクトセンターの運用システム用に加えて,社内外のブログやSNSを,さらにはポッドキャスティングも有効に活用することが重要になるでしょう。

 お客様から問い合わせやご注文を受け身で待つのではなく,お問い合わせになりそうなご不明点を事前に情報提供で解決する。お礼とセールスプロモーションを兼ねてお客様の好事例やブログ書き込みを積極的に紹介し,営業支援をするためのインフラが,今や整いつつあるのです。

 こうした3つの要件を満たすことで,近い将来,コンタクトセンターは企業の中核のひとつとなって,戦略的な役割を担う可能性があると考えます。