ジャンルや目的を問わず,イベントの広報にブログを活用する利点は計り知れません。

 イベント開催の準備段階からプレイベント情報を発信して,早い時点から関心を集め,関係者の参加意識を高めることができます。また,イベント開催中は,ほとんどリアルタイムで,すばやく現場の臨場感を伝えられます。そして,イベント開催後も,参加者の反響や感想などを紹介するポストイベント情報を発信して,ほどよい余韻を残し次回イベントへの期待感を高めることができるのです。

 また,公式ブログのみならず,参加したスタッフや観客がイベントへの意気込みや感想などを各自のブログで発信すれば,さらに有効です。公式ブログに,それぞれがリンクやトラックバックをしていけば,大きなネットコミの広がりが期待できるからです。

 しかし,イベント広報にブログを本格的に活用している事例はまだまた少ないようです。そこで今回は,私もネット広報やTシャツ制作で微力ながらご協力させていただいた,第一回Tシャツアート展のブログ活用を好事例として,そのあるべき姿をご一緒に考えてまいりましょう。


Tシャツアート展を支えたWebとブログの連動

 去る7月11日から15日まで,STOP DV(ドメスティック・バイオレンス)推進のためのチャリティーイベント「第1回Tシャツ・アート展」が開催され,盛況のうちに幕を閉じました。ウィメンズネット・サポート(WNS)が主催するこのイベントは,心あるアーティストが作品を創り,発表し,販売し,その収益金をDV被害者支援の民間支援団体に分配することで,その活動を応援する展覧会です。初開催ながら,趣旨に賛同するアーティストやイラストレーターから70柄1000枚ものTシャツが集まりました。

 その社会的意義も評価されて,産経,東京,毎日,朝日,読売など新聞各紙や,NHKのお昼のニュースで紹介されるなど,マスメディアのみなさんも取材で応援してくださいました。

 一方で,イベント運営を担当する日本メディアアート協会(JMAA)は,Tシャツアート展専用のホームページ を用意して情報発信に務めました。しかし,私が注目したのは,それを補う形で運営されたTシャツアート展ブログです。

 NPO法人が低予算で運営するイベントですので,広報予算を取ることはできません。そこで,社会企業家のための無料ブログ「日本財団CANPAN」を活用して,JMAAのみなさんご自身が情報発信をすることにしたのです。


プレイベントはイベント告知と作品募集から始まった

 このTシャツアート展ブログは,作品募集からスタートしました。展覧会開催から2ヵ月前の,5月14日のことです。

 第一回の記事は,まだブログに慣れていないこともあって,画像やリンクも無い状態でした。JMAA理事長の竹本明子さんのお話では,どれだけ作品が集まるかわからないまま,おそるおそるのスタートだったそうです。

 しかし,ブログに作品募集の記事をただ書いただけではクリエイターは集まりません。そこで,募集記事に続いて,作品が,都内一等地に飾られ,しかも電光掲示板で告知までされるとの「嬉しい情報」が写真入りで公開されました。

 さらに,マスメディアやネットメディアの取材記事が掲載されるたびにブログで紹介されました。仮にその取材記事を見逃した人がいても「新聞掲載」されたことを,誰もが知ることができたのです。

 初開催で参加を迷っていたクリエイターも,マスメディアに紹介された記事(パブリシティ)の情報で,イベントの注目度やステイタスを知って,見る目が変わったことでしょう。


イベント前に参加表明クリエイターの代表作品とプロフィールを紹介

 プレイベント情報の目玉は,参加表明をした順番に各クリエイターの代表作品とプロフィールを紹介したことでしょう。

 通常,展覧会の告知をネットで行う場合には,展示作品や作家を同時に紹介することが多いはずです。しかし,今回はブログの特性を活かしながら,5月28日の貝本充広さんを皮切りに,1日1~2人ずつ作家を紹介していきました。最終的には,40人におよぶクリエイターが紹介されたので,会期直前の7月3日まで,1ヵ月余りにわたって連載が続いたことになります。

 文字ばかりが並びがちのブログですが,Tシャツアート展のブログは,1人1人作風の違う画像で彩られて楽しいものになりました。

 欲を言えば,プロフィールやメッセージの書き方,項目,文字数などを統一した方が読みやすく比較しやすかったかもしれません。Tシャツの作り方,各自のブログ活用法と合わせて,ミニレクチャー(含むオンライン)を行い,簡単なマニュアルを作った方が良かったと反省しております。

 また,応募時に「Tシャツアート展に参加した動機は?」「DV被害者へのメッセージを」といった,全作家共通の質問3問から5問にご回答をいただく方法もあったかもしれません。申込み用紙に原稿用紙のような文字数制限つきの記入欄を設けておけば,編集の手間も省けるでしょう。


Tシャツ作品の事前公開&事前予約ができれば,なおベター

 今回は,公募から会期までの日数が限られていたこともあって実現が難しかったと思いますが,本来ならば,展示作品の事前公開と事前予約がブログでできれば,なお素晴らしかったと考えます。

