筆者が狙った,ビジネスができSEが育つ技術集団作りのポイントの一つめは「SEの常駐や特定顧客への専任アサインは原則しない」,二つ目は「SEがマルチで仕事をすること」だった。これまこそれらについて筆者の考えを述べてきた。

 この2つは「ビジネスができSEが育つ技術集団作り」の両輪である。すなわち「SEマネジャは体制図を出さない」,「SEはマルチで仕事をする」,これがキーである。しかもこの2つができれば,SEが今抱えている問題である「SEの塩漬け」,「技術偏重」,「受身」,「若手が育たない」,「モチベーションが向上しない」などの問題も同時に解決する。

 ある意味では現状の打破でありSEの改革である。

SEマネジャはもっとビジネスの世界に首を突っ込め

 SEマネジャの中にはきっと「馬場さんは現実を知らない。うちの会社はそうではない。トップや営業部長などが体制図を出せと言う,マルチなどとてもできない」と納得いかない人もいると思う。

 だが筆者はそんな人には「気持ちは分る。だが,SEごとはSEマネジャの仕事ではないですか?営業部長はSEの心理や育て方や動機付けなどは頭にはないんだよ。トップはSEごとを分ってはいても,経営や営業ごとで手一杯なんだよ。SEマネジャがそこのところを察して,会社と部下のためにSEごとをしっかりやるべきではないですか?トップや営業のせいにするのはいかがなものか?」と問うてみたい。

 SEマネジャの中には営業に遠慮してか,SEごとから往々に腰をひいて逃げている人がいるが,筆者はそれは問題だと思う。もっとビジネスの世界に首を突っ込み,ビジネスのためにSEをどのように生かすか,などSEごとに関してイニシアチブをとるべきだと思う。

 例えば,自分が良かれと思ったことは営業やトップに「こう改善した方がSE戦力が強化でき,ビジネスが伸び顧客満足度もあがる」などと提言し実践することだ。ただ,SEマネジャが逃げていても,それを誰も咎めないし,目先の仕事もあり大過なく仕事は進むかも知れない。だがそれでよいのだろうか。

 前回SEの体制図うんぬんについて述べたが,これはその意味でもSEマネジャの腕の見せ所である。この問題はビジネスが絡み実にややこしいが,挑戦するだけの価値もあると思う。

 筆者が現役時代にSEがそれについて何をやったか,参考になればと思い,以下簡単に説明する。

答えはお客様に信じてもらうこと

 筆者は当時「要は体制図を出さなくてもビジネスがうまくいけばいいんだ。そのためには自分たちSEは何をやらなければならないか」と色々と考えた。そしてその答えはお客様に「この連中ならやりそうだ」と信じてもらうことしかなかった。それは,信用されれば顧客から体制図を要求されても何とか対応できそうだと考えたからだった。

 事実,当時顧客から体制図を要求された時,筆者は「私が責任を持ってやります。任せて下さい。もしうまくいかない時には弊社の全SEでも投入します。しばらく見ておいて下さい」と言っていた。

 この「しばらく見ていて下さい」がポイントだ。「しばらく見ていて下さい」と言って「見ない」と切り返された顧客は1件もなかった。顧客の方も人間だから,ある程度信用している連中に正面から「見ていて下さい」と言われて「見ない」とはなかなか言えなかったのだ思う。

 そして筆者はプロジェクトの出だしには,短期間だが顧客の方が考えている以上の人数のSEを投入し,軌道に乗せていた。言うまでもなく,この芸当はSEがマルチで仕事ができないとなかなかできない。

 では,肝心の顧客に信用してもらうために筆者たちは当時何をやったかだ。

 それは言うまでもない。なんと言っても受注したシステム導入・開発・保守は常にきちっとやることが一番だった。そのためにSEの技術力向上はもちろん,SE同士の助け合いや本社専門部隊との関係強化など色々やった。

SEが販売すれば売りも開発もうまくいく

 そして次に,SEに積極的に販売活動を営業とやらせた。しかも「この連中なら発注してもちゃんとやりそうだ」と顧客から評されることをゴールにした。

 当時「売るのは営業の仕事だ」と言うSEマネジャもいたが,筆者はそうは考えなかった。それはSEも販売活動をした方が,売りも受注後のシステム開発もうまく行くし,また,営業に勝手にSEごとを顧客に約束されては困るからだった。

 そして

(1)基本的にSE顧客と業務やITの会話がきちっとできるSEを中心に担当させ,必要時はまわりのSEに応援させた。
(2)受注後はそのSEにプロジェクトのリーダーかサブをやらせることにしていた。
(3)提案書は同業他社に負けない一流のものを作らせ,差別化を図った。
(4)意識的に本社のSEなども使い顧客への説明会などをやった。それは暗に受注後も全社をあげてやりますと言うPRでもあった。

そしてSEマネジャの筆者も,ぶら訪問や提案書のガイド,レビューを行い援助した。

 だが,競合の激しい時や他社顧客への売り込みだと体制図うんぬんがどうしても絡み「体制図を出すか出さないか」の大勝負になる時がある。

 筆者はその経験を2回味わった。その時は苦肉の策で「名前なし,役割のみ書いた体制図」を出し冷や汗をかきながら説明した。例えばプロジェクトマネジャー,アプリケーション担当,OS担当,ネットワーク担当うんぬんという階層構造の体制図である。そして前述したように「見ていて下さい」と言い切った。最終的に顧客に納得していただき,結果としてビジネスもうまく行った。

 筆者がそんな戦いをした時代は,同業他社が「SEを何人無償でつけます」と言ってハードを売っていた時代だった。しかし,筆者は何とか切り抜けてきた。昔に比べ,今のサービス時代はもっとやりやすいはずだ。

営業とSEの新しいあり方を模索すべき時期に

 当時筆者はいろいろな経験をしたが,きっと「お客様には迷惑はかけない,やるべきことはやる」という気持ちを顧客の方に買っていただいたのだと思う。そんなギリギリの勝負を見た部下はきっと「よし,やらねば」と思ったのだろう,全力で頑張ってくれた。SEマネジャの方々は日頃忙しいと思うが,ぜひもっとSEごとに責任を持ちリーダーシップを発揮して頑張ってほしい。

 余談かもしれないが,今のIT企業の中には「SEはコストだから販売活動は極力させない,売りの専門部隊にやらせる」という企業もあるが,筆者はそれでよいのだろうかと思っている。それでは顧客から「売りっぱなし」と疑われ,体制図を要求されても仕方ないとも思う。それよりも現場のSEが中心となり,SEならではの技術屋らしい提案活動をすれば,顧客の方も安心され,より信用していただけると思う。

 SEがコスト100%か80%かなどは社内の管理の問題である。またSEと営業の人数のあり方の問題でもある。ハード時代から何十年も,営業に会社やSEの技術力を顧客に売り込むことを期待してきたが,それは歴史的にみるとどう考えても過大な期待ではないだろうか。

 ここ数年,どこのIT企業もプロジェクト管理力と提案力の強化が叫ばれている。だが,それを実現するためにはそろそろ営業・SEを含めた新しい編成方法を模索すべき時期にきているのではないだろうか。