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久米信行の「企業経営に活かすブログ道」

「セコムと話そう子供の防犯ブログ」に見る
脅迫的CM的にならない工夫

2006/06/26

 昨今,わが家の子供たちに,うっかりテレビのニュースを見せられません。それは,毎日のように,小さな子どもが巻き込まれる悲惨な事件が報道されるからです。

 今や,ランドセルに防犯ブザーをぶら下げるのは当たり前。個人情報保護でクラス名簿も配られないため年賀状も行き交わない。親切に声をかける人がいたら犯罪者と思えと教えられる……。

 そんな歪んだ社会のありように,繊細な子供たちが影響を受けていないはずはないでしょう。おそらく,理屈ではなく鋭い直感で何かを感じ取っているはずです。

 そんな中でダメ押しの「暗いニュース」ばかりを目にしたら,いくら父親が「未来を輝かしく可能性に満ちている」と力説しても,ウソに見えてしまうでしょう。

 私のように東京下町のオープンな裸づきあい,いわば「銭湯お祭りコミュニティ」で育った人間にとっては,この「新しい現実」は驚き以外の何ものでもありません。すでに理想郷ユートピアの正反対の社会「ディストピア」に近づいているのでは…とも思いたくなるのです。

 とにかく,古きよき日本型の「相互信頼社会」から,どこか海外で見たような「相互不信社会」に向かっている今,親としては何らかの対策を考えずにはいられません。


「子供の防犯」というキーワードで見つけたセコムのブログ

 こうした新しい悩みにぶつかった時,多くのネットワーカーが取る行動は「キーワード検索」でしょう。私も,さっそくGoogleで「子供の防犯」と検索しましたが,6万4500件もヒットします。

 そんな中,上位表示サイトで目に止まったのは,私もTシャツガイドを勤めるオールアバウトの「防犯」サイト,子どもの危険回避研究所…,そして今回の題材「セコムと話そう『子供の防犯』ブログ」でした。

 まず,ここで改めて注目したいのは「ブログが検索エンジンに強い」という事実です。

 オールアバウトは5年前から続いている人気ガイドサイト,子どもの危険回避研究所は1999年から発信している老舗サイトです。それに対して,セコムのブログは,今年の2月7日に開設されたばかりの新しいサイト。アップされている記事も,2006年6月22日現在で50本しかありません。

 それでも,現在,6万件を超える競合サイトの中で,堂々とベスト3に表示されるのは,「子供の防犯」というキーワードを冠したブログの威力でしょう。企業が,テーマ別にWebサイトを作る時には,ブログが有効であることがわかります。


「セコム」というブランドがプラスにもマイナスにもなりうる

 さて,1人のユーザーとして,今回のテーマ「子供の防犯」といった新しいテーマの情報を得る時には,一つのサイトの情報を過信するのは危険です。上位サイトやお勧めリンク集をたどりながら,なるべく複眼志向で多様な意見を知るように心がけています。

 こうしてサイトを見比べる場合,例えば,この「子供の防犯」ブログに「セコム」というブランドが冠されていることに,ネットワーカーはどんな印象を抱くでしょうか。

 私の場合は,会社でも自宅でもセコムを使っていることもあって,一般の人よりは,セコムの事業に対して理解があるかもしれません。大きな会社,テレビで宣伝している会社だから,安心する人もいるでしょう。その点では,もちろんプラスの印象を覚えたはずです。

 しかし,一方では,治安の良かった下町的「相互信頼社会」を知る最後の世代として,「タダで買えたはずの安全」にまでお金を払わなくてはいけないのだ,という思いもあります。やむを得ず使っているという感覚は,ウイルス対策ソフト同様にセキュリティ関係の商品にはつきものです。

