わが地元の東京商工会議所墨田支部で、私はIT分科会長と墨田ブランドアップ会議メンバーを拝命しました。微力ながら、地域情報化や地域発の情報交流のお役に立とうと努力しております。自らの社長ブログでも、地元のグルメ情報やイベント情報を発信しておりますし、ブログを使った地域情報サイトなども有志と始めようとしているところです。

墨田区長がブログを見ようとしたら...表示されない

 そんな中、ブログ仲間の墨田区役所スタッフと話していて、大変驚いたことがありました。なんと「区役所内のパソコンでブログを見ようとしても表示されない!」とおっしゃるのです。

 正直に言えば、「そんな....ありえない」と思ってしまいました。お金も運営コストもほとんどかからない「究極の広報ツール=ブログ」を活用していないことも驚きでした。しかし、職員が見ることさえもできないのです。

 これでは、ブログに綴られたネット市民=智民のご意見ご要望やクレームを見ることができません。その上、コメントやトラックバックを通じてのお礼やおわびをすることもできないのです。

 また、こんなエピソードも教えてくださいました。墨田区長の山崎昇さんと商工会議所役員との懇談会の席で、たまたま私の楽天ブログに書いた「すみだタワー」の記事の話題になりました。一個人ブログながら、すみだタワーと検索すると上位表示され、アクセスも多いという話です。

 その後、ありがたいことに、山崎区長は自ら区役所で検索をしてくださったそうです。たしかに私のブログが表示されたようですが、クリックすると.....表示不可。私は、気さくな山崎区長にブログを見ていただくという、滅多にない好機を失ってしまったようです。

他の自治体でも、霞ヶ関でもブログは見られない?!

 そこで、「役所でブログはご法度」問題に関心を持った私は、勉強会などで自治体や官公庁の方にお会いするたびに質問をしています。

 「ブログを所内LANで見られますか?」

 しかし、今のところ、ブログやSNS(ソーシャルネットワーキング)活用に熱心な総務省のブログ担当の方などをのぞけば、「NO」という答えが多いようです。

 一番驚いたのは内閣官房のLANでもブログは見られないということでした。これは、首相官邸の近くでは地形のせいか携帯電話がつながりにくいと聞いた時と、同じぐらいショックでした。首相の側近は、ブログにあふれるゴミ情報も含めて、あらゆるネット情報を集め、徹底的にテキスト検索を行い、有用有害情報を抽出していると思っていたからです。(もちろん、公安など専門部隊がいるとは思いますが....)

 もちろん、NO!と答えた後には、どういう理由でブログが見られないようになっているか聞いてみます。しかし、直接の担当部署ではない限りは、どうもはっきりした理由が分からない場合が多いようです。

セキュリティ志向と勤怠管理でフィルターがかかる

 そんな中でもなんとか聞くことができた意見をまとめますと、その理由は二つに集約できるようです。

 一つめの理由は、うっかり危ないサイトを職員が閲覧して、役所のシステムがウイルスやスパイウエアなどの被害に遭ってはいけないというセキュリティ上の理由です。

 しかし、ブログはもともとXMLとHTMLで書かれたホームページに過ぎません。もちろん、そこに悪意のプログラムを書き込むことはできるにせよ、その危険は一般的なホームページとさほど変わらないでしょう。もちろん、ファイアウォールやウイルス・スパイウエア対策ソフトを使い、使用ブラウザと設定を統一すれば、リスクを軽減させることもできるはずです。

 また、多くのブログサービスは大手プロバイダーやショッピングモール運営者など大企業などから提供されています。「あの有名ブログサービスでウイルス感染した。情報漏えいした」などという風評がネットで出回れば、その会社は信用を一気に失ってしまいます。ですから、サービス提供者の責任で危険排除の努力がされているはずです。

