図1 WINが開発したウェアラブル冷房服
図1 WINが開発したウェアラブル冷房服
[画像のクリックで拡大表示]
図2 ウェアラブル冷房服は,肩から掛けるケープ(マント)の内側に,2種類の金属接合部に電流を流して冷熱をつくるペルチェ素子を取り付けてある
図2 ウェアラブル冷房服は,肩から掛けるケープ(マント)の内側に,2種類の金属接合部に電流を流して冷熱をつくるペルチェ素子を取り付けてある
[画像のクリックで拡大表示]

 ここ20年で,コンピュータの能力は100倍増に達したとされる。そのおかげで携帯電話は軽く小さくなり,しかもカメラもテレビもついている。

 たった1台の車に数十個のコンピュータが働いて,エンジンはもとより,カーナビ,エアコン,メータなどいたるところを制御している。これもコンピュータが低価格で小型,軽量,高性能だから可能なのである。このような車載,あるいは持って運べるコンピュータを中心とする情報機器は,まもなく人が装着(ウェア)する時代に入る。まさにウェアラブル(着られる)となる。

 着る情報機器つまりウェアラブルの時代に入ると,人が着ている衣服やめがね,シューズ,ベルトを通して情報をやりとりすることが想定される。情報のやりとりというと,人と人の間を考えがちであるが,ウェアラブル時代になると,ちょっとちがう。

 たとえばヘルスケアである。私たちは年に1~2度,健康診断を受けているが,ウェアラブル機器を使うと,1年365日,1日24時間を通して,フルに健康状態をケアすることが可能になる。心臓に不安のある人は,心臓の状態をとらえる各種センサー(例えば心電計)とコンピュータ通信が一体化した機器を身に付けることで,常に状態を見守られることになる。異常を感知すると,自動的に医療機関に通報され,必要とあれば救急車も出動……。これはまさに技術の福音ではあるまいか。

 パソコンは操作しないとまったく働かないが,ウェアラブルとなると,人に労をとらせない,キーボードにふれる必要もない,ただひたすら役に立つサービスを提供するのである。こうしたサービスを実現するために,私たち研究者,技術者はウェアラブル環境情報ネット推進機構(略称WIN)という技術開発型NPO(非営利法人)を立ち上げており,ヘルスケアシステムなどは,その活動の一端である。

1人が求める技術を開発,万人が求める技術へと普遍化

 最近のWINのトピックスは,電子的に冷却するウェアラブル冷房服の開発である(図1)。もともと冷暖房服の開発は,体温調節ができない難病患者さんが普通の生活を送れるようにお手伝いしたいとの思いから始まった。見回してみると,夏の過酷な暑さの中で仕事をする消防士や客待ちのタクシー・ドライバーも冷房服があったらよいと思われるのではないだろうか。

 ウェアラブル冷房服は,肩から掛けるケープ(マント)の内側に,2種類の金属接合部に電流を流して冷熱をつくるペルチェ素子を取り付けて実現した(図2)。今夏,冷房服を試着した高齢者や障害者の方々が銀座の歩行者天国に繰り出し,暑い中の外出を楽しもうという「ユニバーサルケープ・プロジェクト2006」を8月1日にお台場で、8月6日に銀座で計画している。

 電子冷暖房服の開発には数々の企業や大学に協賛していただいたのでここで紹介しておきたい。山武,クラレ,セコム,小松エレクトロニクス,ウベパレットレンタルシーリング,湖山医療福祉グループ,松永製作所の各企業,東京理科大学,東京大学,京都大学の各大学である。

 WINは技術開発型NPOであり,人々が生活するにあたって本来誰もが保有している,もしくは保有することのできる自立のための技術(市民技術)の開発を目指している。必ずしも多くの人が欲していなくても,欲している人がいる限り,その人のために技術開発を行い,その技術が将来的により幅広い使い方に発展する可能性を示し,成果を社会に還元することを目的としている。従来の独占・所有型,個の技術である企業技術に対し,市民技術は分配・開放型,場の技術である。詳しくはWINのホームページを参照してほしい。