 もちろん,事前公開すると展覧会当日の楽しみがなくなるというご意見もあるでしょう。しかし,これまでTシャツ作品をネットで紹介し続けた経験から申し上げるならば,やはり現物を見たとき以上の感動はないのです。ですから,ネット画像で想像が膨らむことで楽しみが増えこそすれ,当日,足を運ばなくなることはないでしょう。

 また,今回は,開催2日目で早くも売り切れになってしまった人気作品もあったようです。平日の日中には展覧会に足を運べないため,土曜日に見に行こうとしていた方も多かったはずです。そんな時,お目当ての作品が売り切れだったら,さぞ寂しい気持ちがしたでしょう。

 そこで,事前予約で取り置きができたなら,親切だったはずです。特別な買い物カゴがなくとも,メールで訪問日と合わせて連絡先を送っていただければ十分でしょう。配送の手間はかかりますが,送料別でネット通販をすれば,首都圏以外の方にも買っていただけたと思います。事前にお振込みをいただければ,未回収のリスクも少なくすることができるでしょう。

 何より,事前予約の反応を見ることで,生産枚数を実需に見合った分だけ作れることが利点です。各クリエイターのブログやホームページでも,それぞれのファンに対して事前予約をお勧めするとさらに精度が高まります。作り過ぎの在庫過剰や,少な過ぎの機会損失のリスクを減らすこともできるでしょう。


会期中の展覧会場の様子を写真で生々しく伝える

 会期中のブログで素晴らしいと思ったのは,会場の様子が毎日デジカメ写真でレポートされたことです。

 この写真を見れば,会場に行けない人も,既に行った人も,現場の明るさ・楽しさや賑わいを感じながら楽しむことができるでしょう。あえて多くの言葉を使わずとも,写真と短い説明だけ載せれば,立派な現場レポートになるというお手本です。これなら忙しい会期中でも,10分もあれば更新できると思います。

 少し残念だったのは,ここでも,肝心の作品や,そこに添えられた素敵なメッセージがブログにアップされていないことです。現場,その素晴らしさを実感した私としては,1人でも多くの方々に見ていただきたい作品ばかりなのです。

 確かに70柄もありますと撮影も大変ですし,不公平の無い様に事務局も気を使われたと思います。しかし,売れ筋のベスト10を紹介したり,逆に出足の悪い作品を今日のピックアップでご紹介することは,お客様の満足とクリエイターの満足を両立するためにとても有効でしょう。また,1枚でも多くの作品を販売することが,この展覧会の趣旨でもあるDV支援団体への収益還元にも役立つはずです。

 また,今日は何人ご来場いただいたか,何枚ご購入いただいたか,何柄売り切れになったか,いくら支援団体への篤志が集まったか,といった情報を添えても,お客様の興味を惹くことになるでしょう。


会期後はクリエイターと来場者の声を伝えて縁を結ぶ

 そして会期後のポストイベントも重要です。主催者,後援者のお礼の言葉に続いて,ご来場いただいた方々や,参加クリエイターのみなさんの肉声がブログで共有できれば素晴らしいでしょう。主催したNPOからの一方的な情報発信よりも,ご参加された言葉の集まりの方が,時として説得力共感力を持つからです。

 いずれ,1億総ブロガー時代になれば,ネットだけでコメント・トラックバックが集まる日が来るかもしれません。しかし,現状では会場に「主催者・作家への一言」といったカードや,ノートを置いておくのが得策だと思います。そしてブログへの転載の可否,お名前紹介の可否をチェックする欄を作っておけば,あとは文字入力の手間だけで,貴重なご意見ご感想データベースがブログに蓄積されます。

 何より大切なのは,そのご意見やご感想に対して,主催者のスタッフや参加が真摯にコメントを書き込むことでしょう。そうすれば,イベント会場では出会うことがかなわなかった作家とお客様との間に心の交流が生まれるはずです。

 また,会期途中で売り切れをした作品や,購入後,家族や友人からも欲しいと言われた作品もあるでしょう。こうした,追加購入のリクエストを会期後も受けられる仕組みを作ると親切です。1枚2枚の追加は大変ですが,5枚10枚まとまったら再販されるといったルールを作れば,お互いの手間を省くこともできるでしょう。その結果,総売上額が何割か上乗せされ,寄付額も増えるはずです。

 ポストイベントで何より大切なのは,今回ご賛同をいただいたご来場者ご購入者と,長いご縁を結ばせていただくことです。そのためには,定期的にイベントを開催し,ブログを続けていくことが重要ですが,メールマガジンも併用すると良いでしょう。

 イベント会場で,ご購入いただいた方はもちろん,「主催者・作家への一言」や,「アンケート」にご意見をいただいた方は,最も大切なお客様候補なのです。メールマガジンをお送りしても良いとアドレスをご記入くださった方には,ぜひ定期的に情報をお伝えしたいものです。そして,事前予約・取り置きや,内見会・講演会・サイン会ご招待と言った特別なサービスをご提供すれば,生涯のファンができるでしょう。

▼Tシャツアート展のURL
ホームページ(日本メディア・アート協会):http://jmaa.info/
ブログ:http://blog.canpan.info/jmaa/