 もう一つ目の理由は、職員が、勤務時間中に仕事をしているふりをしてブログ閲覧や書き込みを楽しまれたら困るという勤怠管理の理由だそうです。

 たしかにお遊びのブログで楽しまれては困りますが、各職場に関わりのあるブログを定期的に読んだり、重要なキーワードで定点検索をすることは、実は大切な業務の一部だと思います。むしろ、今以上に市民や識者の意見に身近に触れたり、意見交換をできるはずです。ですから、使える人・時間・ブログを限るなどの戦略的な活用ルールを決めて、職務規定に明記すれば良い話にも思えます。

システム担当者とSI業者は、ブログ情報の戦略的活用には無頓着

 そう考えますと、わざわざブログを目の敵にする必要もないと思います。

 しかし、多くの場合、役所のシステム担当者が、フィルターソフトを提供している出入りのシステム業者に勧められるがままになっているようです。また「いつの間にかフィルターがかかっている」ケースがも多いようです。「つい、この前までブログが見られたのに....」という意見もよく聞かれました。

 おそらく、Winnyによる情報漏えいなどでセキュリティ意識が高まったこともあって、システム担当者とシステム業者がリスク回避のために断行したのでしょう。たしかに両者にとってセキュリティを高めることこそが、意見収集や広報活動よりも大切なのですから。

 おそらく、こうした「小変更」は、他の部門や、幹部への報告事項にも入っていないことでしょう。かくして、誰も知らないうちに、静かに「役所の耳と口」は閉じられてしまっていたのです。

首長直属で、基幹各部門・広報部門も交えたブログ対策チーム結成

 さて、私が市長か区長、いわゆる首長だったら、ブログをどのように戦略的に活用するでしょうか?

 まずは、首長直属のブログ対策チームを作ります。専従は、とりあえず2~3人もいれば良いでしょう。選ぶ方法は、全職員からのアンケートつき公募です。アンケートや自己紹介シートを通じて、個人ブログやSNS活用歴が長く、アクセスもネット仲間も多く、地域情報も既に積極的発信している「隠れブロガー」を探すのです。

 さらに、ブログ対策チームには、首長や助役はもちろん、経営企画、観光振興、産業振興、文化振興、広報などのキーマンに参加してもらいます。開催は、みなさんお忙しいでしょうから、月に1回で十分です。他の幹部会議の日程を活かし、その前後に行っても構いません。

 とにかく、部門横断型のプロジェクトチームにすること、その場で区長も交えて即断即決をすることと、きちんとTO DO LISTを作って毎回進捗を確認すること大切です。そして、全職員がブログを見られない状況にあっても、まずは、このブログ対策チームのメンバーからはブログ閲覧と発信を自由にします。

 その会では、毎回、専従ブロガーが集めた情報を整理して、各部門のキーマンに報告します。主に、検索エンジン結果の定点観測結果と、役所のホームページ・ブログのアクセスやコメント状況、有力市民ブログの情報が中心になるでしょう。

 その結果、起こすべきアクションを事前にTO DO LISTの形式にして、首長と助役の承認印をいただいてから、全員に配ると良いでしょう。同時に各部門から、専従ブロガーに来月広めて欲しい情報などがあれば、それもTO DO LISTに加えて課題とします。

 こうしたブログ対策チームの会合を毎月開催して、着実にTO DO項目を実行していくだけでも、情報収集・交流の量と質を高めることができるでしょう。同時に、意思決定や行動のスピードが加速されるはずです。

専従ブロガーは、広報ブログで、検索エンジン対策と情報発信

 専従ブロガーの仕事はきわめて重要です。

 まずは、日々ブログウォッチをして、重要検索ワードの定点観測を行います。そして、役所発の情報が、きちんと検索エンジン上位に表示されているかチェックするのです。もしも上位表示されないようであれば大問題で、市民がネットで情報を探せないことになります。

 また、仮に役所のホームページが上位に表示されたとしても、その情報の内容が陳腐化していたり、貧弱だった場合は問題です。もちろん、ホームページを速やかに更新できれば、それに越したことはありませんが、縦割り組織と厳密な予算管理のもとでは、なかなか難しいでしょう。

