<前回まで>
 小西教授に自力で考えるように指示された西島は、何かのヒントになればと学生時代のダンボールを探し、中に入っているテキストを読み出しました。最初は軽い気持ちで読み始めた西島でしたが、次第に熱中し、徹夜までして「目的達成型コミュニケーション」のことを思い出しました。考えた末、営業企画課長・矢野に対する「ある仕掛け」を思いつきました。

 では、西島が考えた「仕掛け」とはどのようなものだったか。これをみていきましょう。

【登場人物】

西島・・・主人公。システム部の中堅社員。名古屋から志願して東京に異動し、営業部門との調整を担当する。学生時代に小西教授から「目的達成型コミュニケーション術」の指導を受ける。
富山・・・システム課長。西島の上司
矢野・・・営業企画課長。営業や企画に強い優秀人材。高い交渉力をもつ。
小西教授・・・西東京大学教授(マネジメント論)西島の恩師。「目的達成型コミュニケーション術」の提唱者。企業で豊富な実務を経験したあと、独自の人間行動学・マネジメント論を確立。東京郊外の大きな山荘に住み、講義や執筆活動を行う。

小西式コミュニケーション・5つの技術

 小西教授の書いた「目的達成型コミュニケーション」のテキストには、マネジメントを行う上で必要なコミュニケーションの基本として5つの実践的な技術・・・「人を動かす」、「上手く断る」、「上手く説得する」、「部下を育てる」、「説得力のある文書」・・・の理論とともに具体的な事例が書かれていました。

 西島は学生時代にこれらを学んでいたものの、当時はよく分かりまでんでした。自分がミドルマネジメントである今では、「こういうことが書いてあったのか。これは参考になる」と思いました。

 小西が言う5つの技術の根本思想には、「目的達成型コミュニケーション」の思想があります。小西は

「ある目的を達成するためには、好ましい結果(ゴール)を決め、そこに到達するような戦略(シナリオ)を考える必要がある。これが目的達成型コミュニケーションである」

 と主張していました。そして、「コミュニケーション」については、

「コミュニケーション一つ一つに意味をもち、一つのコミュニケーションは無目的に漠然となされることはなく、目的に対する成功・不成功を評価、見直ししなければならない」

と繰り返して説いていました。少し難しく抽象的な表現ですが、要は、

「目的を達成するためには、思い通りに他人に行動してもらう必要がある」
→(このために)
「他人を動かすために必要な行動(コミュニケーション)を考える」
→(このために)
「人を行動させることができる言い方、聞き方、プレゼン、文書を考える」

ということです。これを小西は自身が企業のプロジェクトマネージャー時代に実践しており、これを5つの技術にまとめて教えていたのです。

矢野を「ある状況」に誘い込む仕掛け

 西島は、テキストを読みながら、次第に頭が熱くなってくるのが分かりました。このようになるときは脳が冴えてきたときです。「今日はよい考えが浮かびそうだ」と直感しました。

 昔から小西教授に「脳は新しい情報がインプットされると、過去に蓄積された情報と結びついて新しいアイデアになる。これがひらめきである」と教えられていたからです。

 西島はもう、寝る気はありませんでした。「朝までに何かを考え付きたい」と強く思いました。

 西島は、新しいノートを取り出し、走り書きをはじめました。

 目的=矢野課長がいつも自分に相談すること。名古屋に相談しないこと。
→(そのために?)
 矢野にいつも自分に相談させるように仕向けること。
→(そのために?)
 矢野が自分に相談することにメリットを見出すようにする
→(具体的には?)
 (1)矢野の問題は自分だけが解決できることを認識させること。
 (2)矢野が社長や役員、上司から高く評価される仕事を自分がサポートする。
→(では、そのために必要な自分の行動は?)
 ・・・・

 西島は、ここまで書いて悩み込んでしまいました。最後の具体的行動のところがなかなか浮かばないのです。

 「どうしたら、こんな状況に矢野を追い込むことができるのか?」

 それを思いつくまでには、もう少し時間が必要だったのです。

 でも、西島は小西教授のテキストをヒントにしながら、答えを考え付くことができたのです。その過程については、次回に説明しましょう。

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