私は,業務を可視化し改善を加えてITにつなげるためのコンサルタント,すなわち要求開発ファシリテータとして,お客様の業務とITの価値を高めるために,日々,自分自身の能力の限界と闘っている。以下このブログでは,数回にわたり,そのような中で経験した要求開発現場の問題と,その問題への対処法について紹介していく。その後で,そうした問題を踏まえて要求開発方法論Openthology ver1.0がどのような工夫をこらしているかといった観点から,新しくなった要求開発方法論についてご紹介する予定だ。

 なお,ここで紹介する要求開発方法論の詳細については,書籍「要求開発」(日経BP社発行)に書かれている。興味のある方はぜひ目を通していただきたい。

トップ,業務担当,IT担当がコタツでじっくり話し合う

 要求開発において最も大切にすべきメタファ---それが「コタツモデル」である。

 要求開発では,「トップ」と「業務担当者」と「IT担当者」が話し合う「場」を大切にする。コタツとは,皆さんが冬に入るコタツのことである。この3つの役割を持つ人たちがコタツに入ってじっくり話し合うイメージを想像してもらえば,なぜそのような名前を付けたか想像がつくだろう。

 業務を可視化し,改善を加えるなかでIT要求を出していく際に,われわれは非常に重要なことを忘れていたのではないだろうか? そう,ここで登場する3つの役割を担う人々が,コタツに入ってじっくり話し合えるような場を形成していないのである。コタツモデルは,要求開発活動そのものを示すメタファなのだ。

 コタツモデルの中で,3つの視点(トップ,業務の現場,IT)によって,業務の目指すべき姿(To Be)をモデルとして描く。そして,現状(As Is)とのギャップを埋めるために必要となる要求をデザインする---これこそが「要求開発」なのである。

 コタツモデルは実際には,週に1度の業務メンバーと開発メンバーによる活動と,月1回のトップを含めた報告会による活動の報告と承認によって支えられている。ファシリテータとしては,この場全体のモチベーションを高め,活動を活性化するために全力を尽くすことになるのだ。そのために必要とされる調味料として,要求開発方法論(Openthology)を利用することになる。

教訓:
重要なのは要求開発の活動の場を形成すること。その活動の場のモチベーションを高め,活動成果を上げ,かつそれを実感できるように要求開発方法論を利用すべし。

開発者はモデリングの効果に疎い

 要求開発の活動を通して知り合った開発者の方々の中には,UMLモデリングの経験がある人も多い。こうした人々は,UMLについて多くの知識を有している。そのような人々と接する中で気がついたことが一つある。

 それは,「開発者はモデリング効果に疎い」ということだ。UMLのクラス図,アクティビティ図,ユースケース図などを使って業務モデリングを行う知識はあるのだが,実際のモデリング活動をやった結果,どのような効果があったのか,もしくは事前にどのような効果があるからモデリングをやるのかという意識が希薄なことが多いのである。それに比べ,業務メンバーは,UMLは知らないけれども無駄なことはやりたくないという意識が非常に強い。

 なぜ,開発者はモデリングの効果に疎いのだろうか。自分なりにこの点を分析した結果,原因に行き着いた。それは,開発者はモデルという事場に弱く非常に勉強熱心だからである。

 要求開発活動を通してモデリングの経験を積み,きちんと効果を上げていくためには,モデリングの効果をしっかりと意識してほしいものである。それができてこそプロのモデラーではないだろうか。

教訓:
エンジニアは,もっとモデリング作業の投資効果にシビアになるべし。

投資効果を考慮して作業を進める

 お客様のところでUMLを使ってビジネス・モデリングをする際に,自分としてミスを犯したことが一度だけある。それは,モデリングをした後で,成果物であるモデルをどのように利用するかという戦略上のイメージを明確に持っていなかったために生じたミスである。

 そのミスは,業務フローの標準化を目指してフローをUMLのアクティビティ図を使って記述し,その後にアクティビティの中身を業務記述書(シナリオ)として整理する段階で発生した。

 業務記述書を参加メンバーに書いてもらい,それを標準化していくという作業をミッションとして与えたのであるが,それを整理した際にかかった作業コストと比べて,実際にお客さんに感じていただける効果があまりはっきりとしなかった。もう少し効果を予測できていれば,作業コストのかけ方や業務シナリオの詳細度を調整できたのに,それができなかったのが私の要求開発ファシリテータとしてのミスであった。本来あるべき姿は,モデリングをする際に,その作業コストをある程度見積もり,その作業に見合う成果をどのようなところで出していくのかといったことについて,もう少し強いイメージを持っておくべきだったのである。

教訓:
モデリングの効果を十分に見極めて,その作業にどの程度のコストをかけるか決めるべし。

 次回は,ビジネス・モデリングや要求の獲得について,現場で起きる問題とその対処についてもう少し掘り下げてみたい。

(萩本 順三=要求開発アライアンス理事)