「今の方法で、売り上げを3倍まで伸ばせる」。パソコン・ソフト販売を手がけるソースネクストの松田憲幸社長は、早ければ3年以内に売上高を2005年度(06年3月期)の103億円から3倍の300億円に拡大できる見通しを語る。03年に打ち出したソフトのコモディティ化戦略、つまり1本当たり1980円という低価格戦略を引き続き強化していくことに加えて、販売網の拡大、法人向け拡大などで達成させるという。(聞き手・田中克己=主任編集委員)

---会社設立の経緯から聞かせてほしい。 

松田 大学を卒業後、日本IBMに入社した。金融SEだったが、2年目から米ベンチャー企業との取引に関与した。メインフレーム用に加えて、Windows用ツールを開発していた、このベンチャー企業のプロジェクトにアサインされたことで、Windowsに触れられたことが大きく影響した。今の知識のベースになっているし、外国人と付き合う方法も学んだ。その経営者から「転職しないのか」「会社を興さないのか」など度々言われた。会社を辞めるつもりはなかったのだが、そうようなことを通じて転職に抵抗感はなくなったし、独立してやっていけると思うようにもなってきた。

 実際には、93年に独立した。ある米国企業の日本法人の社長にという話もあったが、社員の給与を決められないなど権限を与えてくれない。それなら独立し、コンサルティングのお手伝いしようとなった。しかし、コンサルティングをしているうちに、製品を売らないとまずいと思ってきた。国内外のIT事情をながめながら、大きな市場であるパソコン・ソフトをやろうと考えた。米国には教育ソフトなど様々なパッケージがあり、それを日本語化すればいいと考えた。

---しかし、日本市場で成功すれば、日本法人を設立するかもしれない。それでは経営は安定しないとか考えた松田氏は96年にソースネクストを設立し、まず特打というタイピング・ソフトを売り出した。

松田 これまでのパソコン・ソフトは高いし、パッケージの箱が大きい。従来はフロッピーが何枚も必要だったが、今はCD-ROMと簡単なマニュアルしか入っていないのに、この大きさの箱は何の意味もないと思い始めた。それに、パソコンはコモディティ化してきたのに、ソフトはなっていない、という疑問が出てきた。

ソフト価格を1980円にした理由

 そこで、2003年2月から1本当たり1980円のソフトを売り出した。吉野家さんの経済学に関する書籍を読んだところ、300円、290円、280円などいろいろな価格をつけたが、280円の反応が一番だったそうだ。「そうだ。試してやってみればいいのだ」と分かり、2980円、3980円、1980円などの価格をつけて販売したら、1980円が一番の売り上げだった。それに3980円や2980円よりも1980円だと、コンビニや書店にも置きやすい。一方、980円だと店の利益がとれない。

 当初、6製品だったが、03年内に100タイトル(今は430)に拡大させた。自社開発、アウトソーシング(パートナ企業が開発、権利はソースネクスト)の両方がある。店頭を調べている調査会社があり、そこにあるジャンルのソフトをすべて揃えようと思った。持ち込みがあり、採算があうなら扱う。今は、1980円のソフトが全体の6割から7割を占める。

---1980円はソフトの価格破壊でもある。当時の業界の反応は。

松田 ソフト価格が崩れると、販売店の利益がなくなるという不安の声もあったが、ソフトを買うという習慣がついたことで、逆にコピーよりも購入・活用となった。つまり、ソフトが身近なものになり、女性の購入者も着実に増えた。それに伴って、HDDや無線LAN機器などを買おうとしたり、販売店にもプラスになったと思う。

 それに、1980円ならもっと売れるだろうと思った。加えて、これまでのソフトの箱はむやみに大きし、家電量販店の一部しか売っていないので、箱をスリム化し、本屋やコンビニなどに販路を広げられると思った。

売れるソフトを作り出すのが基本

---売れるソフトとは。

松田 ソフトのコストは開発費と電話などによるユーザーのサポート費になる。しかし、開発費は何人購入してくれるかで、1本当たりのコストが決まる。つまり、他社より10倍売れば、コストは10分の1になる。それに、たくさん売れば、品質もよくなっていく。タイピング・ソフトがその典型だ。

 問題は販売力になる。1年目は店に立ち、ひらすら売って、実績を上げた。売れないと、店から「場所がもったいない」と言われてしまうが、結果的に7割から8割の打率で売れるものを出せた。同時にCMなどをうち、ブランド力もつけていった。そうなると、「ソースネクストの商品は売れる」となってくる。売り上げは2年目に30億円になり、タイトルを増やし、翌年に50億円になった。その後、82億円、92億円、そして05年度が103億円と順調に増えた。03年にコモディティ化戦略を打ち出し、3年間で販売本数はナンバー1になった。ちなみに、3年間の累計販売本数は1300万本、パートナ契約は113社、販売チャネルは3万店になった。

---売り上げの見通しは。

松田 ソフトはもっともっと売れるはずなので、売り上げ規模は今の方法でも3倍は可能だと思っている。それに、自社製品を海外に出すことも将来はしたい。日本のソフト会社が海外市場で勝てないのは、マーケティングで負けているからだと思う。それに、大きな日本市場だけで「いい」と思っているソフト会社が多いからだろう。

 まずは3年から5年以内にナンバー1になり、日本で勝つことを優先する。目下のところ当社のシェア8%(家電量販店、金額)に対して、トップのマイクロソフトは24%だ。マーケティングなどをしっかりやることで、3倍に伸ばせばトップシェアになれるということだ。その一環から法人向けも増やしたい。例えばPDFソフトはディストリビュータ経由で1500社に売れている。IBMのホームページビルダーもホームページ制作ソフトのジャンルでもシェア6割を占め、当社が販売し始めてからも4年連続ナンバー1だ(BCN調査)。サンとのアライアンスでも、マイクロソフトのoffice対抗製品としてStarSuite、同 PowerPoint対抗製品として超五感プレゼンを発売している。

---この7月初旬からウイルス対策ソフトの新バージョンを売り出した。ウイルス対策ソフトの累計販売本数は200万本を突破した。

松田 「とくにかくウイルス対策ソフトは、更新料が高く、面倒」という声があった。更新をなくし、更新作業を簡単にした。画期的なのは3970円にし、更新期間を10年間無料にしたことだ。1980円以上の反響があった。発売して1週間だが、いままでに比べて金額ベースで5倍以上、本数で2倍以上の売れ行きだ。その結果、ウイルス対策ソフトのシェア(店頭)は4倍増えた。このまま推移すれば、年間20数億円だった同ソフトの売り上げは70億円とか80億円になる。

全方位作戦を展開する

---これも全体の売り上げを伸ばす大きな要因だという。

松田 確かに、最初の10億円を超えるのが大変だったし、10億円から100億円に時間はかかった。100億円を超せば、200億円までそんなに時間はかからない。3年間、早ければ2年間で3倍を達成できると思う。支配力が大きくなれば、シェアはますます大きくなる。4位だったシェアが、マイクロソフトに次ぐ2位になった。そうなれば、もっともっといい製品も集まってくる。

 ただし、単体商品で伸ばすことは大変だ。単体商品で伸びた会社はトレンドマイクロくらいしかないだろう。だから、当社は総合力で展開する。1つのカテゴリで50%のシェアを取るのではなく、それぞれの分野で10%のシェアを取る。いわば全方位にやっていくのだ。