コンピュータ技術者にとって,パッケージ・ソフトウエアの開発に携わることはひとつの夢です。パッケージ・ソフトウエアでは売り上げはソフトウエアの出来いかんにかかっています。もちろん売れるとは限らない厳しい世界ですが,大きな収入が得られる可能性もあります。労働の対価は付加価値や機能で決まります。

 これがユーザー個別のカスタマイズやユーザーのオリジナル・アプリケーションになると環境は悪化します。開発も経験したことがない人に工数を算出されて何人月という数値が生まれます。安すぎるとか高すぎるとか勝手に議論されて,無謀なスケジュールが目の前に出現することになります。オリジナルや個別カスタマイズという,他業種であれば特別価格をつけられるところが,人間が働いた期間でその価値が判定されます。

 派遣社員になると更に環境が悪化します。難易度や経験を無視して,奴隷のようにこきつかわれても,毎月固定額しか請求できません。土木作業の単純労働のような考え方です。提供しているのは,かなり高度な知識労働のはずなのにです。

 あるIT企業の社長がこう発言するのを聞いたことがあります。

 「私は文系の大学を選んだ理由は,文系のほうが理系の人間を駒として利用できるからです」

 確かにそういう側面はあるでしょう。専門知識だけでは,駒として利用されるだけになります。結果として労働環境が次第に劣悪になります。

 ただし,開発現場に覇気がない企業に,未来はありません。現在あちこちで問題になっているソフトウエアの品質の低さは,その労働環境との関連が極めて高いと思います。

 自分がいる環境がどのようなものか冷静に考える時間を持つことも必要なのかもしれません。他の製造業の開発環境と比較してみるのもよいでしょう。また,そのような劣悪な環境を打破するために変わりつつある企業があるか探してみる価値があるのかもしれません。