今,テレビの画面は非常に大きく,そして美しい。

 液晶テレビやプラズマテレビの画質はこの数年間で著しく向上した。画面も大きくなり,迫力が増した。こうなると,あの美しく大きな画面を「もっといろいろと使い回したい」という要求が生まれる。例えば,デジタルカメラや携帯電話で撮影した画像をテレビでも見たくなる。

 ただこの時に,画像データをフラッシュ・メモリーなどのメディアを介したり,USBケーブルで接続して転送するのでは面倒だ。そこで,これからは「DLNA」(Digital Living Network Alliance)が重要なテクノロジーになると考えている。

JiniやHAViは失敗したが・・・

 DLNAはAV家電をネットワークで簡単に連携させるための規格だ。
 実は昔からこの手の規格はあった。米サン・マイクロシステムズが提案した「Jini」や米マイクロソフトの「UPnP」(Universal Plug and Play),ソニーや松下電器産業などが共同策定した「HAVi」(Home Audio/Video interoperability)などだ。しかし,家電連携という点では,どれも普及しなかった。これは当時,家庭内のネットワーク環境が十分に整っていなかったのが一つの原因だろう。特に,イーサネットなどをリビングに引き回すのは現実味がなかった。

 だが現在は違う。Wi-Fi(無線LAN)やブロードバンド回線といったインフラが家庭内に入り込んでいる。PLC(Power Line Communications:電力線通信)も規制緩和される見込みで,実用化が見えてきた。また,DLNAの仕様自体がIPベースで,極めて現実的な仕様である。Jiniなどの数々の失敗を乗り越え,実を結ぶ技術になりそうだ。

HDDレコーダの映像をケータイで見る


図1 DLNAによる家電の連携イメージ。M-DMDやM-DMU,M-DMS,DMPr,+DN+,+UP+,DMP,+PR2+はACCESSが提供するDLNAソフトウエアのデバイスクラス
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図2 「NetFront Living Connect」ではDLNA用のさまざまなソフトウエアを用意
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 DLNAの2006年3月拡張仕様(俗にバージョン1.5と呼ばれる)では,携帯電話が家電との連携対象に入ってきた。この点も重要だ。携帯電話から家電をコントロールしたり,携帯電話で撮影した映像をテレビで見ることができる(図1)。逆に,家のHDDレコーダで録画した映像を,外出先から携帯電話を使って視聴することも可能になる。このような世界が実現すると,コンテンツがどこにあっても再生できる。コンテンツの保存場所と再生場所の物理的な関係を断ち切れるのだ。

 今のところ大きな対抗規格がないのもDLNAが成功しそうな理由の一つ。みんながDLNA規格に乗って来ている。ソニーや松下電器産業はDLNA対応製品を既に出荷済みだ。最近はノキアもDLNAのコンソーシアムに参加してきた。マイクロソフトは次期OS「Windows Vista」でDLNAに対応する予定である。

 ACCESSはDLNA対応の家電向けミドルウエアとして「NetFront Living Connect」を発表した(図2)。各種コーデックも関連会社のOKI ACCESSテクノロジーズ製を提供可能だ。現在,いろいろなメーカーさんとDLNA対応機器を試作中だ。秋には形になったものを発表できるだろう。

DLNA対応ケータイがHSDPAのキラー・アプリに

 家の中ではWi-Fiなどで機器同士がシームレスにつながるが,外に出ると携帯電話事業者のネットワークを使うことになる。この時,動画や音楽データを転送するには,通信速度とデータ通信の料金が気になるところだ。今後始まる携帯電話の高速データ通信サービス「HSDPA」(High-Speed Downlink Packet Access)は,下り最大速度が14.4Mビット/秒にも上る。NTTドコモがサービスを始める今夏の時点でも最大3.6Mビット/秒と十分に高速である。家にあるDLNA対応機器に保存したマルチメディア・データをHSDPA経由で再生する――このようなサービスがあればHSDPAのキラー・アプリケーションになるかもしれない。

 一方,Wi-Fiと3Gのデュアル端末も登場している。Wi-Fi/3Gデュアル携帯の当初のターゲットは法人向けのようだが,インターネット経由でDLNA対応の家庭内機器と連携したいという要求も出てきそうだ。通信料金も,これらのニーズに合った定額制サービスを期待したいところ。こうした 環境が整った時,DLNAは大きく華開くであろう。