インテグレータやベンダーが言ってはいけないのは,「何でもやります」という言葉です。

 「何でもやります」というベンダーは,ユーザー企業からすれば,一見願ってもないことのように見えます。しかし,様々な製品,様々なバージョンが混在する環境で,契約した価格で何でもできるはずはありません。それだけの人員を貼り付けることができるわけはないからです。

 結局しわ寄せは,ベンダーの現場SEに行くことになります。対応させられる現場SEは疲弊し,モチベーションは下がり,システムのサービス・レベルは低下することになります。

 発注者、受注者がそれぞれの責任範囲を明確化し,双方が責任を持つことが,品質の高い,安定したシステムを作るために必要であると私は考えています。双方が責任を持つことで,お互いの苦労が把握できます。片側がすべて持っていては,相手の苦労が実感できず,結果的に無理な要求の連続となり,破綻が起きることになります。

 同じことがユーザ企業側SEと経営者との間でも言えます。経営者が会社のIT部門の将来の方向性や人員体制についてしっかりした指針が出せなければ,ユーザー企業のIT部門の外部への依存体制の脱却は事実上不可能です。

発注者側と受注側で人材の流動化を

 それにしても,なぜこのようなユーザーからベンダーへの責任転嫁と,そのためのシステムの破綻があちこちで起きるのでしょうか。

 私は,発注者側と受注側の立場が固定してしまい,ユーザー企業側は提案を受けるだけ,発注するだけという受身になってしまっていることに原因があると考えています。

 終身雇用によって,発注者側と受注側がある種の“身分制度”のようなものになってしまい,責任を持って指示し決断しなければならないはずの発注者側が,受動的な立場に慣れきってしまってはいないでしょうか。

 当社は,受注者側にいた人員の採用を進めています。発注者側,受注者側の人材の流動化が進むことで,ユーザー企業側のITへの取り組み姿勢を強化することになると思います。

 過激な提案ですが,ベンダー企業も,発注側に応分の責任能力がないと思われた場合は,受注を拒否してはどうでしょうか。受注側がユーザーを選別するということです。難しいかもしれませんが,発注企業側のITに関する意識が大きく変わり,大きな変化の波を起こせるような気がします。