 そこで、専従ブロガーが機動的に情報を発信できる「広報ブログ」が重要になります。そこで、ホームページを補う情報をタイムラグなしに発信するのです。私も愛用している日本財団の公益ブログサービスCANPANを使えば、無償で立ち上げることもできましょう。ブログは、もともと検索エンジンに強いこともあり、公式ページと相互リンクすれば、双方のサイトが上位に表示される可能性が高いはずです。

 そのブログの情報源につきましては、ブログ対策チームに参加している関連部署のキーマンから提供を受ければ良いでしょう。当初は、専従ブロガーが提供された情報の入力や発信の代行をしますが、可能なら、関連部署に発信担当者を育てて、1日30分だけ協力してもらえるようにします。各部門で情報検索をして、その結果に基づき情報発信をする仕組みができるからです。

重要テーマについては、専用のブログを立ち上げる

 また応用編にはなりますが、重要なテーマについては、別途、専用のブログを企画して速やかに立ち上げます。そうすれば、そのテーマだけについて、数々のキーワードもちりばめながら、繰り返し情報発信をすることができるからです。

 そのダイジェスト版を広報ブログにも掲載し、相互にリンクしあえば、強調したい重要な情報の数々を確実に届けることができるでしょう。

 こうした専用ブログの企画から立ち上げまで、1週間以内でできるようになれば最高です。慣れれば決して難しくはないはずです。少なくとも、ブログ対策チームの会議で、あるキーワードでの検索エンジン対策や情報発信に不備があることを報告した後、次回までにブログが完成させたいものです。

 専用ブログが完成した後は、徐々にその所轄部署のスタッフに引き継いで、自主運営できるようにすればいいでしょう。専用ブログが次々に生まれ、それぞれの部署で情報発信が始まれば、市民との距離も近くなります。

有力市民ブロガー探しと良好な関係づくり

 さらに重要なことは、有力市民ブロガー探しです。重要キーワードで検索上位に表示されるブロガーとは良好な関係を築く必要があります。

 地域のイメージを向上させ、市民に役立つような望ましい情報を発信している市民には、首長の言葉も借りながらお礼のコメント・トラックバック・メールを送りたいものです。首長直轄の公式ブロガーからの、あたたかいエールを喜ばない人はいないでしょう。

 もちろん、クレームやお怒りの情報を発信している方には関係を修復すべく、メール、電話、面談などを試みます。それが誤解に基づくものであれ、意味のある苦言であれ、真摯に応対すれば、心が通じるケースがほとんどでしょう。メールのやりとりでは憎悪が膨らむ場合も多いので、近くに住んでいる方とは、なるべくお会いした方が良いでしょう。

 こうして、有力ブロガーと人間関係ができたら、首長か助役も同席した「市民ブロガー懇親会」を開いても良いでしょう。役所のとびきりの会議室でのお茶会では、参加された市民ブロガーも感動して、建設的な意見の数々をお話しくださると思います。そして、首長の人柄や言葉に感銘を受ければ、それぞれのブログで熱いエールを送ってくださるかもしれません。

理想は、首長自らがブログとSNSに参加すること

 先日、千葉大学で開かれた「地域メディアの役割と将来展望考察」というフォーラムでパネリストを務める機会がありました。その会の冒頭の挨拶で、古在 豊樹学長が衝撃的なスピーチをされました。

 実は、あの若者でごった返すSNS「mixi(ミクシィ)」にひそかに参加しているとおっしゃるのです。もちろんニックネームで参加されているそうですが、そこで、繰り広げられる大学についての気さくなおしゃべりが、経営の大いなるヒントになっているというお話でした。

 首長が多忙なのはよく存じ上げた上で、あえて提言いたしますと、首長ブログを通じた情報発信と、地域SNSなどへの実名、匿名での参加が有効なのは間違いありません。もちろん、そこで築かれた親密な関係は、次の選挙での信任にも大きな影響を与えるはずです。

 首長自らブログ対策チームを率いる役所が出てきた時に、きっと所内外の風通しは一気によくなり、地域情報化のスピードも本格的に加速するでしょう。