 また,インターネットで情報を得る時の鉄則として,商品販売サイトの情報は「話半分に聞いて判断する」クセがついている人も多いでしょう。特に,健康,教育,金融などと並んで,安全といった「目に見えない価値」がある(という)「要説明商品(時には要脅迫商品?!)」については,大企業の不祥事が続いていることもあって,半信半疑になる人も少なくないはずです。

 つまり,有名な大企業がやっていることが,ネットではプラスの印象を与えることもあれば,マイナスの印象を与えることもあるのです。結局は,ブログの中身で信頼が決まるということになるでしょう。


研究所所属の顔が見えるモデレーター「舟生さん」の存在が重要

 ブログは,もともと個人発等身大の情報発信ツールです。大組織の不祥事は,得てして匿名性の集団無責任体制から起こりがちですが,こうした組織にブログはなじみません。あくまでも,ブログでは責任を委ねられた個人による発信が鉄則なのです。

 すなわち,企業や団体のブログにおいても,顔の見えるモデレーター,人気のあるブログジョッキーが大切なのです。部門別のブログ適性を考えますと,必ずしも売らんかなの商品部門や販売部門のキーマンが向いているとは限りません。むしろ,もっと身近で親身に感じられる人,それでいて,見識や経験があってお客様からも同僚からも尊敬される人を,社内から探さなければなりません。

 子供の防犯ブログでは,セコムの研究機関,セコムIS研究所の研究員,舟生 岳夫(ふにゅう たけお)さんがブログのモデレーターを担当されています。

 ブログに公開されたプロフィールには,メガネをかけた,どちらかといえば大人しそうな舟生さんの仕事中の写真が掲載されています。そこには,防犯セミナーの講師を勤める先生,防犯整備士であると同時に,正義感に燃える二児の父であることも書かれています。

 大企業の公式ブログで,ここまで個人を主役にしているケースは決して多くないはずです。しかし,モデレーターの顔が見え,一個人として信頼できなければ,ブログに書かれている情報は,すべてセールストークに見えてしまうかもしれません。ですから,セコムの一社員としての顔,研究者や講師としての顔,父としての顔を持つ舟生さんは適任だったでしょう。

 また,プロフィールの中に,はじめて聞くセコムIS研究所の説明とWebページへのリンクがあることも安心につながります。その研究所が,今日明日の商売でセキュリティ機器を販売するよりも,将来の先端技術を研究している機関だとわかるからです。社内で,一番長期的公益的な仕事をしている方を,ブログ担当者に抜擢するケースがこれからは増えるかもしれません。


会社が出したい情報と,お客様が知りたい情報とのギャップを埋める

 とは言え,ブログのはじまりを見てみますと,会社も担当の舟生さんにも,まだ迷いがあったことや,ブログに不慣れだったことがわかります。

 試しに,2月7日,一番最初に書かれた記事「このサイトについて」を読んでみてください。ここにはブログに潜在的な恐怖を抱く大企業が冒頭に宣言したくなるような「法務部作の注意事項」が書かれています。これは,会社が出したい情報,担当者にとって心地よい情報と,お客様が知りたい情報,お客様にとって心地よい情報とのギャップの好事例です。

 ブログの第一声が,なぜこんな注意書きになってしまったのか不思議です。今となっては,この初回記事をわざわざを読む人も少ないでしょう。しかし,この記事を読めば,おそらく多くの読者が「引いてしまう」はずですので,サイトのどこかに移した方が良いでしょう。

 もし,私がセコムの社長だったら,このお堅い文章の代わりにこう書くでしょう。だいぶ印象が違うと思うのですが,いかがでしょう?


 このブログは,一人でも多くのお父さんお母さんや学校の先生方にご活用,ご参加いただけますように開設いたしました。かわいい子供たちを犯罪から守るための知恵を,みなさんと一緒に考える広場にしたいと思います。ここで,見聞きしたこと,参考になったことがあれば,ぜひ積極的にご活用ください。もちろん,わざわざ私たちセコムに連絡することなく,無料で,学校や町内会などの教材としてご活用いただければ幸いです。さらに親子のだんらんの時の話題になればと考えています。ぜひ,みなさんと力をあわせて,子供たちが安心してくらせる社会にいたしましょう!

