会計制度の改革や外国人の持ち株比率の高まりを背景にして,ディスクロージャー(情報開示)の重要性も高まっている。企業は投資家に正確で意味のある情報を伝えるために,会計制度上義務付けられている情報以外にも,積極的に開示していく必要性がある。

 さらに経済産業省が中核技術への研究投資額や特許権などに関するより詳しい情報の開示を積極的に促す「知的財産報告書制度」の概要を2003年1月24日に発表した。知的財産に限らず,ブランドや人的資産に無形資産全般に関する情報開示も今後求められていくだろう。

 一方,日本企業の合併・買収件数が増大している。国内製造業企業同士の大型の案件も発生してきた。さらに事業単位のが売買も盛んになってきた。

 ところがその際の合併比率や,買収価格などの値付けに関する明確なルールはなく,合併・買収後にその企業の株価が下落するといったケースも目立つ。より正確な合併・買収の値付けを行うために,自社の企業価値をより正確に把握する必要があるだろう。

 財務諸表上の数字や株価などの表面的な数字の操作では無形資産を含んだ企業価値は計れない。企業の本質的な価値を論じるためには,無形資産を数値化して,その価値を評価することが必要不可欠である。さらに無形資産の価値を測定できれば,自社の企業価値の正確な把握,外部への正確な情報開示が可能になり正当の評価を市場から得ることができる。

 そこで本章では日本の製造業を対象に,無形資産の数値評価を試みる。製造業を対象に,企業の無形資産を定量的に評価できる無形資産評価モデルを提案し,その有効性を,ケーススタディを通して検証する。

 求められる無形資産評価モデルは,論理性,客観性,,実用性,具体性が求められる。論理的に裏づけされた算出方法が明示的にあり,誰が行っても同一の結果になるような,客観性のある評価モデルが必要である。評価モデルが机上の空論に終わってしまっては,それがいかに論理的に優れたものでも,それは有用であるとは言いがたい。

 従って,実際の企業に適応できるような実用性を持ったモデルを開発しなければならない。具体性,単に無形資産の価値といっても,その中には,ブランド,技術力,ノウハウ,企業文化,ビジネスモデルなど,様々な要素がある。従って,無形資産の価値評価に当たって,それぞれの無形資産がどれだけの価値を持つのか明らかにしなければならない。また,資産の価値は,定性的な指標や非財務的なポイントのような指標ではなく,最終的には金額で表現されなければならない。

図●無形資産評価モデルに求められる要件

 既に述べたように,無形資産の評価を行うことは,企業価値を再定義することでもある。

 一般的に当たり前とされる「企業価値」にあえて疑問を呈し,企業の本質的な価値について再考することは,21世紀の企業のあり方を考えるというとである。また無形資産を評価し可視化することができれば,企業の経営者にとってより効率的なマネージメントが可能となり,企業価値の最大化に貢献できる。

 さらに財務諸表上の数字だけではなく,無形資産の価値を含めた企業情報を公表することができれば,投資家がより正確に企業を評価することができるようになる。

 現在,日本の製造業の多くは強固な技術基盤を有する企業でさえ,経済運営の問題の余波を受け,苦しめられ思うような業績を上げられず,市場からも過小評価されてしまっている。しかし今までの日本経済を支えてきたのは高い技術力を持った製造業であることは国際的に活躍している企業を見ても明らかなことである。そしてこれからも日本経済の活性化のためには,こういった企業の健全な成長が必要不可欠である。

 なお企業の貸借対照表への無形資産価値のオンバランスの実現は,会計学の専門知識や,価値測定の本質的な部分ではない制度の策定なども含むため,ここでは特に触れない。以下は,松島研究室の研究報告であるので,若干,数式があったり,話が堅かったりするが,読むだけの価値はあると思う。