先日,K大学O研究室主宰の産学連携のコラボレーションマネジメントの中間報告会がありました。私は評価委員ということで,前回の第1回に続いての参加です。生徒3~4名で構成するチームが全部で5チ−ムあり,IT企業からもプロジェクトマネジャ(PM)が生徒として参加しています(ただしPMと言ってもPM見習いの方々です)。「人に使ってもらえるソフトウエア」を目的とする,テーマ決定から要求定義→設計→開発→リリースまで一貫したカスタム開発プロジェクトです。プロジェクトの期間は半年です。

 私が興味を持っている着眼点は三つあります。テーマの選定理由と要求定義の進め方,それに問題点への気付き方です。システム・インテグレータは,ユーザーから何々の情報システムを開発して欲しいという依頼を受けると,タクシーのように「行き先は客任せ」でそのシステムを開発します。開発するテーマを選定する義務がないのはイージーではありますが,面白くない。

 情報システムの成功は3割以下と言われています。プロジェクトマネジメントやPMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)の活動で赤字プロジェクトは減少しました。当たり前のこともやってこなかったことが露呈しただけです。

 当初の契約段階に問題があるなら,プロジェクトマネジメントをどんなにうまくやれても,赤字プロジェクトは救えません。しかし,契約問題のクリアだけでは,赤字プロジェクトは無くならないのです。目の前の問題(契約段階でのリスクマネジメント)が解けたら真の問題が姿を現したのです。真の問題とは要求定義です。要求定義でのミス発生率は設計工程や製造工程の1.5倍。発見の遅れや影響範囲の大きさもあり,その修正コストは設計・開発でのエラー修正の20~100倍と言われています。再作業コストは,開発コスト全体の30~50%という調査もあります。

 何を作るかに誤謬(びゅう)があるなら,設計・開発を完璧にやってもアウトです。正しくないシステムを正しく作ることになり,さらに,問題は大きくなります。しかし,正しいと言っても受験のように正解があるわけではありません。

 ユーザーは多様なニーズを持っており,それをITで解決することを望んでいます。ただし,ステークホルダーにより要求は異なります。それゆえ要求定義は分析的や計画的にはなかなか進めません。要素に還元できない創発的アプローチが必要です。要求定義とは,リアルワールドからITワールドへのプロジェクションです。IT化対象となるリアルのビジネスワールドは,偶有性(不測の事態)に富んだ人間系の世界です。設計以降の工程とは,全く異質な世界です。

 システムとは「個々の要素が有機的に組み合わされた,まとまりをもつ全体体系」です。また,ビジネスアプリケーションのカスタム開発は,特定の環境で稼働する特別仕様のソフト製品単品を,一回限りで開発しなければなりません。内部状況変数が極めて多く,正当性の検証が極めて難しい。工業製品や建築物のように外から見えません。


複雑性は違っても本物のプロジェクトと同じ問題が発生

 K大学で学生が行うのは小さいプロジェクトで,本物のプロジェクトとは問題の複雑性が違います。しかし,出現する問題は同じだったのです。要件が決まらない,メンバー間のコミュニケーション・ギャップ,要員の急な入院,能力の差,スケジュール遅延,品質の劣悪さ,当初目的を満足できない成果物,仕様変更,要件に興味がない時とある時の要員のモチベーションの差,プロラミング力だけではプロジェクトを回せない, 感じるセンスと気付き方,プロジェクトが中々立ち上がらない,パーキンソンの法則(リソースを使い切る),デッドラインエフェクト……。 これらの問題発見にこそ,実証プロジェクトの価値があると感じました。問題が出てナンボです。問題が解けなくても良いのです。問題解決より問題発見です。
 
 最初の試行で50点以上とれたら大合格です。ダンダン良くなる法華の太鼓です。彼らは問題点に気付いた上でテクノロジを学習します。問題解決にテクノロジをいかに活かすかというスタンスで聞けば,単なる知識修得に比べ物凄い効果です。

 プロジェクトXはPMBOKから見たら絶対プロジェクトではないと揶揄(やゆ)されました。でも,そこには新しいものを世の中に出すという向こう見ずな勇気や熱情がありました。ワイガヤ,大部屋,合宿,同じ釜のメシを食う……。日本の製造業の挑戦の原点です。PMBOKに関係なく,プロジェクトXの世界はプロジェクトXです。

 モノ作りの喜び,ユーザーが喜んでくれる顔,賞賛の声,問題の解決やターゲットドメインで役に立つものを作るというミッション,登頂した達成感。そんな達成感がなければ,次のプロジェクトをやる勇気やモチベーションは湧いてきません。それらが根底になく,ただ,構築するためにリスクマネジメントされるだけなら,SEなんて面白いはずもない。学生の教育プロジェクトではありますが,システム・インテグレータの問題が凝縮していたのです。