 前述の「注意書き」の後も,開設当初は,自社商品のココセコムや販促物「防犯絵本」のPRが続いています。これでは,今までの会社のホームページと変わりません。

 しかし,舟生さんが立派なのは,ブログ発信を続けるうちに,お客様が知りたい情報,お客様が発信したい情報へのシフトを図ったことです。おそらくは,ご自身が父親であることもあって,無意識のうちに,自分自身が知りたい情報を自分自身の言葉で語ることになったのでしょう。


ブログ記事三分法 会社のPR,尊敬できるひと・もの・こと,自分自身

 もちろん,饒舌であればいいというわけでもありません。舟生さんは研究員ですから,誰よりも「子供の防犯」に詳しく,何でも語ることができるはずです。しかし,語れば語るほど,会社のPRに見えてしまうケースもあるのです。

 しかし,直近のブログ記事「子供たちを見守る地域の目」を読んでみれば,舟生さんがブログを書き始めたころとは様変わりしていると感じます。

 「セコムの舟生です」と私信のように始まるブログでは,先日,小学校低学年の子供たちとすれちがった時に,自社のCMソングを歌ってくれていたのが「うれしはずかし」だったと率直な印象が語られています。そして,自分の小学生時代の回想へと続くのです。

 なんとブログ的でしょう!

 ここで,またオチがココセコムだったら「がっかりだよ」となってしまいますが,ここでは地域で活動しているNPOなどのWebサイトの紹介へと導かれています。おそらく,舟生さんご自身も尊敬している方たちなのでしょう。

 拙著「ブログ道」でも「記事三分法」についてご紹介しました。自社のPRばかりだと嫌われます。読者の方が知りたい情報に照準を合わせて,ご自身が尊敬している仲間のことをご紹介したり,一個人に戻った時のご自身のことをバランスよく交えてブログをスタートすべきです。そうでなければ,読む方も書く方も長続きしません。それに,志を同じくする同志が紹介しあうブログ縁も広がりません。

 舟生さんは,半年足らずで,その三分法が身について,自然体でブログ発信ができるようになったのでしょう。


読者のみなさんの声に耳を澄ませ,新着記事でもまとめて紹介する

 さらに,舟生さんは最近のブログで「みなさんの“声”をご紹介します」という定期的な記事を運営しています。これぞ,一方通行にならないブログならではの活用法です。

 もうパート5にまでなっていますが,自分の意見が記事に掲載されることで,読者とブロガー,そしてセコムとの距離が近くなるはずです。多くの読者がより親しみをおぼえることでしょう。そして,読者とブログジョッキーとが信頼の絆で結ばれていきます。

 もちろん,担当者も企業も,貴重な読者の意見を拝聴して,商品・サービス開発やブログ運営に生かすこともできます。これこそ,ブログジョッキーの醍醐味とも言えましょう。

 こうして,顔の見えるモデレーター舟生さんが,話のわかる一個人としてブログ道の精進を続ければ,ブログのイメージは変わっていきます。企業ブログ,それも今回の子供の防犯グッズのように,要説明商品の販売にもつなげるブログにおいては,どうしても企業色が強くなってしまいがちです。しかし,今の読者志向で中立公正のスタンスでブログを運営されれば,きっと名実共に「企業のブランドイメージ向上」に役立っていくはずです。

 企業ブログも人なり…,を改めて再認識いたしました

著者プロフィール

 10年前のネット黎明期に,WebサイトでTシャツの販売を始めて事業の柱に育て上げ,数々の賞をものした久米信行氏。企業規模を問わず,経営者や管理職を中心としたビジネス・パーソンの方々に向けて,昨今話題のブログを企業経営に活用する方法を,実際の事例を交えながら紹介する。

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