従来の無形資産の研究・報告の概説

 既に述べたように,無形資産関しては80年代から様々な議論がなされてきた。ここでは従来の研究・報告概要を紹介する。

 まず無形資産という言葉の定義であるが,無形資産と一言にいっても,日本語でも無形資産,知的資本,知的資産,知的財産など実に様々は表現が使われている。実際に同じ書籍の中に,複数の言葉が定義されずに混同して使われることもしばしばある。

 これまでの研究での定義を一部を紹介する。

金額で表されていない資産。
利益に転換することのできる知識。
財務的あるいは物的な実体をもたないが,企業の価値創造に貢献する資産。
物理的実体をもたないが,企業にとって利益を与えるもので,取引や内部開発によって獲得され,有効期限,市場価値を有し,企業に所有コントロールされるもの。
物的実体を持たない非流通資産。
物的・法的な実体はないが企業の将来の経済的便益を生み出す競争優位の源泉。
企業価値を構成する見えざる価値。

 無形資産と知的資本そして,知的資産という定義であるが,サリヴァンは図のように定義している。つまり知的資本の中には人的資本があり,それが知的資産に資産化される。知的資産でも法律的に保護されているものを知的財産と呼んでいる。

 資産か資本かという議論についてだが,欧州ではマネージメントの視点に立ち,企業価値の創出のために投入すべきものとして,知的「資本」という言葉が用いられ,米国では将来的に経済的便益を生み出すものとして,無形「資産」という表現が使われている。

図●サリヴァンによる知的資本の定義

 小職が委員長となり,日本機械工業連合会とドゥリサーチ研究所によって「平成12年度欧米における技術革新資産評価の新たな動向に関する調査研究」という題目で2001年5月に発表された。この調査では,技術革新資産と名づけた特に製造業におけるイノベーションにかかわるような資産を評価のターゲットとし,欧米の評価方法に関する幅広い文献リサーチを基に,独自の評価モデルを提案している。

 この調査における技術革新資産の分類定義を下記に示す。

(1) 企業の信用・対外アピール…ブランド,広告
(2) 技術にかかわるもの…研究開発,特許関係,アイディア・ノウハウ
(3) 人に関するもの…人財,人的管理
(4) 顧客関係
(5) 経営環境…経営能力,組織形態,情報基盤
(6) 企業環境…立地条件
(7) 企業独自のものや特別な権利…ビジネスモデル,MILK-Q