KIPA,ソウル市。立派な建物です
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IPAの訪韓メンバーとKIPAの皆さん
IPAの訪韓メンバーとKIPAの皆さん
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担当者会議にて。KIPAの皆さん
担当者会議にて。KIPAの皆さん
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さまざまなシステムを検証しています。この女性はKIPA OSSセンターの華,Sonia Parkさん
さまざまなシステムを検証しています。この女性はKIPA OSSセンターの華,Sonia Parkさん
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立派な看板の前にたたずむ田代センター長
立派な看板の前にたたずむ田代センター長
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同,岡田です
同,岡田です
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OSS Promotion部隊のオフィススペース。とても働きやすそうです
OSS Promotion部隊のオフィススペース。とても働きやすそうです
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 長らくお待たせしてしまってすみません。本談話室,次のバッターボックスに入っておりますのは,テックスタイルの岡田良太郎です。私は5月に公開しましたWebサイト「OSS iPedia」について検討する「データベースWG」に参画しています。私は,IPA OSSセンターの非常勤研究員の一員として,時折,海外のOSS支援組織の調査や情報交換を担当することがあります。私たちとしては,海外でのOSS展開に関する状況や,先行事例の背景に潜むご苦労をお聞きするところに狙いがあります。

 もちろん,逆に日本ではどうなんだ?と,日本のOSSの状況について関心をもたれることも多いです。そのような場合に「OSS iPedia」に掲載している導入事例や,性能評価レポートなどを参照してもらえるようになればいいな,と思っています(iPediaのWebサイトはこちら)。事例,OSSのパフォーマンス・レポートやツールには,多くの人の知恵が込められていて,大変興味深いです。これらの成果は,様々な規模のシステム・インテグレーションの参考になるはずです。もちろん,情報の登録も歓迎しています。

 さて,去る4月10日,そのOSS iPediaがリリースされるおよそ一カ月前,そう,ちょうど天津で北東アジア推進フォーラムが開催される直前に,韓国のソウルにあります韓国ソフトウエア振興院 (通称KIPA:Korea IT Industry Promotion Agency) を訪問しました。この機関名を見れば一目瞭然ですが,この組織は日本のIPAの韓国版にあたります。

 午前にIPA-KIPA間のトップ会談があり,その中ではお互いの国におけるOSS関連事業の情報交換が行われました。韓国では,政府調達において,NEIS(National Education Information Service)をはじめ,これまで23省庁管轄の37プロジェクトがOSSベースで実施されてきました。なんでも,新規のIT政府調達のケースにおいて,適用可能なものはすべてLinuxで行うとの方針があるのだそうです。また,今年は,光州市のLinux City計画などの報道もありました(関連記事)。KIPAのOSS支援組織は,こうしたプロジェクトに関し,必要に応じて直接間接にサポートするというミッションがあります。

 OSS導入のメリットについては,特にUNIXサーバー/ワークステーションからの移行・比較にフォーカスしているとのことでした。ソフトウエア・ライセンスフィーの削減,またIAならではの安価なハードウエア・コストにより,少なくとも30%のコストダウンを可能にしているとのことでした。さらに,より多くの企業がサポートに参加できるというメリットも見逃せません。興味深いのは,「Linuxデスクトップ」に対する非常に前向きな姿勢です。韓国では,サーバー分野よりもむしろ,ワークステーション/デスクトップにおける適用例の増加に注目できます。

 午後には担当者間会議ということで,より詳細な情報交換やディスカッションが行なわれました。KIPAのOSSの技術サポートの対象は,中央省庁,地方自治体,学校です。技術的な検証,移行ガイドラインなどの策定も実施しています。いくつかの実際のOSSシステム運用も担当しており,なごやかな雰囲気の中にも真剣そのもので技術検証作業を行っていました。

 ガイドラインの一つに「クロスブラウンジング・ガイドライン」があります。政府,学校などの公共機関がWebアプリケーションを作る際,Internet Explorerだけでしか動作しないシステムを作ってはいけないとするガイドラインなのですが,この準拠が徹底されてきているんだそうです。OSSブラウザの代表であるMozzila Firefoxをはじめ,Opera,Safariなどの比較的マイナーなブラウザにおいても動作保証できるようなWebサイトを作りなさい,というわけです。このようなブラウザのロックイン解除は,デスクトップ環境の選択肢を拡げる効果があるんですよね。日本では,Internet Explorerでしか動作しない公共系のシステムが少なからず存在します。確定申告システムなどもそうでしょう。

 また,全国レベルのOSSサポート体制にも工夫が凝らされています。KIPAでは,全国の零細企業を含む様々な規模のOSSを扱える企業を「OSS Solution Partner(問題解決力のあるパートナ)」「OSS Support Partner(システム利用・運用支援ができるパートナ)」という制度によって認定しているのです。また,開発したソフトウエアやソリューションを「Good Software」として認定する仕組みもあります。そのような認定を受けた企業が,このセンターや,全国16エリアに存在するサポート拠点として参画し,地方自治体や学校のサポートを行っています。その中には,技術力があるものの,ほんの数名規模の企業もあるんだそうですから驚きです。韓国の技術力強化政策として,SME支援は徹底しているのだなあと思いました。

 全体として,技術力のあるOSS開発を行うさまざまな規模の企業への支援,ソフトウエアのデビューの機会を増やそうとする気概には感銘を受けたと言わざるを得ません。もちろん,企業にせよ政府にせよ,一生懸命作ったからと言って,どんなソフトウエア・パッケージでも活用されているかといわれれば,そうでもないという現実もあります。それでもやはり,ユーザーが安心して利用できるソフトウエアとしてのオープンソースソフトウエア・プロジェクトの創出,また利用の促進のためには,OSSエコシステムの中で活発に活動できる役者が,安心して活躍できるような環境が重要なのだと思いました。

 長文を最後までお読みくださりありがとうございました。次の機会には,また別の地域のOSS推進状況について報告できればと思います。