最近、ユーザー企業とITサービス会社の人から、ほぼ同じ内容の話を聞いた。なにかというと「ITサービス会社の提案は、どれも皆同じ。IT技術の会社としての特徴が見えなくなった」というもの。過去の赤字プロジェクトに懲り、ITサービス各社がリスク回避に走ったのが原因だが、結果として“提案のコモディティ化”が進み、いつまで経っても料金水準が回復しないという状況を生起してしまった。

 ユーザー企業から見ると、特に最近、ITサービス会社の提案内容が似通ったものになってきたという。最近はどの会社も、データベースソフトや業務パッケージなどに定番のものを使うから、これは当たり前で、3社を招こうが、5社でコンペしようが、提案内容は皆同じ。そうなるとユーザー企業は、別に新規のITサービス会社に仕事を依頼する必然性はない。新規の企業を“あて馬”に使って、今まで付き合いのあるITサービス会社に安く仕事をしてもらった方がよい。

 これでは、いつまで経ってもITデフレで下がったSE料金は回復しない。しかし、こうしたITサービス会社の提案のやり方は、これまでは正しい行動パターンだった。

ITデフレの最中に頻発した失敗プロジェクト、大赤字プロジェクトによって、多くのITサービス会社が辛い思いをした。そして、リスク管理の手法を一生懸命に習得した。リスク管理の要諦は、不確実性をミニマイズすることだ。そうなると技術的なチャレンジなど、もってのほか。定番の製品を使い、冒険せずに確実にシステムを構築する。そうすれば見積もりミスのリスクもないし、開発で失敗することもまずない。安全確実。

しかし、そこにはITサービス会社としての付加価値も、差異化のポイントもほとんどない。ソリューション提案ができればよいが、使い慣れたツールを使うだけでは、顧客の課題を解決すると力んだところで限界がある。むしろリスク回避のために、提案の範囲もミニマイズする方向にいく。

 提案するITサービス会社が皆、このような状況では、ユーザー企業がわざわざ料金を上げてあげる必然性は生じない。以前に比べて大きく下がった相場観に従って、ITサービス会社の見積もりを比較し安いところに発注すればよい。技術者不足というものの、プライム契約を狙うITサービス会社は相変わらず過剰だ。競わせれば“過剰な料金”を支払う必要はない。

 そろそろITサービス会社も技術系企業としての矜持を取り戻した方がよい。そんなもの、元からないのなら仕方がないが、技術系企業は技術的なブレークスルーを提案できてこそ、ナンボである。そのためには“リスク過敏体質”に振れた振り子を、少し振れ戻す必要がある。オープンソース、SOA、Ajax ・・・。ユーザー企業の情報システムを革新する可能性のあるツールは、今も昔と同様、いくらでもあるわけだから。